2020年6月3日水曜日

9月入学への拙速な議論 識者が反対する3つの理由

Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0bedea3322a9ac1c9c73110e7c76039555402692

配信、ヤフーニュースより

日経DUAL

コロナ禍による約3カ月間の休校リカバリー策として、急きょ「9月入学・進級」体制への移行案が浮上しました。わが子はいったいどうなるのか、という不安な気持で成り行きを見守っているパパ・ママも多いでしょう。首都圏の緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日に、「#9月入学本当に今ですか?」プロジェクトチームによる記者会見が行われ、登壇者らは「今は9月入学を議論すべき時期ではない」という主張を訴えました。政府・与党は2020年度、21年度の導入を見送る方針を打ち出しました。同プロジェクトチームはどんな理由から9月入学に反対したのか会見の内容をリポートします。 ●今は平常時ではなく、他に優先順位が高い課題がいくつもある  「#9月入学本当に今ですか?」プロジェクトチームは、日本大学文理学部教授の末冨芳さんと、貧困世帯の子どもの学習支援に取り組むNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんが発起人。賛同人として教育者の陰山英男さん、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん、ジャーナリストの白河桃子さんやおおたとしまささんなど、教育関係者から子ども・若者支援の最前線で働く人まで、71人(5月28日時点、発起人以外の賛同人の数)が名前を連ねています。  文部科学省内の講堂内の会場とオンラインのハイブリッドで行われたこの会見で、登壇者は「9月入学への移行を議論することは大切。でも今は平常時ではなく、他に優先順位が高い課題がいくつもある。まずはそれらの課題解決をスピーディーに行う時期ではないか」というプロジェクトチームの主張を、各自の立場から訴えました。  登壇者らの話と配布された資料の内容を元に、「今議論すべき時期ではない」という主張の主な理由を3つに分け、紹介します。 ●1)莫大なコストや負担がかかる  日本教育学会の試算によると、9月入学・進学への移行のために、約6.5兆円ものコストがかかります。また、オックスフォード大学の苅谷剛彦教授や一般社団法人グローカルアカデミー代表理事の岡本尚也さんらの研究グループがまとめた「9月入学導入に対する教育・保育における社会的影響に関する報告書[改訂版])によると、移行方式によっては待機児童数は激増(保育26.5万人、学童41.1万人等)、教員は最大で6.64万人の不足が生じるといいます。  会見では登壇者らが、「9月入学・進学にお金を出す余裕があるなら、新型コロナで経済的に困窮している貧困世帯への支援を優先してほしい」「オンライン授業など教育のICT化を進めるためのタブレットの支給のほうが急務ではないか」「休校で著しく学習に遅れが出ている子どもの支援を急ぎたい」などと、多くの問題を抱えた現状での9月入学・進学への移行に対して見直しを求めました。 ●2)教職員向けアンケートで回答者の半数が反対  教育関係者向けの研修などを行うDemo代表・教育ファシリテーターの武田緑さんは、小中高校の教職員向けに5月24日と25日に行ったアンケートの結果を紹介しました。回答1276件のうち53%が反対。賛成は24%、どちらともいえないが23%という結果でした。  賛成を表明した教職員からは、「現状では授業時間の確保が困難」「修学旅行にどうにかして行かせてあげたい」「受験勉強が大変になったらかわいそう」「グローバルスタンダードに合わせたい」という声があがりました。一方、反対意見としては、「コロナですでに教育の現場が混乱している」「学習内容の精選など、先にやるべきことが他にある」などの声が集まりました。  会見では、ほかにも「小中高に未就学児まで含めた社会全体が一律に9月入学・進学に移行すべきなのか、議論が不十分」といった意見も。子ども、保護者、教職員ともにコロナによる急な対応に追われ、疲弊している中、9月入学・進学に移行することでさらなる疲弊が起きるのではないかという危惧も指摘されました。

肝心の「グローバル化」効果も…

●3)「グローバル化」効果も限定的?  「世界標準に合わせて入学時期を9月にすることで、海外留学がしやすくなるという声もあるが、実際は、9月にしたからといって留学する日本人学生が増えることは考えにくい」と話すのは、日本人の米国や英国のトップスクールへの留学を支援する、クリムゾングローバルアカデミー日本法人代表の松田悠介さんです。  その理由の一つに、留学を阻害する要因としては、「経済的な理由」と「語学力の不足」が圧倒的だからだといいます。「グローバル化のためには、まずは奨学金制度の拡充や、英語教育の抜本的改革を進めることが本質でしょう」と松田さんは言います。  留学先にも注目。欧米のように9月入学ではなく、最近はオーストラリア(1月入学)、ニュージーランド(2月入学)、フィリピン(6月入学)、韓国(3月入学)などの留学先も人気で、それぞれ入学時期が異なり、必ずしも欧米基準の9月に合わせる必要がないとも言います。  松田さんは、9月入学に移行することで海外からの留学生を受け入れやすくなるかどうかにも言及。「現在は、日本の大学等の高等教育機関で学ぶ海外留学生の出身国として、中国が41.4%、ベトナムが20.1%、ネパールが7.3%、韓国が7.0%で、それぞれが、9月や4月、3月などとバラバラの時期に入学している。一律で9月入学に移行しなくても留学生の受け入れは可能」と指摘します。  2019年の世界大学ランキングでは、東京大学が36位、京都大学で65位と、上位に食い込む日本の大学は非常に少ないのが現状です。「海外から見た、日本の大学で学ぶ魅力を上げることも急務。入学月を変更するよりも前に、教育の質を高めることのほうが優先順位が高いのでは」(松田さん)  「#9月入学本当に今ですか?」プロジェクトでは、議論の延期を訴えるべく署名活動を行い、5月28日12時30分の時点で5000人を超える署名が集まりました。  「私たちは、9月入学を否定するわけではない。グローバルスタンダードに合わせて変化することも重要。でも、仮に今、9月入学に移行しても、新型コロナウイルス流行の第2波、第3波が起きれば、また休校となるかもしれない。これ以上学ぶ時期を遅らせるのではなく、まずは教育のオンライン対応や学びの質向上など、優先順位の高い課題にスピーディーに取り組むことが大切。コロナが落ち着いた後に、議論をしっかり行った上で9月入学を検討すべきではないか」という「♯9月入学本当に今ですか?」プロジェクトチームの総意を訴えました。 取材・文/西山美紀 イメージ写真/PIXTA

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