2020年6月17日水曜日

増える外国人住民の子ども世代 中国にルーツを持つ東大生が考える日中関係

Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c85c9accd4810313906b39cac7bac07a380c6ca6
6/15(月) 18:00配信、ヤフーニュースより

Forbes JAPAN

日本の人口は2020年4月時点で1億2596万人(総務省発表)と、2008年の1億2808万人をピークに減少が続いている。一方で、日本で中長期的に暮らしている外国人人口は2019年末時点で293万人(法務省発表)と過去最高を示している。 人口減少が課題となる日本社会において、外国人が人口維持や労働力確保の観点で重要な位置づけとなっていることは間違いなく、日本政府も「特定技能」と呼ばれる新たな在留資格を創設するなど、この動きを後押ししている。 以前は、外国人住民というと、歴史的経緯からか、日本社会で暮らす朝鮮半島にルーツを持つ人たちをイメージする人も多かったかもしれない。しかし、年々就職などで来日して中長期的に日本で暮らす外国人が増加し、2007年には中国出身の外国人住民が朝鮮半島出身者を超え、ここ数年ではベトナムやネパールなどの東南アジア出身者も急増するなど、大きな変化を迎えている。 このような状況で忘れてはならないのは、外国人住民の子ども世代が続々誕生していることである。両親ともに外国籍だが、日本で生まれ育ち、両親の母国や母語を知らない子どもたちも少なくない。 中国人の両親を持ち、千葉で生まれ育ち、現在は東京大学に在学中の王航洋さんも、そんな子ども世代の1人だ。 3年前まで、日中学生会議の代表を務め、日本と中国の若者の相互理解に取り組んでいた王さんは、その後もっと深く自らのルーツの国を知るため北京大学に留学。帰国後は自ら起業して、「Trippy」というガイドを探している旅行者とガイドをしたい人をマッチングするアプリを開発し、今年の2月にリリースした。 増加する外国人住民の子ども世代は、日本と両親の母国にどのような意識を持ち、どのように生きているのだろうか。王さんに聞いた。 ──留学から戻り、自ら起業してアプリを開発するに至ったきっかけとは何だったのでしょうか? 最初は、日本語を学ぶために日本に来たばかりの中国人留学生と、日本語を教えたい日本人をマッチングさせるサービスを考えていました。ですが、協力してもらう予定だった人や会社との関係づくりがうまくいかず、途中で頓挫してしまいました。 諦めきれず、別のアイデアを考えていたときに、以前に出場したビジネスコンテストで提案した観光関連事業を思い出しました。また、旅行業法の改正により、ガイドに資格が不要になったことも追い風となりました。 「Trippy」は、地元の人にガイドをしてもらうことで、旅行者がより深く地域文化を味わうことができたり、現地の人たちと交流することができたり、お仕着せのツアーでは味わえない旅の体験ができます。 ガイドする側にとっても、地元の魅力を伝えたい、外国人や他のエリアの人たちと交流したい、空いている時間でお金を稼ぎたいなど、さまざまなことが実現できます。 千葉人という感覚のほうが強い ──日本と中国というポイントに着目されているのは何か背景がありますか? コロナ禍の前までは、中国からの観光客が増えていたので、ビジネス的観点から中国人観光客と日本人ガイドをつなぐことをメインターゲットとして考えていました。 もちろん自身のルーツが影響しているかもしれません。両親は中国出身で、父は日本に留学中、母は仕事で来日しているときに知り合い、結婚しました。私は生まれも育ちも千葉で、中学生のときに家族全員で日本国籍を取得しました。 ──自身のルーツは意識されることが多いですか? いいえ、そんなことはないです。思い返せば、小学生くらいのときはそのことで軽いいじめにあったような記憶もありますが、そのうちなくなりました。いまでは、自分自身も周囲もルーツのことはほとんど意識することがないです。 千葉で生まれ育ちましたので、自身は日本社会の一員としての意識が強いです。正確に言うと、千葉人という感覚のほうが合っています。ですが、日本と中国の関係性に対する強い興味は持っています。

感情的な対立になってしまう

──私が王さんに初めて会ったときには、日中学生会議で代表を務められていましたね。 日中学生会議は、日中両国の大学生でつくられた団体です。メインの活動は毎年夏休み期間に実施する合宿形式のディスカッションイベントでした。開催国は交互で、両国の大学生が交流を深めながら、テーマを決めてディスカッションを行います。テーマは、環境問題、教育、格差、安全保障、歴史認識、経済関係など幅広く、参加者はいずれか1つを選択します。 私は最初、アジアのなかの日本について考える良い機会になると思い参加しました。周囲には無条件に欧米を称賛するような考え方をする人が多かったのですが、私は以前から違和感を覚えていました。そして、日本の独自性とは何かを考えたときに、日本の文化に大きな影響を与えた中国との関係性に関心が向いたのです。 ──日中学生会議での活動を通して、どのようなことが見えてきたのでしょうか? 大きな断絶を感じました。日中学生会議に参加している学生たちは、大前提として友好や交流を目的としています。にもかかわらず、歴史や安全保障の話になると、建設的な議論を超え、感情的な対立になってしまうのです。 なんとかこの壁を乗り越えることができないものかと思い、代表に就任してからは、相互理解と日本人学生の中国への理解の推進を目標に、さまざまな活動をしてきました。 夏休みのイベントのほかにも、フィールドワークや勉強会を重ねるなかで、交流の時間や多角的な視点が交わる機会を増やしました。また、外の人に対しても、中国のさまざまなテーマに関して興味がある人たちを集めて討論会を開催するなど、いろいろな価値観がぶつかるよう務めました。 しかし、討論会の集客には苦戦し、思っていた効果は得られませんでした。翌年以降も継続させようとしましたが、自分が引退した2年後にはこうしたフィールドワークや討論会はなくなってしまいました。 留学して中国という国を肌で感じた ──苦戦されたのですね。その後に北京大学に留学された? 実際に現地に飛び込んで学んでみようと留学しました。中国という国の仕組みやその実像に迫りたいと思い、中国の政治学や社会学を勉強しました。これまでは日本視点でしか中国を見たことがなかったので、中国を理解するため、自分自身が中国の視点を持ちながら学ぶことに徹底しました。 日本では表面的に「中国の行政は賄賂が横行していて腐敗している」と捉えられていますよね。現地で国家公務員の志望の同世代や実際に国家公務員として働く人たちから話を聞くと、そもそも背景に国家公務員の給与が安いことや、労働環境が悪いということがあるとわかり、現地の状況を肌で感じました。 また、政治学の授業では、中国と台湾の政治体制が比較されていました。そこでは、中国では優秀な人材が正当に評価されて役職につくが、台湾の議会政治は選挙によって混乱が起き、人気などの人材の優秀さとはかけ離れた部分で政治家が選ばれるので、「よくない政治」として教えられており、学生たちもその理論を違和感なく受け入れていました。

リアルな中国で得た視点

日本にいたときは、中国の人たちが自国の政治体制をよいと思っていることが信じられませんでしたが、彼らなりの合理的な考えがあることがわかり、中国人の思考の一端に触れることができました。 一方で、政治に関して独裁色の強い中国において、北京大学は比較的学問の自由を守っていることに驚きました。憲法学の教授の授業を受けてみると、現状のシステムに対して批判的で、すでにその著書も発禁となっている人でした。しかも、その授業が必修で人気授業なのです。中国といっても本当にいろいろあるのだなと思いました。 リアルな中国を体験したことで、日本に帰国してからも、中国に関する言説を聞いたときにすんなり受け入れるのではなく、多角的な視点で考えることができるようになりました。 ──現地のリアルな現実に触れることの重要さを身にしみたということなのですね。 まさにそうです。そして、その感覚は、今回立ち上げたサービスや会社の理念にも強く反映されています。これまでのツアーが悪かったわけではないのですが、ショーケースのなかの日本というか、観光客に見せるためにつくられたもので喜んでもらっていただけだったのかもしれません。 そうではなく、地元の人々がディープな日本を案内することで、人と人が向き合い、日本の複雑性や懐の深さを伝えることができると思います。このサービスが国家を超えて、個人と個人の交流が促進され、これまで染みついていた固定観念を壊し、真の相互理解に繋がることを願っています。 王さんのように、自身のルーツを大切にしながら、場合によってはルーツを生かして日本社会の一員として活躍している人は少なくない。そして、日本社会も多様なルーツを持つ人たちによって支えられている。 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本で暮らす外国人住民にも大きな影響を与えている。「コロナ切り」と呼ばれる解雇が相次ぎ、政府もこれまで転職が認められていなかった技能実習生に、特別措置として転職を認めるなど対策に乗り出している。技能実習生などは在留資格の性質上、子どもがいるケースは少ないかもしれないが、このようなニュースが、日本社会で暮らす外国人住民にどのようなメッセージを与えてしまうのか、心配でならない。 外国からの技能実習生においては、国内の受入企業の約7割が法令違反をしているなど、信じられないような実態も明らかにされてきている。一方で、外国人住民との共生やサポートを行う企業や団体が活躍していることも事実だ。 外国人住民も間違いなく日本社会の一員であり、これからも王さんのような子ども世代は増えてくるだろう。そんなとき、多くの子ども世代の人たちに日本社会の一員であることで幸福を感じ、貢献したいという想いを持ってもらえる社会でありたいと思う。

谷村一成

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