2019年2月12日火曜日

日本に労働者を送り込むネパールのブローカー暗躍 韓国のEPSを参考にとの声も

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190205-00010006-newsweek-int
2/5(火)、ヤフーニュースより


日本政府が外国人労働者の受け入れ拡大を狙い、新在留資格を4月から導入するのを前に、日本に多くの移民を送り出してきたネパールでは、自国民の生活、労働環境を保障するため、日本との政府間合意を求める声が高まっている。背景には、移民先での虐待や、出国準備を担うブローカーが絡む搾取といった問題がある。
語学力と適応力に高評価
昨年6月末時点で、日本に暮らすネパール人は8万5000人超。在留外国人の国籍別では、中国、韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジルに次いで6番目に多い。日本政府が2008年にまとめた「留学生30万人計画」などを背景に、過去10年で7倍超に急増した。日本では留学ビザで週28時間を上限にアルバイトとして働けることから、就労目的で来日する留学生も多い。

日本政府関係者は、ネパール人について「もともと国内に100を超える民族があり、互いにコミュニケーションを取る必要性から、さまざまな言語を話す能力、適応力に優れている。日本語習得にもさほど時間はかからないようだ」と評価する。

隣国インドでは、渡航に査証が不要なこともあって多くのネパール人が働いており、「正直で勤勉」というイメージを持たれている。英国や英連邦の国々が、ネパール人の精鋭傭兵(ようへい)部隊「グルカ兵」を重用するのにも同じ理由があるとされる。

ネパールは、中国とインドに挟まれ、世界最高峰エベレスト(8848メートル)がそびえ立つヒマラヤ山脈沿いの人口約3000万人の小国。2008年に王制から共和制に移行したものの、政治家は政争に明け暮れ、経済発展が遅れている。労働力を吸収できる大きな産業がなく、2016年の1人当たり国内総生産(GDP)は、アジアで最低レベルの約850ドル(約9万3000円)。出稼ぎ労働者からの送金はネパール経済にとって重要で、国際労働機関(ILO)の調査では、2015年のGDPの約3分の1を占める。

ネパール政府の統計では、2017年の移民労働者は約35万4000人。移民労働局幹部らによると、公式な労働許可を得ずに出国するケースも多く、実際はさらに多数が海外で就労しているとみられる。

最多はマレーシア、次いで湾岸諸国への渡航が多い。移民労働者問題についての著書がある地元メディアグループ・カンティプルのジャナク・ラジ・サプコタ記者は「渡航費用や語学能力、専門技術が十分でない人はマレーシアや湾岸諸国へ働きに行く。一定程度の費用を負担でき、勉強ができる人は日本へ、さらに余裕がある人はオーストラリア、欧州、米国に留学後、現地で就労先を探すという図式だ」と説明する。

渡航に際し、受け入れ先を見つけたり、必要書類をそろえたりするにはブローカーが大きな役割を果たす。このブローカーが受け入れ先と共謀し、書類を偽造するなどして労働者を劣悪な環境に追い込んだり、キックバック目当てに制度の実質的「悪用」に手を貸したりするといった問題が多発している。
「毎日3、4遺体が帰国」
サプコタ氏は、移民先で「奴隷労働」が行われており、特にマレーシア、湾岸諸国からは「連日3、4人の遺体がネパールに帰ってくる」と指摘する。多くが、酷暑の建設現場などで長時間の仕事に従事している。

移民を送り出す際、政府から許可書類の発行を受けず、渡航に査証が不要なインドなど複数箇所を経由させるといった手口を取るブローカーが多数存在する。そうした「不法移民」の労働環境は劣悪となり、就労先で負傷、死亡しても満足に保障が行われないどころか、遺体の帰国に「数週間から2カ月近くかかる」ことも珍しくないのだという。

国際移住機関(IOM)とともに、世界中のネパール移民の救援に当たるNGO「ネパール移民調整委員会」のクル・プラサド・カルキ議長は「ブローカーが『室内の仕事だ』と紹介しても、実際は最高気温40~45度の屋外で肉体労働を強いられるケースも多い。パスポートや携帯電話を取り上げられ、17年間も中東の砂漠の道路工事現場を転々とさせられたケースもあった」と憤る。受け入れ国で労働法制が機能しておらず、警察や政府機関も就労先と結託していてまともな対応は期待できないという。

こうした中、日本への期待は高まっている。カルキ氏は「日本は自国民と同様、外国人にも労働法制を厳格に適用する。新制度の下、日本で働くチャンスが増えれば、移民先としての人気も高まるだろう」と予想する。
留学生が週50時間も就労?
2018年6月末時点で日本に住むネパール人のうち、約3分の1は留学生。各滞在資格の中で最大の割合を占める。

ネパール人留学生の動向に詳しい日本人専門家によると、ネパールには留学をあっせんする語学学校兼ブローカーの「コンサルタンシー」が多数存在する。地道に日本語教育を行うものもある一方、「勉強しながらお金がもらえる」とのうたい文句で勧誘を行い、簡単な日本語を教えた上で若者を日本に送り込んでいるものも多いという。コンサルタンシーは政府の許可を受けて業務を行っている。政府は規制を強め、業界団体も正常化に努めているが、解決には至っていない。

外国人留学生は、日本では週28時間を上限にアルバイトで働けるが、調査を進めた結果「週50時間程度」働いている場合も珍しくない。

首都カトマンズ中心部のバグバザール地区では、立ち並ぶ雑居ビルに軒並み「留学」「コンサルタンシー」の文字が踊る。事務所数は、ざっと見回した感じでも100は下らない。

サプコタ氏は「悪質業者と日本にある日本語学校、アルバイト先とが結託し、労働者として学生を送り込んでいる」と指摘する。事前に受けた説明と違い、ホテルなどで長時間労働を強いられるケースも増えている。

バグバザールにあるコンサルタンシー「あさひ日本語学校」のカウンセラー、ロシャン・バンダリ氏は「うちの学校では(基本的な日本語が理解できる)日本語能力試験N4レベルに合格しないと留学させない。でも(よりレベルの低い)『N5でもいいから送れ』と言ってくる日本の学校もある」と語る。「レベルが低くても、日本大使館で実施される面接に通れば留学ビザは発給される」ことを利用し、労働力が目当ての「留学生」を求めているとみられる。

カルキ氏は「入学時にきちんとした学校かを判断するのは困難だ」と指摘する。カトマンズの携帯電話修理店で働くバサンタ・マハタラ・チェトリさん(24)は、費用をためて日本に留学し、将来は日本で同じ仕事に就くことを夢見ている。「ブローカーがたくさんお金を取り、日本で3、4年働いてもお金がたまらない人がいるのは知っている」と話す。ただ、自分の入学先は「学校に入れば、日本行きの手続きをすべてやってくれると言っている。悪質かどうかは知らない」とほほ笑むだけだった。

地元記者らによると、学生は渡航費用などを含め、100万~150万ルピー(約100万~150万円)を支払う。地元の金融業者から借金して来日し、返済や学費、生活のためアルバイトに明け暮れるケースが多い。
移民の労働環境整備を
ネパールでは、新在留資格について「日本が労働移民を求めている」と報道され、カトマンズ市内のコンサルタンシー入り口には新聞記事のコピーが貼られていた。すでに「新在留資格対応」をうたった業者も出現。移民労働局は1月初旬に「日本とはまだ、正式な取り決めをしていない」と注意喚起した。

こうした中、専門家がそろって指摘するのは、政府間合意による透明性の高い制度の必要性だ。マレーシアや湾岸諸国ほどではないにせよ、日本でも技能実習制度をめぐり、悪質なブローカーが介在するケースが後を絶たないことはネパールでも知られている。

移民労働局担当課長のボラ・ナス・グラガイン氏は、韓国との間で2004年に開始された雇用許可制度(EPS)が参考になると語る。政府間で協定を結び、労働者の出入国を一元的に管理する制度で「ブローカーが介入する余地を比較的抑えられる」のが特徴。「EPSをモデルケースに」という意見は、他の専門家の間でも一致していた。ただ、EPSの下でも「時間外手当の不払いや職場での虐待」(カルキ氏)が起きており、当然、改善は必要だ。

取材では「労働力として期待するなら、日本はネパールで語学能力や専門技能を高める教育に投資してほしい」、「年金や保険制度を含め、外国人が社会に溶け込める工夫を」といった意見も相次いだ。複数のコンサルタンシー関係者は「若者は人生を賭けて海外に行く。留学ビザを取るのがいいのか、新制度を使うのがいいのか。様子見のため、渡日する人は一時的に減るのではないか」と語った。

※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
竹田 亮(時事通信社ニューデリー特派員)

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