Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/478bf736bca4707655777e33448752d9018a3c8e
今年もようやく、東京や大阪でヒートアップする中学受験戦線が幕を閉じた。 進学塾の先生たちが近年の受験の変化として挙げることの一つが、中国をはじめとした海外にルーツを持つ子供たちの受験者の増加だ。これまでも増加傾向にあったが、ここにきて特に顕著になっている。 【漫画】「東大に爆入学」「日本の中受へ参入」……中国人富裕層の受験事情とは
近年、有名進学塾で外国人ルーツの子が増えていることは度々報じられてきた。東京を中心に200以上の教室を持つ進学塾「ena」の一部の教室では、生徒の4割を中国人が占め、中国人職員の採用にも積極的だと伝えられている。 私が原作を務めるコミック『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』(新潮社)で扱った「中国人爆入学」のエピソードは大きな話題となって、驚異的な数のコメントが寄せられた。 この背景には、国境を越えて起きている「教育虐待」が一因となっている。
「日本では余裕を持って受験できる」
近年、起きている中学受験ブームは異様ともいえる熱気を帯びている。 今の親世代が子供だった頃はクラスの1割くらいの勉強好きな子がするだけだったが、今や東京23区では小学校のクラスの半数以上、学校によっては7〜8割が中学受験をしているのだ。小学1年生から6年間進学塾に通う子もザラだ。 企業の採用試験で学歴が重視されなくなっているのに反して、こうした現象が起こる背景には複数の要因がある。 共働きのパワーカップルの増加、少子化の長期にわたって月謝を取れる小学生にターゲットを絞る受験産業、SNSによって飛び交う過熱した受験情報、格差拡大による将来への不安……。これらの詳細についてはコミック『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』に詳しく書いているので参照していただきたい。 ここ数年、そうした中で増えているのが中国人を筆頭とした外国ルーツの子供たちの増加だ。背景にあるのが、中国で起きている行き過ぎた受験競争だ。 中国は科挙制度の歴史もあって昔から高学歴志向が強い上に、格差の拡大が著しい。にもかかわらず、人口の割に大学の選択肢が少ないため、狭き門に殺到する事態がつづいた。 そのため、受験熱が極限まで高まり、過剰な教育のせいで心を病んだり、自殺に追い込まれたりする子が出てくるようになった。現地のメディアが警鐘を鳴らしても、なかなかおさまらないのが現状だ。 一部の中国人は、こうした現状を回避すべく、海外へ移住するようになった。その選択肢の一つが、治安が良く物価も安い日本だったのである。 コミックの取材で会った中国人の家族は次のように話していた。 「中国では朝から晩まで勉強漬けで、都市部では子供が外遊びをするような光景を見ることすら稀です。それに比べると、日本では水泳やピアノを習わせながら、余裕を持って受験ができる。中国に比べれば半分くらいの勉強時間で一流大学へ進学できるのです」 これは「教育移住」とも呼ばれている。たとえば受験が盛んな東京都文京区の小学校では、2019年から5年で外国国籍の子供が2・4倍にも増えた。
塾側も歓迎する事情
進学塾で中国人の割合が増えたのはこのためだ。東京や大阪の一部の進学塾では、1〜2割が中国人というのがザラで、中には前述のように半数近くを占める教室も出てきている。彼らは志が高く日本人より勉強熱心であるため、上位クラスに限るとその割合はさらに上がる。 これは有名進学塾だけでなく、中堅進学塾でも同じだ。 中国ルーツの子供の中には、来日して間もなく、日本語や学力がそこまで高くない子もいる。そういう子たちは有名進学塾の入塾テストをクリアすることができないので、ステップアップとして中堅進学塾を選ぶ傾向にある。 一部の塾は、外国人クラスを設けるなどして、こうした子供たちを積極的に受け入れている。原因は、日本で起きている少子化だ。 現在、子供の減少に伴い、日本の学習塾は経営が厳しくなり、倒産件数は過去最多を記録している。そこで中堅学習塾は生き残りをかけて、中国からの移住者たちを受け入れざるをえない状況になっているのだ。 コミックの取材で話を聞いた進学塾の職員は次のように話していた。 「5年〜10年先を見越せば、半分くらいは外国ルーツの生徒になると思いますし、そうしなければ経営自体が成り立たなくなります。特に校舎を多く持つ塾はそうでしょう。今は中国の方がほとんどですが、ネパール人など家族で来日している子なども取り込まなくてはならなくなるはずです」 実際に、こうして名門と呼ばれる進学校に合格した子供たちは、その後も猛勉強をつづける。そのため、東京や大阪の名門校と呼ばれる中高一貫校では、成績上位者に中国ルーツの子の名前が並ぶのが珍しくなくなっている。
東大院、5人に1人が中国人留学生
こうした状況が生み出しているのが、学力の高い大学における留学生の占める割合の上昇だ。 東京大学だけでも、大学・大学院には3,500人以上の中国人留学生がおり、大学院においては5人に1人を占めている。これは10年前と比べて約3倍の数だ。 他の大学も同様で、早稲田大に占める外国人留学生の数は5,562人、立命館大で3,258人、京都大で2,791人、大阪大で2,595人となっている。むろん、中堅以下の大学も同じで、日本経済大で2,675人、東京福祉大で2,470人だ。 現在、日本の大学は大学全入時代(少子化によって全員が大学に入れる時代)を迎え、私立大の半数以上が赤字経営に陥っている。今後、大学が生き残るには、進学塾と同様に外国人留学生を積極的に受け入れるしか道はない。 そのため、地方の低人気の大学ほど、留学生招致になりふり構っていられなくなる。地方では、日本語すらろくに話せない留学生に合格を与えている大学も出てきているほどだ。
グローバル社会に向けて
このような動向もあってか、日本人の間から外国人留学生に対する否定的な意見が出ることも増えてきた。SNSで話題になったのが、「日本が外国人留学生を不当に優遇している」といった批判だ。 残念ながら、これは大きな間違いだ。 大学院進学を支援する制度に中国人の受給者が多いのは確かだが、それは平等に学力等によって選抜された結果であり、国籍優遇ではない。 つまり、日本人の間に大学志望者や高い学力を有する人が、彼らに比べて少ないだけだ。その現実を見ないで「ゼノフォビア(外国人嫌い)」に陥れば、日本人の逆恨みと言われても仕方がない。 客観的に考えれば、進学塾にせよ、大学せよ、外国ルーツの子を受け入れるのは良いことだ。 少子化の中では必然的な流れだし、子供たちが様々な文化に触れて成長できるきっかけにもなる。また、学校で彼らと共に切磋琢磨すれば学力や志を大きく向上できるうえに、日本社会に高度人材を迎え入れることにもなる。グローバル社会で多文化共生を実現するにはこうした姿勢は不可欠だ。 むろん、トラブルがないわけではない。 どういうことが起きているかは、コミック『教育虐待』を参考にしていただきたいが、重要なのは、海外で起きている教育虐待によって日本に教育移住する外国人が増えており、その事象を好機と捉えることができれば、子供にとっても、社会にとっても、飛躍のきっかけになる可能性を秘めているということだ。 この事実を前向きに捉えて自分の人生の中でチャンスと考えるのか、それとも保身のために外国人批判をくり返すのか。 今、受験界で起きている出来事は、二種類の人間を作り出しているのかもしれない。 石井光太(いしい こうた) 1977年、東京生まれ。2021年『こどもホスピスの奇跡』で新潮ドキュメント賞を受賞。主な著書に『遺体 震災、津波の果てに』『「鬼畜」の家 わが子を殺す親たち』『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』など。『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。マララ・ユスフザイさんの国連演説から考える』など児童書も多い。『ルポ スマホ育児が子供を壊す』(新潮社)はロングセラーとなっている。 デイリー新潮編集部
新潮社

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