Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8ed2f4ab5e069532943a3f7dd3ba22b805770e59
<『仮放免の子どもたち』の著者・池尾伸一に聞く、厳格な在留管理の下で苦しめられている非正規滞在の子どもたちの現実>
外国人に対する不安や不満が国民の間に広がっているという認識の下、高市政権は在留管理の強化や土地取得規制など厳格な「外国人政策」を取り始めている。これを歓迎する声もあれば、今後も日本社会で外国人が増えることが確実ななか、排外主義につながることを危惧する声も上がる。 【動画】【神谷宗幣に次の一手を問う】参政・れいわ連合もアリ/“神谷独裁”を泣く泣く許容/5年以内に文科相に?/穏健化しても“染まらない”/恐慌リスクでも積極財政“勝負に出る”/2200兆円で政府系ファンド? 外国人の中でもここ数年、SNSを中心に批判の的になっているのが埼玉県川口市に多く在住するクルド人(トルコ国籍)だ。その多くは難民申請をしているが認められず、「仮放免」の状態にある。 「仮放免」とは、超過滞在(オーバーステイ)や難民申請の不認定などで収容令書または退去強制令書が出された外国人に、一時的に収容施設の外で生活することを認める制度。就労の禁止や移動の制限、国民健康保険への加入不可などの条件がある。 それら制約のしわ寄せを最も受けるのが子どもたちだ。高熱を我慢して意識を失い救急車で運ばれたところ、インフルエンザで24万円超の医療費を請求されたクルド人学生。小学校を除籍されたクルド人少女。クルド人の父が強制送還されたため第三国の韓国で会うしかない3歳の少女――。 こうした現状と彼ら(クルド人以外も登場する)のリアルな声を伝える一冊が、池尾伸一著『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(講談社)だ。 非正規滞在ではあるものの出生時や幼少期から日本に暮らす子どもたちにとって、実質的には日本が母国。だが、その点について人道的配慮がなされることはほとんどない。「外国籍の子どもたちをとことん追い詰め一度きりの人生を台無しにしてしまうような国で、本当に共生は成り立つのか」と池尾は記す。 仮放免をめぐる21家族の物語とともに、日本の外国人政策の問題点などをまとめた池尾に本誌・大橋希が話を聞いた。 ◇ ◇ ◇ ――取材を始めるきっかけは、2022年夏に「仮放免の子どもたちによる絵画作文展」を見たことだったというが、同じ頃に、今や「日本人ファースト」を訴えて支持を集める参政党が初めて国会で1議席を獲得した。ここ3年ほどで「外国人問題」が何かと話題に上るようになったが......。 私が取材を始めた頃は、いわゆる「外国人問題」は日本人の関心の外だった。ところが今は非常に悪い形で問題がクローズアップされ、排外主義的な空気が強くなっている。 一つの理由は、23年6月の入管難民法の改正です。これにより3回目以降の難民申請の場合、不認定になったら強制送還できるようになった。 そして大きな転機になったのが、昨年の参院選だ。「日本人ファースト」をうたう参政党が「外国人が不当に生活保護を受けている」「外国人の犯罪が増えている」といったことを言い出し、大きな支持を集めた。 当時、裏金問題などで危機感のあった自民党がこれに便乗しようとした。自民党の幹部が私の同僚記者にこんなことを言ったんです。「外国人たたきっていうのは、うけるんだよ」。
外国人に日本の社会保障は支えられている
実際は、「外国人問題」にエビデンス(証拠)はなく、外国人の数は増えても犯罪は減っている。社会保障についても、国民健康保険の外国人被保険者の割合よりも、総医療費に占める割合は少ない。むしろ外国人に日本の社会保障は支えられている。 今は人気のある高市早苗首相が外国人政策の強化を喧伝しているので、例えば「不法滞在者」という言葉が学校の教室でさえ話題になる。私の知り合いのナイジェリア出身の高校生は、在留資格がない仮放免であることを友人に黙っていた。ところがある日、「あんたも不法滞在者ちゃう?」と友人に冗談まじりに言われた。もちろん深く傷つき、家に帰って泣いたという。 仮放免は一時的なもののはずだが、難民申請に時間かかるため、長く日本で暮らしている彼女のような子どもは数百人単位でいる。政府の統計では、彼らは「不法滞在者」に分類される。 仮放免の間はアルバイトもできない。国民健康保険の対象でもない。親が働けないので学費を出せず、高校を卒業しても大学に行けない。そんな行き詰まった状況でも、日本語で育って日本語しか知らず、やっぱり日本で暮らしたいという子たちがいる。 ――昨年5月には、入管庁が不法滞在者ゼロプランを発表した。正式には「国民の安心安全のための不法滞在者ゼロプラン」。入管庁のサイトには「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている状況を受け」とあるが、「体感治安(人々が感覚的に認識する治安)」の問題なのに、本当に危険が存在するかのように書いている。 そうすると、国民も「やっぱり外国人は不安な存在なんだ」と思ってしまう。誹謗中傷やヘイトスピーチをする人たちを正当化するようなことを、政府がやっているような[伸池2.1]ものです。 高市首相も昨年11月、「外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議」を招集し、最初に指示したのが「ルールを守らない外国人にルールを守ってもらう」ことで、不法滞在者ゼロプランを強力に推進するとした。 日本では入管庁が強大な権力を持っていて、在留資格を与えるか、与えないかは入管庁だけが判断できる。その中で家族が一緒に住む権利などが侵害されている。 日本が79年に締結した自由権規約は、家族が一緒に住む権利(家族結合権[伸池3.1])を保障している。また、1994年に批准した子どもの権利条約は、「児童は両親の意思に反して分離されるべきではない」と定めている。 他国の例では、こうした人権侵害を国連に訴えれば国連が勧告を出すこともあるが、日本ではそれができない。人権侵害を訴える「個人通報制度」を利用できない形で条約を結んでいるんです。
入管庁のレゾンデートル(存在意義)は
子どもの権利条約も、入管難民法に基づいて強制送還するときは適用されないとして、これを締結している。本来は国際人権条約に縛られるべきところを、政府が抜け穴を作るような形にしているんです。 入管庁のレゾンデートル(存在意義)は、在留資格のない人たちをいかに追い返すか。家族が一緒に住む権利や子どもの権利といったものは二の次、三の次で、 もしかしたら本当に全く何も考えていないかもしれない。 ――著書では21家族の話を取り上げているが、印象的なケースはあったか。 私が一番かわいそうだと思うのは、子どもの学ぶ権利が侵害されることです。例えば、10歳で日本に来て、航空機の客室乗務員になりたいと頑張ったクルド人のオズレム。日本語をすごい勢いで習得して、中学校の部活も日本語を勉強するためパソコン部に入ってタイピングを毎日練習した。 一家が仮放免のため進学のお金がなく、彼女は頑張って奨学金を勝ち取った。しかも40、50倍の倍率をくぐり抜けて。専門学校も十数校から「入学できない」と言われたが、なんとか入学させてくれる学校を見つけて、その後、大手航空会社の地上職に採用された。でも結局、 在留資格がないために入社できなかったんです。 どれだけ努力をしてもそれを無にするような、夢を持てないシステムになっている。父親の難民申請が認められないとしても、日本で育ち就職も決まった彼女には、人道的に考えたら在留特別許可を与えるべきです。 過去には、大学に受かったり就職が決まったりした人に在留特別許可が与えられることもあった。それが最近は許可がとても出にくくなっている。行政書士や弁護士によれば、高市政権の厳しい姿勢に入管庁が忖度しているということだ。 ――著書の中で、入管の職員がとても冷たい言葉を吐くのが印象的だ。 職務に忠実に、真面目にやっているのだろうが、彼らもすごく悩んでいるとは思う。元入管庁職員で行政書士の木下洋一さんは「裁量があまりに大きすぎて、悩んでいた」と言っている。 入管庁が在留管理の裁量を一手に握っていて、それをチェックする体制がない。いわば、ブラックボックスの中で強制送還が行われている。しかも裁量の基準がその時々で変わる。 現在の不法残留者は約7万人だが、04~08年に不法滞在者半減計画があり、04年の21万人を08年には48.5%減の11万人にした。この時は、半分は母国に帰ってもらい、半分には在留特別許可を与えた。 その結果、「国民が安心して暮らせる社会の実現に貢献した」と入管庁はうたっている。半分の外国人を日本にいられるようにして「安心して暮らせる」のなら、今回も在留特別許可を与えればいいのではないか。
川口市の犯罪件数は減っている
諸外国では在留管理を入管庁だけに任せていない。カナダでもイギリスでもオーストラリアでも、チェック体制が敷かれている。日本の場合はそれがないので、基準に恣意的なブレが出てくる。しかもその動機が、先ほど言ったように「有権者にうける」だったりする。 日本にいる外国人は現在395万人で、人口の3.2%。これは今後ものすごい勢いで増えていき、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2050年前半までに10%になる。政府は外国人を増やしたくないと言っているが、実際には増やすことを認めているし、社会を維持するために増えていくのは必然だ。 今の生産年齢人口(15~64歳)は7310万人で、これが2050年には5540万人になる。居酒屋の店員も介護労働者も足りておらず、既にいろいろなところが人手不足です。これを支える外国人の置かれた状況は、私たち自身の問題として考えなければならないと思う。 クルド人問題があると言われている川口市の市長選(2月1日投開票)では、「クルド人は帰れ」「外国人の住みにくい街にします」などと言う候補者がいた。 そこで100人の市民に街角でアンケートを取ったところ、クルド人に対して不安を感じている人は4割ぐらいいた。なにが不安かを聞くと、コンビニなどでたむろしているのが怖いとか、ゴミ出しがちゃんとできていないので困るとか。でもこれは、治安問題とはちょっと違う。 川口市で外国人が増えているのは確かで、04年に1万4679人だったのが、 24年で4万3128人とほぼ3倍になっている。だが、市内の刑法犯の認知数は04年に1万6314件だったのが、20年に4529件。人数が3倍になって、犯罪は3分の1になっている。 だから治安は悪くなっていないのに、人数が増えたことで「なんとなくの不安」がある。 「クルド人と話をしたことがあるか」という質問もしたら、1回でも接触したことがある人は10人だけだった。1割です。要するに、外国人がたくさんいても接触する機会がない、ましてSNSなどで外国人の犯罪が多いという投稿を見れば不安な感情が増幅していく。 ――そうした実際のデータは貴重だ。分からないから怖い、不安に感じるということだ。 だから、本書を彼らのことを知るきっかけにしてもらえたら、と思う。「不法滞在者」という抽象的な言葉ではなく、怖がったり喜んだりしているリアルな人間として受け止めてもらいたい。 外国人と知り合いになるには、例えば日本語を教えるボランティアをしたり、エスニック料理の店に行ってシェフと話したりするくらいでもいいんです。そうすることで、政府に騙されなくなる。今は外国人の存在を不安に思う人たちが、票田と見なされている。
若い世代は偏見がない
――取材をする中で、これは無理な難民申請だと感じたケースはあったか。 この人は難民ではないだろう、という人もいることはいる。でも、普通に考えて難民だろうという人の方が圧倒的に多い。 日本に来る前に、日本の難民認定が厳しいことを調べなかったのかなとは思う。難民の受け入れは、アメリカは2024年前半だけで約3万5000人、イギリス、ドイツは2024年で4万人前後だが、日本はわずか190人。認定率は2.2%ほどだ。でも迫害されたり、逮捕されそうになり、認定率を調べる暇もなく、わらにもすがる思いで来たという人もいる。 ――著書に描かれているのは辛い話がほとんどだが、最後に紹介されている、日本語を教えるボランティアなど若者を中心にした活動には少し希望が見える。 今の教室ってすごく国際化していて、川口ならクラスに30人いるうち7人ぐらいはクルド、中国、ネパールなどという小学校もある。だから若い世代は偏見がなくなってきている。 彼らは私たちの世代以上に、友達として外国人と接点を持っている。そういう人たちが動き出しているのは希望です。 日本語の習得は共生の第一歩だが、例えば今は小学校で日本語に苦労している児童がいても、それを教えるシステムが不足している。政府には予算を付けて、そこを後押しするようなことをやってほしい。 政府がやるべきことは、共生のために日本語を学ぶ環境を整えたり、度を超した誹謗中傷やスピーチを規制したりすることだ。でも今はそうしたことに本気で取り組まず、外国人を厳しく取り締まることに注力するだけになっている。
大橋希(本誌記者)


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