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在留外国人数は約400万人に迫り、医療現場で診察を希望する外国人が増えている。医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは「AIの凄まじい進化で臨床現場の業務効率が劇的に改善する可能性がある」という――。 【画像をみる】インド人の患者が提示したメモ ■医療機関でのAI活用法 人工知能(AI)の進歩が凄まじい。私が専門とする医療の分野でも、続々と新たな研究成果が発表され、実用化が進んでいる。 先日、AIの専門家である平川知秀氏に、医療ガバナンス研究所の勉強会の講師を依頼した。平川氏とは20年来の付き合いになる。昨年12月、技術評論社から『Claude CodeによるAI駆動開発入門』という専門書を上梓し、1万部を超えるヒットとなった。 今回の勉強会で、私が驚いたのは、AIによる画像認識とテキスト化の進化である。スマートフォンで撮影した手書きノートの文字を読み取り、読みやすいテキストに変換したり、写真内の情報を自動的に文章化したりすることが、実用レベルに達しているという。画像から文字を認識する技術(OCR)と、AIが文脈を理解して文章を生成する技術が組み合わさって実現しているのだ。平川氏は「AIは分進秒歩です」と語る。日進月歩どころではないスピードだということだ。 勉強会の最中、私は試しに、自分のノートをスマホで写真に撮って、ChatGPTで解析してみた。平川氏の講演のメモ書きなのだが、ChatGPTは見事に内容をまとめてくれた。手書きの崩れた文字を、正確に反映していることに驚いた。 このことを平川氏に告げると、「日本語はまだまだですが、英語なら、もっと上手くまとめますよ」とコメントした。 ■在留インド人の受診が増えた 後日、このことを診療現場で試してみた。ナビタスクリニックは、立川、新宿など都内を中心に展開し、外国人患者の診療に力を入れている医療機関だ。最近は、インド人の受診が増えた。多くがIT企業に勤務するシステムエンジニアとその家族である。出入国在留管理庁の統計によれば、在留外国人の数は約400万人に迫り、過去最高を更新し続けている。医療現場でも外国人患者への対応は喫緊の課題だ。 彼らは、日本で子供の予防接種の継続を希望する。日本の定期接種に組み込まれているワクチンは、母国でも接種が推奨されているものが多く、途中から日本のスケジュールに合流する必要がある。そのためには、インドでの予防接種歴を正確に把握しなければならない。 ところが、それは難しい。インドには日本の母子手帳のような統一的な記録体制はなく、彼らが持参するワクチン接種の記録は手書きのメモ書きのようなレベルだからだ。 さらに、使用するワクチンの商品名も日本とは違う。同じ成分のワクチンであっても、国によって製造メーカーが異なり、商品名も変わる。日本で流通していないワクチンも少なくない。そもそも接種スケジュール自体が国ごとに異なるため、どのワクチンを何回打ったのかを正確に読み解くには、各国の予防接種制度に関する専門知識が必要になる。私には、このような記録から接種歴を正確に把握することはできない。
■1時間かかる作業を10秒で完遂 ナビタスクリニックでは、海外での活動経験が豊富な杉浦康夫医師(小児科)が「解読」していた。一人あたり30分〜1時間を要するそうだ。こんなに時間がかかると、他の患者さんを待たすことになる。他の患者さんの迷惑になるし、経営難に喘ぐ医療機関では続けることができない。 この問題をChatGPTが解決してくれるかもしれない。試しに、インド人患者が持参したワクチン接種歴の資料をスマートフォンで撮影し、ChatGPTに読み込ませてみた。具体的には、撮影した画像を送り、「この予防接種記録を読み取り、ワクチン名を一般名(国際的な成分名)に変換した上で、接種日とともに表形式で整理してください」と指示する。するとChatGPTは、手書きの文字や現地の商品名を解読し、日本の医師が理解できる形式で接種歴を表にまとめてくれた。この作業に要する時間は10〜30秒程度だ。 杉浦医師がチェックすると、「印刷されたものについては、表示された結果は正確だった」という。手書きについては、3割程度のエラーを起こすという。医師によるチェックは欠かせないが、ゼロから全てを自分で読み解くのに比べれば、負担は格段に軽い。 念のために申し上げるが、このような場合、患者の氏名などプライバシーに関わる情報は撮影していない。また、ChatGPTには入力した内容をAIの学習データに使わせない設定があり、それを利用している。いわゆる「学習なし」モードと呼ばれるもので、患者データが外部に流出したり、他の目的に利用されたりするリスクを最小限に抑えるためだ。医療情報は最も慎重に扱うべき個人情報であり、AI活用においてもこの点は十分に配慮しなければならない。 ■医療現場で活用できるAIアプリ作成 話を戻そう。私は、この結果に驚いた。これは業務効率を劇的に改善する可能性があるからだ。患者・家族、さらに医療機関にとってもありがたい。現在、杉浦医師と平川氏で、AIを活用したアプリを作成し、読み込みの精度や業務効率への影響を検証する臨床研究を準備中である。 近年、インド人以外にもネパール、ベトナム、さらにアフリカからの受診者も増えている。杉浦医師は「対象者を増やし、半年以内には結果を発表したい」と言う。外国人患者の増加は全国的な傾向であり、この研究の成果は、ナビタスクリニックだけでなく多くの医療機関にとって参考になるだろう。
■日進月歩ならぬ「分進秒歩」でAIは進化 この経験以降、私はChatGPTによる画像認識を日常のさまざまな場面で応用するようになった。たとえば、紙媒体で定期購読している「ニューヨークタイムズ国際版」の記事を写真に撮り、「日本語で1000文字以内に要約して」と指示する。英語力の壁で読み飛ばしていた紙面にも目が届くようになった。気になる点があれば質問を重ねることで、深掘りも可能だ。医学専門誌や『ネイチャー』などの専門外の論文にも同様に活用しており、自分の視野が確実に広がったと感じている。 これが、最近の私のAI活用法だ。上手く活用することで、生産性は飛躍的に向上する。平川氏が言うように、AIは「分進秒歩」で進化している。高度な専門知識がなくとも、今あるツールを試してみることが、その恩恵を受ける第一歩になるはずだ。 ---------- 上 昌広(かみ・まさひろ) 特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す』(東洋経済新報社)『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)など著書多数。 ----------
特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長 上 昌広

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