Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/313fab449c63d92ba1425e17db141dd86b30e646
<東京五輪を開催する日本のコミットメントは支持で一致したが、G7最大の関心はワクチンだった>
[ロンドン発]先進7カ国(G7)は2月19日、オンライン首脳会議を開き、初参加の菅義偉首相は今年夏の東京五輪・パラリンピックについて「人類がコロナとの戦いに打ち勝った証として安全・安心の大会を実現したい」と訴え、G7首脳全員の賛同を得た。しかし、G7の焦点は途上国へのワクチン供給だった。 【動画】退院後、息ができないトランプ G7は昨年、「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプ前大統領がホストだったが、コロナ危機と仏独の反対で中止に追い込まれた。今年はイギリスがホスト国で6月に保養地のコンウォールで開催予定だ。 この日はそれに先立ち、ワクチンの展開、地球温暖化対策、ミャンマーのクーデター、ロシアの反体制派アレクセイ・ナワリヌイ氏拘禁への対応を協議した。 同盟国やパートナー国、国際機関との関係修復を急ぐジョー・バイデン米大統領も初参加し、G7首脳声明では「民主的で開放的な経済と社会の強みと価値観を生かして今年を多国間主義へのターニングポイントにし、健康と繁栄を取り戻す」と宣言した。 首脳声明のポイントを見ておこう。 ・世界保健機関(WHO)と協力し、自主的なライセンス供与などを通じてワクチンの製造能力を向上させる ・変異種のゲノム情報を共有する ・ワクチンの共同購入枠組み「COVAX」やACTアクセラレータへの資金協力を40億ドル(約4226億円)増やして総額75億ドル(約7923億円)に拡大 ・G7はこの1年間、計6兆ドル(約634兆円)を超えるコロナ経済対策を実施 ・パリ協定に従い2050年までに温暖化ガス排出量実質ゼロを目指しながら雇用を創出する ・東京五輪を開催するという日本のコミットメントを支持する <エゴ丸出しの「ワクチン・ナショナリズム」> ボリス・ジョンソン英首相はこの日、ミュンヘン安全保障会議にもオンラインで参加し「中国による新疆ウイグル自治区弾圧に反対する。英企業のサプライチェーンが人権侵害に加担しないよう対策を導入した。香港国家安全維持法の強行に対抗して香港市民300万人に英市民権獲得の道を開いた」と力を込めた。 バイデン大統領も同会議で「国際経済システムの基盤を弱体化させる中国の経済的虐待と強制に反対しなければならない」と訴えた。 バイデン政権の発足に伴い、西側は一日も早く結束を中国やロシアに示す必要があった。しかし、ワクチン供給を巡って欧州連合(EU)が域外への輸出制限を強行し、イギリスとの対立を深めるなど「ワクチン・ナショナリズム」が渦巻いている。
EUとイギリスが対立
イギリスはすでに1687万人にワクチンを接種した。EU側には「EU離脱の成功例とみなされると反EUポピュリストが勢いづく」と負のインセンティブが働く。英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同で製造するワクチンは有効性にあらぬ疑念が唱えられ、スケープゴートにされてしまった。 米デューク大学の調査では、世界人口をカバーするのに十分なワクチンを製造するには3~4年かかる。そうした中、高所得国とワクチン生産力を有する2~3の中所得国がすでに38億回分近いワクチンを購入、さらに50億回分を調達する選択肢がある。 COVAXに参加する約190カ国の人口の20%にワクチンを接種するには1回接種で11億4千万回分、2回接種ではその倍が必要になる。しかし、これまで世界に展開されたワクチンの75%を接種したのはわずか10カ国で、130カ国はまだ1回目の接種も受けていないのが実情だ。 デューク大学の調査を担当したアンドレア・テイラー氏は「高所得国や一部の中所得国が一定割合までワクチンを接種した後、COVAXの枠組みを通じて余剰ワクチンを途上国に割り当てる交渉が進行中だが、そうするインセンティブはほとんど働かない」と打ち明ける。 <中国やロシアのワクチン外交> そのすきを突いて、中国やロシアがワクチン外交を展開している。 英紙ガーディアンのまとめによると、中国はインドネシアやトルコ、ブラジル、エジプト、メキシコなど27カ国に対して4億2430万回分のワクチンを、ロシアはインド、ブラジル、ウズベキスタン、エジプト、メキシコなど20カ国に3億8810万回分を供給する。 中国共産党の機関紙系国際紙、環球時報(英語版)は「“中国のワクチン外交は信用できない“という西側メディアの誹謗中傷は事実に反する。中国製ワクチンを購入した国はすべて臨床試験を実施しており、地元の保健当局が緊急使用を承認している。価格も手頃で途上国に希望を与えている」と主張している。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はワクチンに1950年代の米ソ冷戦宇宙開発競争を思い起こさせる「スプートニクV」と名付けた。しかしロシア国内でのワクチン接種は100人当たり2.7回とイギリスの25回に比べて進んでいない。プーチン大統領への不信感が背景にあるとみられている。 「世界のワクチン工場」と言われるインドも、中国が近隣諸国にワクチン外交を展開しているため、対抗して1560万回分以上をネパールやバングラデシュなど17カ国に提供した。西側諸国にとってはインドをどう巻き込んでいくのかが大きなカギを握る。
先に手を差し伸べるのは西側か、中露か
中国やロシアのワクチン外交に対して、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は英紙フィナンシャル・タイムズに「西側諸国は現在のワクチン供給の最大5%を最貧国に早急に送るべきだ」と主張した。バイデン大統領はCOVAXへ追加の財政支援を表明したものの、マクロン大統領の提案は真っ向から退けた。 自国でのワクチン接種に見通しがつくまで途上国にワクチンを回す余裕はないというのが本音だろう。 一方、ジョンソン英首相は新興感染症のワクチン開発にかかる時間をコロナワクチンで成功した300日から一気に3分の1の100日に短縮する大胆な計画をぶち上げた。途上国を支援するため将来、余るコロナワクチンの大部分をCOVAX調達プールで共有することも確認した。 ジョンソン首相は「世界の希望は科学者の肩にかかっている」と力を込める。途上国にワクチンを展開できるのは西側か、それとも中国やロシアか。グローバリゼーションによって感染症の第5波が人類を襲う中、ワクチンは重要な戦略物資になった。21世紀の覇権を巡る西側と中露の主導権争いが過熱している。
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