Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e2a1aa854b3f6bec4603167b380b19d578abb47e
介護業界では人材不足問題が年々深刻化してきている。そうした中で、人材確保策の柱の1つとして期待されているのが外国人介護人材の受け入れである。 しかし、さまざまな条件や制約、費用もかかることなどから、介護現場では外国人人材の受け入れは難しいとの声も少なくない。また、現場に就労してからも介護技能・技術力、日本語・コミュ二ケーション能力などの問題から長続きせずに離職・帰国したとの指摘も依然ある。 なお、外国人介護人材を受け入れ・雇用できる主な制度には、
① EPA(経済協力協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の雇用(以下、EPA制度) ② 日本の介護福祉士養成校を卒業した在留資格「介護」を持つ外国人の雇用 ③ 技能実習制度を活用した外国人(技能実習生)の雇用(以下、技能実習制度) ④ 在留資格「特定技能1号」を持つ外国人の雇用 の4つがある。そこで今回は、①と③の制度を利用している2つの法人を取材。外国人人材の確保と定着、そして今後に向けた課題について考える。
特別養護老人ホーム2施設、保育所などを運営する社会福祉法人千里会(横浜市)は、EPA制度がスタートした翌2009年より毎年、インドネシア人を中心に介護福祉士候補者を受け入れてきた。現在、介護福祉士合格者23人、候補者26人、特定技能1人の計50名が2つの特養で働いている。 ■試験合格のための教材づくり 介護福祉士候補者の受け入れを上手に行うポイントについて、牧野裕子理事・法人統括部長は、「EPA制度ではまず、候補者と事業者のマッチングを行う形になっており、候補者が当法人を選んでくれないとマッチングは成立しない。当法人に興味を持ち、選んでもらうためには、(介護福祉士国家試験の)合格率が高いことが重要と考えた」と話す。
神奈川県では、外国人介護福祉士候補者に関する各種学習支援策が取られているが、当時は用意された専門学校の授業数などは少なかった。そこで、試験に合格することに特化した教材を作成し、最初の2年間は、牧野理事が自ら学習指導した。 試験に合格するためにもう1つ重視したのは、学習時間を週40時間勤務の中には組み込まず、専門学校への登校も、法人での学習も、公休・有休休暇を含むそれ以外の時間にさせるようにしたことだ。
それは、「外国に行って仕事をしながら試験に合格するためには、必死にならないと難しい。そのためには、自分の時間を使って勉強してもらったほうがよい」(牧野理事)という考えによる。 その結果、2013年に同法人として初めて介護福祉士試験を受験した7人のうち5人が合格した。その後は、専門学校の授業数などが増えたため、法人としては、補習希望者に対し、試験前に補習を2回行う程度にとどめている。一方で、合格して同法人に勤務している先輩にも協力してもらい、来日した介護福祉士候補者にいろいろ教えてもらっているという。
こうしたことにより、毎年、受け入れている4人の候補者は、「ほぼ全員が試験に合格しており、不合格で帰国する人はあまりいない」(牧野理事)。 合格して同法人に勤務する人が増えてきてからは、「妹や従姉妹をこちらで受け入れてくれませんかといった紹介が多くなり、現在受け入れているのはそういう紹介ばかりだ」と牧野理事は明かす。 ■仕事と私生活はわける では、千里会が介護福祉士候補者として受け入れて合格した外国人の、同法人での定着状況はどうだろうか。
同法人が受け入れて合格した外国人は、これまで32人で、そのうち現在も同法人に勤務しているのは19人(冒頭で書いた23人の合格者の中には、合格して転職してきた人が4人いる)。つまり、定着率は約60%ということになる。 この率について牧野理事は「人が働きに来ているという事を考えれば、外国人に100%の定着を求めてはいけない。約60%はまずまずの定着率と考えている」と話す。 同法人が、合格勤務者の定着を図るために、最も重視していることは、「仕事上も私生活上も、日本人と同じように公平・公正に扱うこと」だという。
仕事面では、給料は日本人と同一にしていることはもちろん、仕事上のポジションも能力に応じて与えており、特養の現場でリーダーとして活躍している外国人は6人に上る。 私生活上も公平・公正に扱うというのは、「外国人だから面倒みてあげるという事業者は多いと思う。しかし、例えば、月1回、(職場のみんなで)食事をするというようなことを行っても、自分が休みの日に、気を遣わなければならない人と食事をするというのは嫌だと思う人が多いのは、日本人も外国人も同じだ」(牧野理事)。
また、公平・公正に扱うというのは、外国人を差別しないというだけでなく、日本人に対して不公平・不公正感が生じないようにする意図もある。先にみた、介護福祉士を受験・合格するための学習時間は、勤務時間内には組み込んでいないのも、そうした狙いもあるという。 「特別扱いをすると、日本人は不公平と感じて合格して当たり前だと思ってしまい、日本人との間に亀裂が生じてしまう。勤務時間外に勉強して国家資格に合格すると、日本人も『すごいね』となって、彼らを尊敬したり、自分たちもうかうかしていられないという気持ちが出てくる。そうすると、日本人と外国人の人間関係もうまくいくようになる」(牧野理事)。
千里会では、このように公平・公正な運営を行うことにより、合格して同法人に勤務する外国人のうち、毎年、複数名が継続勤務している。「マンパワーは、今まではEPAの受け入れだけで足りており、日本人の求人は行っていない」(牧野理事)。 ■日本語学校も設立 特別養護老人ホーム2施設、サービス付高齢者住宅1住宅、グループホーム1施設などを運営するつばさグループ(千葉県君津市)では、「技能実習」制度による受け入れを約2年半前から開始。現在、ベトナム人を中心に計15人の技能実習生が特養で働いている。
技能実習生を上手に受け入れるポイントについて、天笠寛理事長が挙げるのは、技能実習生を受け入れるための体制を事前に整えたことだ。 1つは、技能実習生を受け入れる1年半前位に、人文知識関係のビザによって日本で働ける通訳を雇用したことである(グループ全体で3人、うち特養1人)。「技能実習生がきちんと仕事を覚えるには、日本語ではなく自国の言葉で教えてあげたほうがよく覚えられる。そこで、通訳にまず介護のことを勉強してもらい、技能実習生に介護を教えるとき、彼らに自国語で通訳してもらうようにした」(天笠理事長)。
2つ目は、日本語学校を設立したことだ。技能実習生には入国後に日本語を学んでもらう必要があるが、君津市近辺には日本語学校はなかった。また、「外国人を受け入れるとなると、技能実習生だけではなく、留学生をアルバイトとして雇用するなど、いろいろな可能性が考えられる」ので設立したという。 3つ目は、技能実習制度では、介護事業者は必要とする人員を事業協同組合や商工会などがつくる「監理団体」で確保する仕組みになっているが、この「監理団体」を自前で設立したことだ。「監理団体は、人数は確保してくれても、どのような実習生が紹介されるかわからない」ためだ。
このような事前準備以外に、技能実習生を上手に受け入れるポイントとして、天笠理事長は、よい送り出し機関を探し、そこに依頼することが最も重要と強調する。「現地の送り出し機関はたくさんあり、送り出し機関によって日本語や介護技術をどれだけ教えているかなどに大きな差がある」からだという。 そのため、天笠理事長は、ベトナムの送り出し機関を10機関以上訪れて、その中からよいと思う機関と契約し、送り出し機関が選考した技能実習希望者と面接を行うようにした。
つばさグループで技能実習生を受け入れ始めてから2年半が経つが、離職した人はいない。技能実習生が働きながら学び続けられるようにするために、天笠理事長が最も重視しているのは、「自分の子どものように面倒をみる」ことだという。 ■住まいもしっかりサポート 「住まいも変なところに住まわせたくないという気持ちがあり、グループでは不動産業も行っているので、日本人でも住みたくなるような立派な住宅に住んでもらっている」(天笠理事長)
「自分の子どものように面倒をみる」という言葉の中には、技能実習生の将来の夢を叶えるということも含まれている。現在15人いる技能実習生の将来の希望は、技能実習が終了すれば母国に帰りたいという人と日本で働き続けたいという人が約半々。 母国に帰りたいという人の中には、介護施設で働きたいという人のほか、日本語の先生になりたいという人もいる。一方、日本で働き続けたいという人の中には、「特定技能」に変更して日本で働き続けたいという人や、介護福祉士資格を取得して日本で永続就労したいという人もいる。これらの希望に対し、天笠理事長は、「希望が叶うように応援するから一緒に頑張ろう」と実習生を激励しているという。
具体的な準備もすでに進めている。例えば、つばさグループでは、ベトナムに進出して介護施設を運営する計画を立てており、第1号施設の建設着工が今年5~6月頃に始まる。 「ベトナムに進出するということは、人材も育てなければいけない。うちで勉強した人たちが将来、ベトナムに帰ってうちの施設で働いてくれることは、当方にとってもとても喜ばしいこと」(天笠理事長)。ベトナム進出のことは本人たちにも話しており、ベトナムに帰りたいという人の中にはつばさグループの施設で働きたいという人も多いとのことだ。
外国人介護人材を受け入れる課題として、千里会の牧野理事は「EPA制度による受け入れを希望する日本の事業所が増えてきたことにより、マッチングできる候補者が少なくなってきている」ことを挙げる。毎年、4人受け入れできていた候補者が1、2人に減ってきているのだという。 そこで、千里会では今年から「技能実習生」の受け入れも行うことにした。「EPAと技能実習では、母国での資格や学習経験、日本語の能力要件などが違うので、適材適所の配置を行っていきたい」と牧野理事は語る。
■文化や習慣など相互理解が大事 一方、つばさグループの天笠理事長は、日本との文化や習慣、常識などの違いを挙げる。例えば、同意・承諾した時には、日本では首をたてにふるが、ネパールではたてや横にふる。日本人は彼らが横にふることもあるということをわかっていないと、理解できていないと判断し感情を逆なでて問題が起こるという。 こうしたことに対し、同グループでは、母国の文化や習慣、常識などを把握したうえで研修プログラムをつくり、プログラム内容の意味するところを理解しているかどうかも確認するなどして、問題が起こらないようにしているそうだ。
高齢化がますます深刻化する日本で、介護人材の受け入れには、彼らの母国の文化を理解、尊重し、言語などさまざまな面で丁寧なケアをしていくことがカギになりそうだ。
塚本 優 :終活・葬送ジャーナリスト
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