2018年6月27日水曜日

茨城企業の「小川で水力発電」できる発電機が新興国を救う

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180621-00172929-diamond-bus_all
6/21(木) 6:00配信、ヤフーニュースより

● ネパールに電気をもたらす 茨城の中小企業とは
 人が飛び越えられるような小川でも、その水流の力で電気を起こすことができる画期的な水力発電機が生まれた。その名を「Cappa」(カッパ)と言う。カッパは人間にいたずらをすると伝えられるが、このCappaは電気のない奥地にも灯をともし、人間の生活を豊かにしてくれる。

 Cappaは幅約83cm、奥行き約77cm、高さ約66cmと小型で、水深50cm以上、水路幅が1.1~4.5m、流速が毎秒1.5~2mあれば発電可能というから、畑の用水路でも電気がつくれる。

 Cappaの発電能力はモデル水路で160Wだ。LED電球は15W以下、スマホは6W、テレビは60W、ノートパソコンは50~120W、扇風機は60Wなので、身の回りの小さな需要には応えることができる。数台を連結すれば、さらに大きな電力を生み出せる。

 現在、Cappaは深刻な電力不足に陥っているネパールに導入され、実証実験が進められている。電力の不安定な地域にある寺院や小学校前の小川、用水路に設置され、寺院のライトアップやスマホ・携帯電話の充電ステーションなどに活用されている。

 開発したのは、茨城県日立市に本社を置く茨城製作所の4代目社長である菊池伯夫(41歳)だ。

 「水力イコール落差という固定観念がありますが、流れがエネルギーであることは物理学の方程式でわかっていました。Cappaは小さなエネルギーを最大限に引き出す軽水力発電機です。エネルギーが小さいぶん、環境負荷も低い。工事不要で、大人が2人いればたった15分で設置できます。自然のエネルギーを借りて、イノベーションを起こしたいと思っています」

 Cappaには水温や濁り、振動などの各種センサーも附属しており、通信機能もあるので、携帯電話などのネットワークを使ってデータを送信することができる。水質環境のモニタリングや、濁り・流速の変化から災害予防に活用することも可能だ。
「日本より環境の厳しいネパールで現在、すでにデータを収集しており、ゆくゆくは解析データを販売することも考えています」と菊池は語る。

 Cappaと共に、身長ほどの小さな落差の、ちょろちょろとした流れでも発電できる「Kingyo」(キンギョ)という軽水力発電機も併せて開発しており、これもネパールに導入して実証実験中だ。

 Kingyoは幅・奥行き約15cm程度、高さ約72cmと縦型で、小型ながら100Wの発電能力を持っている。水の量が少なくても発電可能なので、ちょっとしたわき水などの落水があれば、どこにでも設置できる。

 自然エネルギーを活用して身近に小さな発電所をたくさんつくるという小型分散型発電の発想は、これまでのエネルギー開発のあり方を大きく変える可能性がある。

 東日本大震災でも被災地周辺では停電が長引き、生活に支障が出た。CappaやKingyoがあれば、LED灯や携帯電話を充電する非常用電源になる。災害対策用としても活用可能だろう。

● 日立と一体になって 戦後のモーター需要を支える

 茨城製作所の本業は、モーターや発電機などの開発・製造および修理である。

 菊池の祖父である忠が敗戦直後の1946年に創業したが、忠はもともとは日立製作所に勤務し、ボイラーの設計を担っていた。

 創業後53年頃までは、戦災で被害を受けた電柱の変圧器の修理を関東配電(現・東京電力)からの依頼で行っていた。その後、日立製作所からモーター製造の仕事を請け負うようになり、日立の山手工場内にも事業所を置いて仕事をするようになった。いまも山手構内事業所はあり、70年にわたって日立と緊密な関係が続いている。
 モーターと言っても多種多様だが、同社は主に一般産業用向けを製造している。電車、エレベーター、エスカレーターなど故障が許されないようなインフラに関わる大型モーターが多い。 

 特殊用途のモーターの製造も行っており、たとえば、シェールガスや液化天然ガスなどのポンプ用に使われる耐高圧、耐腐食性能の高いモーターや、電磁波が漏れないようにシールドを施したモーターなど、同社ならではの製品は多い。また、風力発電機で電力の伝達に使われる回転コネクタである「スリップリング」の製造においては、世界トップクラスのシェアを誇る。

 100人ほどの規模でこうした大型・高性能のモーターを完成品まで手がけるメーカーは他にない。「競合他社は大手電機メーカーばかり」と菊池は言う。

 日本の高度経済成長期には同社も大きく飛躍し、「月産500台もモーターを生産していた」(菊池)が、その後、経済が成熟期に入ると生産量も減っていった。菊池は2009年に入社したが、もともと会社を継ぐ気はなく、工場に顔を出したこともほとんどなかったという。

 「祖父は会社を継げとよく言っていましたが、父はひとことも言いませんでした。やりたいことをやれ、という意味だったのでしょう。私も学生の頃から数学と物理が好きで、研究者の道に進みたいと思っていました」

● 海外留学中に考え方を 揺さぶられるような体験をした

 その言葉通り、菊池は東京理科大学で応用物理を学び、人工知能や脳科学にも関心を持った。学際領域の研究が性に合い、液晶など高分子流体や複雑流体の研究に取り組んだ。

 卒業後はイギリスのオックスフォード大学に留学、修士課程を飛ばして3年間で博士課程を修了したというのだから驚く。

 「イギリスは形式に囚われず、人と違った面白い研究をする人間を受け入れる社会なので、短期間で博士号を取ることができました。担当の教授は『10年後には世界のリーダーになるか、のたれ死ぬか』とよく言っていました。それだけの覚悟をもって研究しろということなのでしょう」と菊池は当時を振り返る。
菊池も世界のリーダー的な科学者になるべく研究を続け、その後ドイツの大学・研究所を経て、バンガロールにあるインド科学研究所に移った。ここで、菊池は今までの考え方を揺さぶられるような経験をした。

 「大都市でも年中停電があり、水も1日2時間しか給水されないので、そのたびに大きなタンクに水を貯めなければなりませんでした。それまでなに不自由なく育ってきただけに、インドでは『生きる』ことを実感できて楽しかったですね。サトウキビのジュースを人が飲み、その絞りかすを牛が食べ、その牛糞が今度は虫の栄養になるといった生の営みを見て、混沌とした中に生きる実感を得たのです」と菊池は語る。

● 初めて家業を意識する 大震災を機にプロジェクトを開始

 インドでは今でも人口の3割、約4億人の人々が電気のない生活を強いられ、ランプによる火事が起きたり、子どもは夜になると勉強できず、親も内職ができない。また、街灯がなく夜道が危険といった社会問題が起きている。

 「夜の灯りを点すだけなら、大したエネルギーは要らないんです。インドのように電気のない生活をしている世界の4分の1の人たちに灯りを届けたいと思いました。と同時に、西洋式の自然を制御する考え方では社会のサステナビリティを維持できないのではないか。もっと東洋的な発想を取り入れた物理学もあり得るのではないかと考えました」

 そう考えた菊池の脳裏に浮かんだのは家業だった。それまで思いもしなかったが、茨城製作所のモーター技術を使ってサスティナブルな社会づくりに貢献できるのではないかと思った。

 2009年に菊池は帰国し、茨城製作所に入社した。会社に入って感じたのは日立という巨艦に頼る社員の甘えだった。
 「最後は日立が守ってくれるという意識を感じました。このままではいけない。さらに技術力や品質、営業力を上げるには自社製品をつくることが必要だと思ったのです」

 次第に菊池の中で水流を使った軽水力発電のアイデアが形を成していった。そのとき起きたのが、2011年の東日本大震災だった。日立市でも断水が11日間、停電が6日間続いた。菊池は改めて夜の灯りと携帯電話の充電電源の必要性を感じ、Cappaプロジェクトは一気に進み始めた。

 社内にプロジェクトチームをつくり、日立をすでにリタイアしたシニア技術者達を招聘した。機械や電気設計、制御など5人を集めた。また水車の研究開発では茨城大学工学部の西泰行(准教授)の協力も得た。

● F1カーにヒントを得て 軽水力発電の実用化に成功

 菊池の頭の中には基本設計はあった。だが、問題は流速だ。発電エネルギーは流速の3乗に比例する。流速を1.6倍以上にできれば、取り出すエネルギーは4倍になる。

 「速度を上げるにはどうしたらいいのか。考えているうちに思いついたのはオックスフォード大学の近くにあったマクラーレンというレーシングチームでした」
 
 F1カーは速度を上げるために車体の下を通り抜ける気流の速度を上げ、気圧を下げて車体の安定性を図るディフューザーという部品が使われている。これを応用して、水流の集水部をディフューザー構造にすると共に、後方に水流を受け止めるエラ状の増速プレートを設け、負圧を生み出すことで流速を1.6倍にすることに成功した。

 茨城大学准教授の西と1年かけてシミュレーションを繰り返し、試作機をつくったが、課題はデザインだった。性能は上がってもデザインが悪ければ売り物にならない。そこで、デザイナーである武藤暁子の協力を得た。

 「武藤さんは構造設計担当者や西先生とかなり激しく議論し合いましたが、お蔭で洗練された製品になりました」
 2013年末に発売されたCappaはその画期的なデザインから「ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)」を受賞した。武藤はブランディングも担当し、「ibasei」(イバセイ=茨城製作所の通称)という新しい会社ロゴを作成した。

 完成したCappaを、菊池はまず海外で試したいと考えた。電気に恵まれていない開発途上国で役立てようと、スリランカ、インド、ネパール、ミャンマーなどを調べた。その結果、水力発電が盛んで、運用環境の厳しいネパールで技術・ノウハウを確立しようと決めた。

● 主力製品「Cappa」「Kingyo」で 本丸・インドへの進出を模索

 2015年から国際協力機構(JICA)の支援を受けてODA(政府開発援助)を活用し、事前調査、準備を進めてきた。2017年11月に設置した際には、現地で170人も集まる盛大なイベントが開かれた。現在、Cappa3台とKingyo2台を3ヵ所に設置しテストを行っている。ゆくゆくは設置台数を増やして、夜間の灯りを日常的にし、子どもたちの学習環境の向上やEラーニングの導入などを考えている。

 ネパールで成功すれば、いよいよ本丸のインドにも進出する予定だ。「アジアの電気がない地域にはすべて普及させたい」と菊池。海外に灯りを点すCappaが日本に逆輸入される日も近いだろう。

 (本文中敬称略)

 株式会社茨城製作所

 事業内容:モーター、発電機などの開発・製造・修理、小型水力発電機の開発・製造・販売など自然エネルギー関連事業ほか
従業員数:100名
所在地:茨城県日立市神峰町4-7-10
電話:0294-21-5135
売上高:10億円(2016年度)
URL : http://www.ibasei.jp/

 (ルポライター 吉村克己)

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