2018年6月19日火曜日

日本政府が「本格的な移民政策」に踏み出したと言える理由

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180612-00055905-gendaibiz-bus_all
6/12(火) 、ヤフーニュースより

時代遅れの外国人受け入れ政策
 人手不足を背景に外国人労働者が急増している。2017年12月の厚生労働省の発表では128万人を数え、過去最大となった。しかし、日本政府は「移民政策をとらない」と明言してきた。

 政府のこの主張は外国人の定住を認めないということではない。実は大卒者、ホワイトカラーの分野について日本の外国人労働者の受け入れはアメリカよりもはるかに開かれている。

 日本人がアメリカの大学に留学し卒業してもアメリカの企業で働く労働ビザが出ないことはきわめてよく聞く話である。アメリカの就労はトランプ政権以前からも厳しく規制されていた。

 一方、日本の場合はどうか? 
 日本の大学を卒業した外国人が国内で働こうとした場合、ほぼ問題なく就労可能なビザが発行される。

 日本の大学の卒業生ばかりではない。海外の大学の卒業者であっても、受け入れ先の企業が決まっており、求める職能にふさわしい学部の卒業生であれば日本では働くことが可能である。

 東京のビジネス街には、現実に何万人ものホワイトカラーの外国人が働いている。そして彼らは日本で10年間、継続して働けば永住権を得る資格を申請することもできる。

 では政府が主張してきた「移民政策をとらない」とは何を意味するのだろうか? 
 それは、大卒者以外の外国人労働者の雇用を原則として認めず、またその結果、定住を認めないことを意味する。現場労働、いわゆる単純労働の分野の外国人の就労を認めないということである。

 しかし、現在、人手不足が最も厳しいのはこうした分野、例えば、農林水産業や製造業、サービス業、建設業である。

 日本では毎年公立の小中高校が500校を越える勢いで廃校となるほど若者の減少は続いている。今後、さらに少子化が進むことが想定されており、現場労働の分野で今後、日本人の就業者が増える可能性はゼロに近い。

 ではなぜ単純労働の分野で外国人の雇用が認められてこなかったのか? 
 それは時代認識のギャップがあるためと考えられる。

 日本の人口が増加していた時代には、いわゆる単純労働の分野は人手が余り、日本人の間で職の奪い合いが起こっていた。

 一方、大卒者の数は限られ、産業の高度化を達成するためにも海外からの人材が必要とされていた。

 しかし、時代は様変わりした。

 少子化が進んだ現代では若者の大学進学率が上昇するとともに、過酷な現場で働くことを忌避する青年が増え、その結果、いわゆる単純労働といわれる分野の多くは継続的な人手不足が発生している。

 政府はそうした分野はロボットやAIの導入で人手不足を目指すとするが、実際に起こっているのは人手不足による倒産である。帝国データバンクによれば、2017年度の人手不足倒産は初めて100件を越え、2013年度比で2.5倍に増加した。

 5月に放送されたNHKの「縮小ニッポンの衝撃」では、幼稚園の児童の送迎バスを運転する70をはるかに超えた高齢者が、運転に自信がなくなり引退したくても代わりが見つからない現実が明らかにされたが、人手不足は高齢者の過重労働を引き起こしている。

 雪下ろしもそうである。高齢化が進んだ集落で屋根の雪下ろしをするために毎年、高齢者が犠牲になる事故が全国で頻発している。

 しかし、考えてみれば、高齢化した日本人がリスクのある仕事をしなくても済む方法がある。海外から若者を招き入れ雇用すればよいことであるが、それを日本は拒否してきた。

 たとえてみれば、金持ちの家で、他人を雇うお金はあるにもかかわらず、他人を家に入れるのは嫌だという家長の命令の下で、家族全員が身体を悪くするまで疲労困憊して働いているようなものといえるだろう。
モラルハザード化する現場
 さて、政府の主張する「移民政策をとらない」は実態としては底が抜けつつあった。

 現実には外国人労働者は急増しており、日本に在留する外国人もうなぎ上りに増加し、2017年末には256万人と過去最高に達した。

 では移民政策がないなかでなぜ外国人労働者が増え続けてきたのだろうか? 
 一つは政府が従来から認めている大卒者、ホワイトカラーの労働者が増えているからである。さらに大きな理由は本来、働くことができないはずの単純労働の分野で働く外国人が増加していることによる。

 彼らは正面切って働くことができないため、さまざまな手段を使って入国し、実質的に就労している。その主要な方法は「技能実習生」といわゆる「デカセギ留学生」である。

 人手不足と今後、加速する人口減少の下で外国人労働者の継続的な増加が予想されるが、この技能実習生やデカセギ留学生による「労働人口の自動調節弁」に任せておいてよいのだろうか? 
 技能実習制度は1993年に開始され、当初より途上国の人々が日本の進んだ技術を学んで自国の産業の発展に役立てることを目的としている。

 しかし、この制度の下で、外国人を安い労働力として活用する例も多発し、さらに賃金未払いや過酷な労働を強いるなど数多くの労働法違反の事例が発生した結果、制度の厳格化のための技能実習法が2017年に制定された。

 この法の第三条には技能実習制度は国内の労働力の調整のためではないと明確に謳われている。

 ところが、技能実習生の数は昨年、過去最大となり、実態としては人手不足のために労働者を求めて日本企業はこの制度を利用している。

 さらに、技能実習生で来日した外国人は年間6千人程度が失踪している。これは母国で聞いたほどの給与が得られないなどの理由によるもので日本の闇の世界に入っていく。将来の社会の不安定化につながりかねない憂慮すべき事態といえる。

 一方、デカセギ留学生も急増している。母国でブローカーの口車に乗せられ日本では留学生ビザで働けると聞かされて来日するケースが増加している。

 日本に来るためにブローカーに100万円近いあっせん費を支払うケースもあるといわれるが、本来、留学生は資格外労働として週28時間以内でしか働けない。

 月に稼げるのはせいぜい10万円程度に過ぎず、であれば学費はおろか生活費を稼ぎだすこともできないはずだ。

 しかし、ブローカーが暗躍するように一部の留学生は28時間を越えて働き、また人手不足の危機に陥った日本の企業は彼らが28時間を超えて働く違法状態であることを知りながら、留学生を雇用せざるを得ないという悪循環、モラルハザード状態に陥ろうとしている。

 アベノミクスによって経済がよくなった結果、深刻な人手不足が発生し、そのため不法就労の外国人を雇わざる得なくなるという皮肉な結果が引き起こされている。

 そもそも、留学生の労働力を当てにすること事態、日本特有の異常な現象である。他の国で労働力として留学生に依存しようと考えている国はない。留学生はあくまで勉学が目的であり、労働目的であれば労働者として受け入れるのが筋だからだ。

 日本では「移民政策をとらない」という大前提のために、深刻な人手不足に陥りながら、外国人労働者を正面から受け入れることができず、そのため極めていびつな形での実質的な外国人労働者の増加が続いている。

 このままでは、制度の矛盾が拡大するとともに違法行為が横行する可能性が高まるばかりだった。
新たな政策のゆくえ
 移民政策をとらないとする政府に対して、自民党ではその政策の見直しの動きが開始された。

 4月27日に発表された自民党の経済構造改革に関する特命委員会による「経済構造改革戦略:Target 4」では極めて注目すべき内容が盛り込まれた。

 外国人材の活用について、「いわゆる移民政策をとらないことを前提に、技術や技能を有する外国人材をこれまで以上に活用していく。具体的には、技能実習の修了者等が、わが国で働く道を開き、わが国で就労することができるよう新たな就労資格を創設する等の方向で制度の創設を図る」とした。

 これを受けて6月5日に政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表した。

 ここでは(1)在留期間の上限を5年とする就労を目的とした新たな在留資格を創生すること、(2)滞在中に行う試験の合格者には家族帯同と定住を認めること、(3)すでに定住している外国人に対して生活者としての総合的な対応策をとる、という画期的な方針を示した。

 「移民政策とは異なる」との文面が残ったもののこれは保守派への配慮であり、海外からは日本は本格的な移民政策へ踏み出したととらえられるだろう。

 さてこの方針転換は英断といえるが、いくつかの疑問点、また今後検討すべき余地も残されている。

 一つは従来の「技能実習制度」との関係である。

 労働を目的とする受入れ制度ができるのであれば、技能実習制度は廃止してもよさそうではあるが、二つの制度が並行して存続することになるようだ。

 今後は技能実習制度は本来の目的である技術移転を目的とした人々のみを受け入れ、就労目的の外国人は新制度へ移行すべきであるがその道筋は現在では不透明である。

 現状で30万人近い技能実習生の処遇を含め、しっかりした移行を考える必要があり、また新たな制度の中身も他国に引けを取らないものにしていく必要がある。

 韓国では労働者として単純労働の分野で外国人労働者を受け入れる「雇用許可制」をとっている。この制度では16ヵ国から30万人近い労働者を受け入れており、個別的な課題はあるが全体的には極めて評価が高い。

 筆者は5月に外国人受け入れ政策について学ぶため韓国を訪問し、雇用許可制に関する多数の関係者から意見を聞く機会を得た。

 雇用許可制は日本の技能実習制度をまねて、研修生として受け入れた産業研修制度が労働法違反などの深刻な問題が多発したことを受けて創設された政府が直接管理する制度である。

 韓国政府は雇用許可制の下で働く外国人労働者が抱えるさまざまな課題に対応するため、全国43ヵ所に相談窓口を設けている。

 筆者はソウル市北部のウィジョンブ市の施設を訪れたが、6階建ての建物すべてが相談施設で、12ヵ国の言語による雇用許可制による労働者の相談対応に当たるほか、多言語の図書館、集会所、さらには彼らの趣味を支援するための活動まで政府によって行われていることに驚いた。

 雇用許可制度によって韓国で働きたいとする海外の希望者は極めて多い。韓国で働くベトナム人やネパール人の話では、両国では希望者が殺到し、その倍率は10倍超えており、その結果、極めて質の高い人材が韓国で働いている。

 一方、日本の技能実習制度は人気がなく、高校中退者などの若者も技能時実習生で日本に来日しているという。「良い制度には良い人材が集まる」という事実を認識する必要がある。
後戻りできない歴史的な変化
 二つ目の新制度の課題は、定住の可能性が開かれたが、試験の内容を含めその具体的な仕組みを早急に明確化する必要があることだ。

 定住が可能になれば、デカセギではなく、最初から定住目的で優秀な人材が日本を目指すことになる。定住を目指す人々は日本での家族との生活や仕事の成功を夢見て、日本語の学習や日本の文化や社会の仕組みについても熱心に学ぶことになるだろう。

 政府は新制度での定住のための要件や道筋を明らかにすべきである。

 最後は生活者としての定住外国人の対応である。

 すでに260万人近い在住外国人の間にはこれまでの政府の対応についての不満は高かった。

 日本政府は外国人を歓迎しているのかどうかが不透明で、その結果、彼らの生活やあるいは彼らの子どもの教育も中途半端な状態に置かれてきた。

 増加する外国人住民に対して自治体、NPO任せで、移民政策とらないという立場上、政府は等閑視してきたといってよいだろう。

 今後、その政策が大きく変わることが予想される。従来はボランティア任せだった日本語教育もドイツや韓国のように政府が責任をもって当たることになるだろう。

 今回の方針転換は、外国人の本格的な受け入れの姿勢を政府が示したものであり、単一民族的な色彩の強かった日本が多様な文化を持った人たちとともにこれからの日本を支えるという方向に舵をきったことを意味する。

 それは後戻りできない歴史的な変化でもある。単なる経済的な側面の変化だけでなく、閉塞感を打破し、日本の持続可能な未来に向けて新たなステップを踏み出したことを意味する。

 今回の政策転換は日本の歴史に新たなページが開かれた出来事と将来、解釈されることになるだろう。
毛受 敏浩

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