◆ベトナムやネパールから続々
東京都内の在留外国人が、昨年末までの5年間で4割近く増えた。以前から多い中国のほかに、ベトナムやネパールからの留学生が急増している。新たにやって来る外国人を取り巻く課題は何か。変わりつつある「コリアンタウン」、新宿・大久保で探った。
韓国料理店が並ぶ新大久保駅近くの大久保通りから入った路地に昨春、ベトナムカフェ「EGG COFFEE」ができた。卵とミルクを泡立てて乗せたベトナム名物の甘いコーヒーを飲みながら、店内はベトナム、韓国、日本などいろんな国の言葉が飛び交う。
「夜は学校を終えたベトナム人がたくさん来てくれる」と話す店長のズオン・アン・ドゥックさん(29)も5年前、ベトナム北部の町から来た留学生だった。ベトナム人向け無料情報紙を出すドリームパーク社(東京都新宿区)によると、大久保地区には飲食店や雑貨店などベトナム関連の店が約30店舗あるという。
新宿区の調査では、大久保地区は5月時点で人口の28%が外国人だ。働き口がある歓楽街・歌舞伎町に近く、日本語学校も多いため、外国人が集まってきた歴史がある。区内の外国人の割合は、中国32%、韓国23%に次ぎ、ベトナムとネパールが各9%。
133カ国・地域の人々が住むといい、区の内野桂子・多文化共生推進課長は「多国籍化が年々進んでいる」と話す。
「EGG COFFEE」の常連、グェン・ティ・フゥオンさん(24)は2013年1月、ベトナム中部のヴィンから大久保にやってきた。自営業を営む母に「仕事の少ないベトナムより、外国で勉強した方が良い仕事に就ける」と勧められたからだ。高校を出て日本語を半年間学んだ後に来日し、大久保の日本語学校と専門学校に計4年在籍。昨春、中国の大学の日本校に入ったが、今は衣料店経営を目指して在留資格の切り替え手続き中だ。
区によると、区内のベトナム人の8割、ネパール人の4割が留学生という。留学生問題に詳しい東京工業大学の佐藤由利子准教授(教育社会学)は「東日本大震災後に中韓の留学生が多数帰国したため、日本語学校がベトナムやネパールで学生募集を盛んに始めた」と分析する。
問題になるのは生活費だ。区が15年に区内の外国人5千人にアンケート(1275人が回答)し、生活で困ったり不満だったりすることを尋ねると、「ことば」(25%)に次いで「金銭的な問題」(18%)が多かった(複数回答可)。
日本語学校の学生の多くは渡航費に加え、学費や当面住む寮の費用を学校に払う。03年に来日し、大久保地区で情報紙「ネパール新聞」を発行する会社の役員、シュレスタ・ブパール・マンさん(44)は「留学には100万円以上の初期費用が必要。来日前に銀行や親族から借金する学生が多い」と話す。
悪質業者も指摘される。「仲介業者(ブローカー)に注意!」。ベトナム大使館のウェブサイトに3月、こんな注意文が載った。「勉強しながら、アルバイトで1カ月30万円稼げる」「3千円の時給がもらえる」……。こうしたウソで日本への留学希望者を募り、1千ドル、2千ドルと仲介料を求める業者がいるとし、「甘い誘いに乗ると、高額の借金を背負うことになりますよ」と釘を刺す。
厚生労働省によると、都内で働く外国人は17年10月時点で約39万5千人おり、その32%の約12万7千人が留学生だ。複数の事業所で働く人を重複計算しているため単純に比べられないが、都内に住む留学生約10万5千人の多くが働きながら学んでいるとみられる。
「日本に来て一番嫌な時。帰りたかった」。フゥオンさんは、神奈川県内の弁当工場で週4回働いた来日1年目のことを振り返る。授業の後に電車とバスで1時間以上かけて通い、時には朝まで弁当に総菜を詰めた。「夜の仕事は学校と掛け持ちできる。工場だと、周りの日本人とあまり会話しなくて済むし」。約1年続けた後、居酒屋、コンビニ、牛丼チェーン店とバイト先を変えた。
留学生は、資格外活動として週28時間まで働ける。ただ借金分を稼ぐため、隠れて超過労働する学生は少なくないという。来日5年目のネパール人大学生(28)は「働ける時期は週28時間を超えて働くこともある」と明かす。
都内は人手不足だ。有効求人倍率は16年5月から24カ月連続で2倍を超す。大久保駅前の居酒屋「たぬ吉」は従業員7人のうち4人がベトナム人留学生。岩崎健店長(32)は「みんな勤勉でまじめ」と話すが、言葉がうまく話せずサービスがおろそかになる場面もあるという。「日本人だけを募集しても時給の良い職場に流れてしまい、数がそろわない。ベトナムの子が支えてくれている」と話す。
(岡雄一郎、山田知英)
◆在留外国人 5年で37%増
◇都内 昨年末で53万7502人
法務省によると、東京都内の在留外国人は2017年末時点で53万7502人で、39万3585人だった12年末から37%増えた。国内全体では同期間に約53万人増えて約256万人に。その増加分の3割近くが都内だった計算だ。
詳しい内訳が分かる17年6月時点の統計によると、都内の在留外国人は国籍別では、中国が最多の38%で、次いで韓国18%、フィリピン6%、ベトナム6%、ネパール5%など。12年末よりベトナム人は6・5倍、ネパール人は2・9倍にそれぞれ急増した。
在留資格別では、都内では「永住者」が26%と最も多く、次いで「留学」が20%、専門知識や技術を生かした仕事をする「技術・人文知識・国際業務」が13%など。「留学」は全国平均より約8ポイント高い。「労働搾取の温床」とも指摘される「技能実習」は、全国は10%だが、都内は1%だ。
市区町村別では、新宿区が4万3354人で最も多く、人口比も12・65%で最高。人口比は、豊島区9・66%、荒川区8・67%、港区8・29%、台東区7・47%、福生市6・36%、北区5・98%などと続く。
在留外国人の人口比が高い都内自治体
新宿 12.65
豊島 9.66
荒川 8.67
港 8.29
台東 7.47
福生 6.36
北 5.98
江東 5.52
中野 5.12
千代田 5.03
江戸川 4.81
中央 4.76
渋谷 4.64
墨田 4.58
葛飾 4.49
(単位は%。2017年6月の在留外国人統計と同月の推計人口を元に作成)