Source: http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160409-00000536-san-asia
産経新聞4月9日(土)、ヤフーニュースより
ネパールのオリ首相が2月から3月にかけて、インドと中国を相次いで初訪問した。ヒマラヤの内陸国ネパールにとって、自国をはさむアジアの両大国と良好な関係を維持するのは外交の最優先課題だ。インドとは新憲法制定をめぐり悪化した関係を修復し、中国とも物流を活発化させる道筋をつけ、両国との微妙な距離を測る綱渡りの外交を展開した。
ネパールの歴代首相は初外遊先に、経済を依存し、文化的にも近いインドを訪問するのが通例だ。しかし、昨年秋に首相に就任したオリ氏は、訪印直前まで、中国を先に訪問する可能性があることをほのめかしていた。
理由は、昨年9月に制定された新憲法めぐり、インドとの関係が悪化していたことにある。インドは新憲法について、ネパール南部の平野部に住む親インド住民「マデシ」の権利擁護を求めて不満を表明。マデシがインドとの国境を封鎖し、オリ氏は「インドによる非公式の国境封鎖だ」とインドを非難していた。
今年になってようやく、ネパールがマデシやインドの大半の要求を飲んで憲法改正を行い、国境封鎖が解かれ、2月20日にオリ氏はニューデリーでインドのモディ首相との初会談に臨んだ。オリ氏はこの後の記者会見で、「数カ月間続いていた誤解は、もう存在しない」と述べ、関係正常化を表明した。
両首脳は会見の席上、インドからネパールへの送電線使用を開始するセレモニーを行った。また両国は、インド国境に近いネパール南部の道路整備を急ぐ合意文書などに調印した。
インドにとり、マデシの発言力が確保できないことは、ネパールに対する影響力低下につながる。インド政府は国境封鎖への関与を否定してきたが、ネパールではもちろん、インドの一部識者の間でもマデシの背後にはインドがいたとみなされている。
一方、インドの影響力が弱まれば、得をするのはネパールのもう一つの隣国、中国だ。ネパールはガソリンやガスの供給元を100%インドに依存してきた。国境封鎖により、燃料不足に陥る中、オリ政権は中国を頼り、中国は無償で燃料を支援、商業ベースでの輸出も約束していた。
しかし、ネパールと中国の間にはヒマラヤ山脈の険しい山道しかない。本格的な物流を実現するためには大規模なインフラ整備が必要になる。
中国はオリ氏の初外遊先をインドに奪われたものの、3月21日に李克強首相がオリ氏と会談し、両国が陸空の連結性を高め、交通インフラを改善することで合意した。具体的には、ネパールの中国国境へ向かう幹線道路の整備の実行可能性調査を促進し、国境をまたぐ鉄道建設案について、両国間で意見交換するとしている。
こうした交通網の整備は、直ちに実現できるものではないものの、ネパールは、インドの圧力に対抗するテコを得たことになる。ただ、今回の中印両国訪問に至るまでの国境封鎖の約4カ月半間で、昨年4月に大地震で被災した住民の生活は深刻化した。オリ外交の成果は、住民の犠牲の上に成り立ったともいえる。(ニューデリー支局 岩田智雄)
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