2022年3月1日火曜日

ネパール山岳児童の身体能力特性-疾走・跳躍能力を中心に-

 Source:https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202202250010-spnaviow

 
日本スポーツ産業学会

【イメージ写真】

高い跳躍高を達成する能力に重点が置かれた身体能力が形成されていると推察

【目的】
近代化以前の生活が残っているネパール国の山岳農村の環境は、子供の身体能力や疾走・跳躍能力に影響を与えると考えられる。
本研究は、ネパール山岳農村に住む児童の身体能力について、特に疾走・跳躍能力に着目して、その特性を明らかにすることを目的とした。

【方法】
11歳の男子児童13名が研究に参加した。身長、体重、握力、および立ち幅跳び(SLJ)を、新体力テストの実施要領に従って測定した。除脂肪量(FFM)と脂肪量(FM)を、熟練した検者が測定した皮下脂肪厚から算出した。20m走をストップウォッチによって測定し、横方向から撮影したビデオ映像(1/300fps)から、接地タイプを前足部接地(FFS)、中足部接地(MFS)、後足部接地(RFS)に分類した。5回連続リバウンドジャンプ(5RJ)では、マットスィッチにより滞空時間と接地時間(RJ-c)を測定し、跳躍高(RJ-h)とリバウンドジャンプ指数(RJ index、 RJ-h / RJ-c)を算出した。5RJの前には、できるだけ短い接地時間で高くジャンプするよう指示し、数回練習させた。20m走と5RJは、共に裸足で試技を行わせた。

【結果・考察】
ネパール山岳児童の形態と運動能力を同年齢の日本人の平均値と比較すると、身長(p〈0。001)、体重(p〈0。001)、握力(p〈0。001)、およびSLJ(p〈0。05)の全てにおいて、両者の間には有意差が認められた。
この差は、栄養状態や運動能力の向上につながる身体活動の違いに起因するものと推察された。形態と運動能力の関係において、握力は体重およびFFMとの間に有意な相関関係を認めたが(p〈0。01)、FMとの関係は有意ではなく除脂肪体重の大きさの重要性が示された。

SLJはFMとの間に有意な負の相関関係を認め(p〈0。05)、脂肪量の少なさの重要性が示された。一方、20m走は形態との間に有意な関係を認めなかった。5RJの各指数、SLJ、および20m走の間の関係において、 RJ-indexはRJ-hとの間に有意な相関を認めたが(p〈0。01)、RJ-cとの関係は有意でなかく、RJ-cとRJ-hの関係も有意ではなかった。RJ-hは、SLJとの間に有意な相関を認めたが(p〈0。05)、20mとは有意な関係ではなかった。

RJ-indexは、接地時間を短縮する能力と高く跳躍する能力の両者により構成されている。ネパール児童においては、大きなパワーを発揮し高い跳躍高を達成する能力に重点が置かれた身体能力が形成されていると推察された。20m疾走中の映像から分類された接地タイプは、 FFSが6名、MFSが2名、RFSが5名であった。FFSとMFSは、足の前部で設置する5RJと同様にStretch-Shortening-Cycle(SSC)を利用しやすい接地タイプであるため、8名を一つのグループとし(F・MFS)、5名のRFSと疾走・跳躍能力を比較した。

F・MFSでは、RJ-indexおよびRJ-hは高値を、RJ-cは低値を示す傾向が見られた。また、F・MFSは、SLJでは高値を、20m走では低値を示す傾向が見られた。これらの結果は統計的に有意ではなかったが、F・MFSは、短い接地時間で大きなパワーを発揮することにより、高い疾走・跳躍能力を獲得している可能性が示唆された。

【結論】
本研究は、ネパール山岳農村に住む児童の身体能力について、特に疾走・跳躍能力に着目してその特性を明らかにすることを目的に身体能力を調査し、以下の結果を得た。
ネパール山岳農村児童の身長、体重、握力、およびSLJの測定値は、同年代の日本人より著しく低い値を示した。形態と運動能力の関係において、握力と体重およびFFMは正の、SLJとFMは負の相関関係が示された。

RJ-indexはRJ-hとの間に有意な相関関係が認められた。20m疾走中の接地タイプを分類すると、FFS:6名、MFS:2名、RFS:5名であり、FFSとMFSはRFSと比較して疾走・跳躍能力が有意ではないが優れている傾向を示した。ネパール山岳地域の環境の身体能力への影響について、さらに詳細で継続的な調査が必要であろう。

得居 雅人 九州共立大学
中尾 武平 九州産業大学

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