以前のように躊躇なく海外旅行に行けるようになるのは、いつになるだろうか? もう少し時間はかかりそうだが、決してそう遠い未来でもないかもしれない。その瞬間のために、今から少しずつ計画を立てておきたい。山好きなら、ネパールはいかがだろうか? 今回はネパールの山以外の魅力について紹介したい。
渡航先の感染状況やPCR検査などの条件付きではあるものの、3月から帰国後の待機期間が現状の7日から3日(もしくは待機なし)に短縮されます。1日の入国者数上限も3,500人から5,000人まで引き上げるということで、海外旅行の本格的な再開へ光がさしはじめたと感じる方も多いのではないでしょうか。
気まぐれなウイルスのせいで、この先の見通しはなかなか立ちませんが、旅行会社で働く筆者としては、「ビジネス目的以外の渡航は今夏から徐々に再開。秋または冬に入国制限を完全撤廃し、大々的に海外旅行を楽しめるようになる」というのが、希望的観測を大いに含めた現時点での予想です。今回は秋以降にお勧めの渡航先として、山好きなら一度は訪れてほしいネパールの旅の魅力をご紹介したいと思います。
マナスル西壁のアーベントロート。しかし、ヒマラヤ以外にもネパールの魅力はたくさんある
ヤマケイオンラインの読者であれば、「ネパールといえば?」という質問に「ヒマラヤ!」と即答されることでしょう。たしかに世界最高峰・エベレストを擁する大山脈の美しさや迫力、それらをトレッキングで間近に望める魅力はネパール唯一無二のものです。しかし、筆者がコロナ明けの旅先にネパールを推す理由は、ヒマラヤトレッキングだけに留まりません。
<ネパールの魅力> やさしくのんびりしたネパール人
カトマンズ近郊で行われていたお祭り。クマリという生き神の少女もにこやかだが、本当は笑っちゃだめ
しつこい物売りなど「圧」が強いイメージのインドに対し、隣国ネパールの人々はどこかお人好しであり、やさしく親切な方が多い印象です。
ネパールを旅するとしばしば耳にする「ビスターリ(のんびり、ゆっくり)」という言葉に、原理主義的でいつも忙(せわ)しない日本で生活する筆者は何度ハッとさせられたことでしょう。ネパールはかつてバックパッカーの聖地としても人気を博しましたが、人付き合いに疲れない居心地の良さこそ、多くの若者たちを“沈没”させた魅力のひとつだったのではないでしょうか。
インドと中国という大国に挟まれており、国内に30以上の民族が同居しているネパール。いろいろな諍いがあるのは当然ですが、外から見る限り、なんとなくうまくやっているように感じます。ダイバーシティやインクルージョンが声高に叫ばれる現代、ネパール人の「ビスターリ多元主義」とも言える気質は、むしろ先進国が学ぶべき姿勢なのかもしれません。
<ネパールの魅力> ご飯が美味しく日本人にも馴染みやすい
ネパールではヨーグルトや納豆、漬物のような発酵食品も多用する。おかわり自由なのでお腹いっぱい
「ネパール料理ってインドカレーの仲間みたいなもの?」と思われた方、半分正解です。事実、日本のインド料理屋には多くのネパール人が働いていますし、ネパールのレストランでも鶏や羊、魚などのカレーが供されることは多いです。
一方、ネパールの一般家庭でカレーを目にする機会はあまりなく、ほとんど毎日ダルバート・タルカリという料理を食べています。スパイスとハーブで香り付けをした豆のスープ(ダル)をご飯(バート)にかけ、主に青菜などの付け合せ(タルカリ)や、アチャールと呼ばれるサルサのようなソースを好みで混ぜていただきます。
豆の種類や利用するハーブ、食材を変えればバリエーションは無限大。ダルスープそのものに辛さはないため、日本人にも馴染みやすいのも特徴です。
もちろん、ネパール料理はダルバート・タルカリだけではありません。蒸し餃子のようなモモや、チベット風うどんのトゥクパ、炭火焼きバーベキューのセクワなど、ネパールにはバリエーション豊かなメニューが盛り沢山。美味しいご飯が食べられることは、旅先にネパールを選ぶ大きな理由になるでしょう。
<ネパールの魅力> 真冬でも温暖でバカンスに最適
ネパール南部は温暖な低地が広がっている。ゾウに乗ったサファリが人気だが、夏は本当にめちゃくちゃ暑い
かの有名な映画「インディ・ジョーンズ」のシリーズ第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の序盤では、強大な力を持つ宝物を巡り、主人公が雪の吹き荒れるネパールの首都カトマンズに降り立つシーンが描かれます。
現代の感覚だと「ジャイアント・シェルパ」「モンゴル人」といった悪役モブキャラのネーミングセンスにツッコミを入れたくなりますが、ここで指摘すべきは「ネパールの平地で雪が降るのは極めて稀」ということです。実際のネパールは温暖な国であり、カトマンズ市内で雪が降るとニュースになるほどです。緯度としては奄美大島と同じくらいに位置するため、標高の低いエリアにはブーゲンビリアやバナナの葉が茂ります。
一般的にネパールのベストシーズンは秋と春だとされているものの、気温が下がる高所を除いて真冬の旅行もお勧めです。実際、ネパール第2の都市で風光明媚なポカラなどでは、欧米の観光客が冬のバカンスとして長期滞在している姿をよく見かけます。標高4,000m以下くらいのエリア(ネパールでは「丘」と呼ばれるレベル)であれば、年末年始でもトレッキングを無理なく楽しめるでしょう。
<ネパールの魅力> 直行便も! 短期間で行けるアクセスの良さ
ネパールの国内線は遅延・欠航が多いため注意が必要だ。それはそうと、その座席は一体なに?
インディ・ジョーンズに出てくるほど「秘境感」の強いネパールですが、実際のところ現地へのアクセスはそう難しくありません。香港、タイ、韓国、マレーシア、中国などで乗り継ぐルートが複数用意されており、日本からネパールまでの所要時間はおよそ10~14時間。また、2020年には成田/カトマンズ間にネパール航空の直行便が就航しており、成田行きの所要時間は6時間半ほなので、意外なことにハワイより近いのです。
昨今、ネパールでも道路などのインフラ整備が進み、トレッキングルートへのアプローチがだいぶ容易になってきたのも朗報です。エベレスト、アンナプルナ、マナスルなどの名峰を望むトレッキングの場合でも、おおよそ日本発着9日間のスケジュールで行程を組むことが可能です。土日がお休みの仕事をしている方であれば、月曜日から金曜日まで5日間の有給休暇でネパールトレッキングを楽しめます。
思わぬところで「すごい」を連発。刺激的な旅がしたいならネパールへ!
ヒンドゥ寺院にいたネズミ。ゾウの頭を持つガネーシャ神の乗り物らしい。え、乗れるの?
ネパールにおいて、ヒマラヤが多大な観光収益をあげるキラーコンテンツであることは疑いようありません。しかし、筆者がそれ以外の魅力を紹介した理由は、「旅の面白みは想定外のところにもある」と考えるからです。
ネパールでの日々は非日常体験の連続です。ホテルでお湯が出ないなんて日常茶飯事ですし、バンダというストライキによって道路が通行止めになることも珍しくありません。一方、「すごい!」「きれい!」「興味深い!」と感じる小ネタも道端にゴロゴロ転がっています。
ローカルレストランで食べたB級グルメの味、値切り合戦を繰り広げたお土産物屋さんのおじさんの顔、路地裏の寺院で焚かれていたお香の匂い、思わぬところで見かけたブーゲンビリアの花。帰国後、そのような旅の隙間の記憶が脳裏に浮かぶとき、心底、良い旅をしたなぁと感じられるものではないでしょうか。
1日平均で50,000人以上の日本人が海外を行き来していたコロナ前と比べると、まだまだ気軽に海外へ行ける状況だとは言えません。しかし、水際対策が緩和される方向に進んでいるのは明白です。経口治療薬が承認されれば、世論も含めてこの傾向はさらに顕著になるでしょう。五感と知的好奇心をめいいっぱいに使う、刺激的なネパール旅行を楽しめる日も近いと確信しています。