2018年8月8日水曜日

“留学ビザ”でも目的は“労働” 増え続ける外国人留学生たちのシビアな現実〈AERA〉

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180803-00000036-sasahi-pol
8/6(月) 、ヤフーニュースより

 安倍政権は外国人労働者の受け入れ拡大に向けて動きを早めている。7月24日に最初の関係閣僚会議を開いた。年内に対策をまとめる方針だ。だが、現実は、はるかに先をいく。そして、深刻な人手不足が拍車をかける。
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 視界に入る外国人の姿を点で結び、地図なしで会場に着いた。7月18日、東京・新宿であった外国人留学生向けの専門学校進学相談会(東京都専修学校各種学校協会<東専各>主催)には1430人が参加した。この時期は同様のイベントが各地であり、日本語学校に通う外国人留学生でいっぱいだ。日本語学校は最長2年間だが、日本企業が求める日本語能力を非漢字圏の学生が身に着けるのは難しい。専門学校や大学に進学してさらに日本語能力を伸ばし、就職を目指す。東専各事務局長の真崎裕子さんは話す。

「多くは中国、韓国、台湾でしたが、2014年あたりからベトナム、ネパールの留学生が増えています」

 7月、群馬県の専門学校を訪ねた。

 大学全入と言われる時代に直近5年間で学生数が23倍、入試倍率は1.5倍だ。群馬県庁の目と鼻の先に校舎を構えるその学校の名前は、NIPPONおもてなし専門学校(前橋市)。実習中心にホテルや介護現場で学ぶおもてなし学科に、今年から和食を学ぶおもてなし調理学科が加わった。

 13年4月に開校し、現在の学生数は553人。日本人の学生は一人もいない。国籍別に見ると、ベトナム人が202人、ネパール人が189人、スリランカ人が84人など、合計16カ国からの学生が共に学んでいる。

 学生募集担当の高山浩貴さんは「日本人のなかでも群馬県の知名度は低いのに、外国人が知っているはずがない」と自嘲するが、なぜこれだけの外国人留学生が群馬に集まるのか。鈴木良幸校長は迷いなく即答した。

「彼らの目的は日本で働くこと。その意志に応える教育がここにある。就職という出口を準備することが重要だ」

 授業を見学すると、日本文化やパワーポイントの使い方を教えるクラスや、調理実習や採用面接のシミュレーションをするクラスなど、就職を意識した授業内容が組まれている。今春卒業した同校の就職希望者115人のうち、107人は内定を獲得したという。

 おもてなし専門学校の学生は皆、日本語学校の出身者だ。今年度入学した345人の内訳は群馬県内の系列の日本語学校から100人、残りは他府県で、沖縄からの入学者もいる。07年から外国人労働者問題を取材するジャーナリストの出井(いでい)康博さんはこう話す。

「15年には奄美大島、16年には佐渡島、17年には東京都奥多摩町に日本語学校、今年は岡山県瀬戸内市に外国人留学生をターゲットにした専門学校も開校した。瀬戸内は自分の生まれ故郷だが、カキの養殖現場や漁網を編んだり、田舎は田舎で人が足りない。廃校になった校舎の再利用や空き家対策もできるとあって、地域活性化という名のもと外国人留学生の受け入れが進んでいる」
●7割は借金を背負って来日、富裕層は英語圏を選ぶ

 人手不足はもはや全国的な問題だが、日本語学校は13年の467校から17年の643校にまで増加。留学ビザを取得した外国人は同期間で約19万人から約31万人に増えた。なぜか。

 そこに、留学ビザの資格外活動として認められている週28時間のアルバイトがあることは間違いない。

 ベトナムの首都ハノイにある日本語学校を経営するベトナム人男性に接触した。日本国内のベトナム人数は12年に比べ約5倍と他国を圧倒している。ハノイには現在、日本語留学ブームで350校ほどの日本語学校があるという。男性は「ベトナム人が日本に留学に行く目的は仕事」と断言し、こう続けた。

「2、3年前までは日本に行けば月30万、40万円稼げるなどと煽って、借金をさせてでも留学生をとにかく送るブローカーが多かった。日本の日本語学校から1人当たり約10万円のコミッション(紹介料)をもらえるからね。だけど、田舎の若者でもスマートフォンを持つ時代。今はSNSですぐに留学生からの生の情報が出回り、うそはばれる。留学ビザでは週28時間しか働けないこともわかっている」

 週28時間、金額にすると月10万円ほど。それでも、日本への留学を希望する若者は後を絶たない。

「ベトナムは大卒の初任給が日本円で月3万円弱。30万円は稼げなくても、まだまだ魅力はある。週28時間を超えて働く人がいることも知っている」

 日本を目指すのは、

「高校を卒業した、地元で仕事がない若者が大半です。7割は借金を背負って留学に行く。富裕層はカナダやオーストラリアなど英語圏へ留学します」

 留学ビザを取得するには銀行の残高や親の収入を証明する書類が必要だ。あくまで「留学ビザ」で、働くことは前提としていない。

「親の職業は農民だけど銀行員と書く。銀行員にわいろを渡し、入国管理局からの電話に対応するよう伝えておく。そうしたことがまだまだまかり通る。書類も、いくらでも偽造できる」

 ベトナム同様に日本への留学生が増えるネパールの日本語学校関係者からは、こんなエピソードを聞いた。

「日本から技能実習を拡大するというニュースが流れた瞬間、日本語学校から学生も入学希望者も消えた。技能実習制度であれば、日本語学習や渡航の費用を自分で負担しなくてすむ。要は、誰も日本語を勉強したいわけじゃなく、日本で働くことが目的なんです」

 取得するのは留学ビザでも、目的は出稼ぎ。学校側も授業料が入るのだからと、それを「黙認する」と語るのは、都内の日本語学校幹部だ。

「日本政府は08年、『留学生30万人計画』をぶち上げ、さらには11年の東日本大震災で多くの留学生が国に帰っていったため、入国しやすくなったと考えている関係者も多い」

 政府としても計画に近づくなら出稼ぎ目的でも多少は目をつぶるということなのか。この「不都合な真実」への甘えに深刻な人材不足が拍車をかける。
●留学ビザで単純労働に従事、温泉街の宿で正社員に

 ベテラン日本語教師の女性は今年に入り、日本語学校を新設しようとする四つの団体から電話を受けた。

「二つは病院関係で、残る二つは介護施設でした。話を聞くと、日本語学校を入り口にして外国人留学生を集め、労働力として使いたいだけでした」

 必要なのは単純労働。だけど、そんなビザはないから、留学ビザで来日してもらう。人材派遣会社や建設会社などが母体の新設校のなかにはそんな思惑のケースも少なくない。日本語学校には運送会社の仕分けバイトの募集広告が必ず貼ってある。コンビニで外国人を見ることも珍しくなくなった。コンビニ弁当の工場やホテルのベッドメイキングなど、もはや単純労働は外国人なしでは成り立たないという。

 7月、記者は前出のおもてなし専門学校の学生たちが通うアルバイト先を訪ねた。群馬県内のクリーニング工場では、インドネシア人のイマニュエルさん(22)が洗濯物の仕分け作業をしていた。平日4時間、土曜日8時間と週28時間働く。同社のスタッフは、「同じ条件で求人を出していたが、日本人がとれなくなった。今は留学生がいなければ仕事が止まります」。

 群馬を代表する温泉街である伊香保温泉の晴観荘(渋川市)では、おかみの茶木(ちゃき)万友美さんに話を聞いた。

「人手が足りなくなったら、もうハローワークではなく、日本語学校に電話します。3、4年前くらいから、ハローワークに求人を出しても人がこない」

 同旅館の従業員はアルバイトを含め18人。6人が留学生で、そのうち3人は正社員になった。日本人と差はつけず、基本給は17万円にした。

「まだ言葉の問題はありますが、仕事ぶりが一生懸命なので。お客さまからクレームが来ることはありません。将来的には幹部になってほしい」

 おもてなし専門学校が新しくキャンパスを開いた人口約3800人の高山村(群馬県吾妻郡)にも足を延ばした。後藤幸三村長は村の活性化に期待を示す一方、「学生に十分なアルバイト代を与えられるかどうか。村の農家と話し合いを続けている」と不安を見せた。同村の牛舎を訪ねると、スリランカ人のラディさん(28)が搾乳作業のアルバイトをしていた。こうした仕事も外国人留学生に支えられている。

 留学生たちも支えているばかりではない。週28時間の上限を無視して働き、学校は寝るためにくるという学生もいる。新設校のなかには「学生が入れば後は知らない」というところもある。
●在留期間を区切ることで、「移民政策をとると考えない」

 日本語学校同士もバラバラだ。かつて日本語学校の審査・認定は日本語教育振興協会(日振協)が行ったが、民主党政権時の事業仕分けで許認可権が法務省に移った。日振協の佐藤次郎理事長はこう話す。

「認定した学校を3年ごとに再審査する制度まで廃止されるなど、チェック機能が弱まった。現在、日振協に加盟する教育機関は法務省が告示した学校の半分に満たない。新設校と学校運営のノウハウなどを共有する場所もなくなり、横の連携が切れた」

 もっとも、日本語学校と書いてきたが、各種学校の分類に入る「私塾」に過ぎず、補助金をもらっているわけでもない。仮に一部の国の学生が取れなくなれば、出稼ぎだけが目的だと分かっていても、他の学生を入学させて経営を安定させようとするのが世の常だ。そもそも、零細企業が多い日本語学校に、外国人の受け入れを丸投げしてきたことがおかしい。国と地方自治体に責務があると初めて明記した「日本語教育推進基本法」の成立を目指す、超党派の「日本語教育推進議員連盟」会長代行の中川正春元文部科学相は、

「安倍政権は移民という言葉自体を認めず、外国人を労働力としか思っていない。好き嫌いにかかわらず、外国人は日本に入ってくる。外国人を受け入れる社会基盤の準備が必要だ」

 その上で日本語学校について、

「出稼ぎ目的でくる人、進学を目指す人、日本語学校への留学目的がいろいろ。類型化が必要だ」

 と語る。安倍首相は6月に決定した「骨太の方針」で外国人労働者の受け入れに大きく舵を切ったが、在留期間を区切ることなどから「移民政策をとる考えはない」と明言している。一方、国連が定義する移民は「通常の居住地以外の国に移って少なくとも12カ月以上居住する人」とあり、増え続ける外国人留学生もこれに該当する。

「安倍さんを強固に支持する右側の支持者の手前、移民とは言えない」(閣僚経験者)

 ここにも不都合な真実があるようだ。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年8月6日号

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