2020年7月28日火曜日

「県別コロナ感染者数の差は何を示す?」藻谷氏の視点

Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/bb8dc96d352e966e0762d3244413c7fa7a97dbf1

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毎日新聞

 新型コロナウイルスの国内の新規陽性判明者数は、ゴールデンウイーク明けから1日100人を切っていたが、6月末より再び増加している。だが、全国の数字だけでなく、地域別の数字も確認してみてはどうだろうか。地域エコノミスト・藻谷浩介さんの分析です。【毎日新聞経済プレミア】  ◇日本をひとくくりで考えると間違う  北九州市と広島市。ともに人口100万人前後の工業都市で、新幹線なら50分の距離だ。海沿いの狭い平地に、工場と繁華街が集積し、住宅が丘陵地をはい上る都市構造も似ている。しかし7月6日現在の新型コロナウイルス陽性判明者数の累計は、北九州市が252人に対して広島市が86人と、3倍近く違う。同じウイルス、同じ国内でなぜ差が出るのか。  筆者のような医学が専門ではない者がコロナ問題を分析することに対し、いろいろ批判をいただく。だがむしろ、感染症の知識だけで、個別の地域特性に対する知見なしに、国内外双方で地域差の大きいコロナ禍の現実を読み解くことはできないのではないか。  図は、国内の各都道府県と一部の大都市の感染状況を示したものだ。7月6日までの陽性判明者数の累計を、人口100万人当たりに換算することで、どの程度ウイルスが蔓延(まんえん)しているか、いないかが一目瞭然になる。  図中には、同じく7月6日時点でのいくつかの外国での感染の水準を、全国平均とともに横線で示した。これにより、日本を全国合計の数字でひとくくりで語ることの危うさがわかるだろう。世界でも特筆すべき低いレベルに感染を抑え込んだ台湾に匹敵する多くの地域から、感染拡大中の南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、モルディブ、ネパール、ブータン)に相当する東京特別区まで、同じ日本でもたいへんな地域差があるのだ。  他方で、仮に東京特別区(100万人当たり陽性判明者数616人)や南アジア(564人)であっても、世界の多くの地域に比べて事態は重くはない。図は上限が700人なので表示できないが、同じ数字を欧州の旧西側諸国についてみれば3685人、中南米は4677人、北米は8248人と、ケタ違いの水準になっている。  ◇6月以降に感染拡大した地域は限られる  国内の陽性判明者数は、4月からゴールデンウイークまでの間に大きく増加し、いったん落ち着いて、6月末から再度増加傾向にある。図の青い棒は5月末までの数字なので前者に対応し、黄色い棒は6月以降の数字なので後者に対応する。こうしてみると、青と黄の両方がある地域と、主として青い部分しかない地域の違いも目に付く。  以上の違いを基にすれば、日本には以下のように優秀な地域も多々ある。Aは、台湾が成功したのと同じく、「そもそも第1波の発生をブロックした」と評価できる地域だ。またBは、いったん感染拡大の危機に瀕(ひん)しながらも抑え込みに成功した中国と同じく、第1波を早々に抑え込み、6月末以降もそのままの状態を維持している地域である。  A(台湾と同レベル)=青森、岩手、秋田、静岡、三重、鳥取、岡山、山口、徳島、香川、長崎、熊本、宮崎  B(中国と同レベル)=宮城、山形、福島、新潟、長野、愛知、滋賀、奈良、和歌山、島根、広島、愛媛、佐賀、大分  それらに対して、黄色い部分(5月末以降の陽性判明者)が大きいのは、北海道、首都圏、大阪府、福岡県、鹿児島県の5地区に限られる。ススキノ、新宿、キタやミナミ、中洲に小倉、それに天文館といった著名な「夜の街」の、接待型飲食業や居酒屋から、ピンポイントで感染が再拡大したであろうことが、わかりやすく反映されている。  ◇新規感染する環境はどこにあるのか  以上見てきたような、地域や時期による感染の極端な凹凸の背景には、このウイルスの感染経路の特徴がある。  2009年の世界を騒がせた新型インフルエンザの場合、国内での感染者数は約2000万人(厚生労働省)と、国民の6人に1人にのぼったが、今回の陽性判明者は現在まだ2万人程度だ。仮に実数がこの10倍だったとしても、09年の100分の1に過ぎない。つまり新型コロナウイルスの感染力は、インフルエンザよりずっと弱い。  他方で新型コロナの場合、感染者の半数は無症状であり、発症者にも風邪と区別のつきにくい軽症者が多いので、多くが動き回ってしまう。彼らが、換気の良くない室内で、人と近接してマスクをせずに話す(あるいは叫ぶ)ようなことをすれば、多数の他者に同時に感染させてしまいやすい。「めったに当たらないが、当たれば大きい」わけだ。  人と人が近接して、マスクをせずに話すという環境はどこにあるか。職場におけるクラスターはほとんど発生していないことからすると、多くの職場においては行動変容が浸透してきたと考えてもいいだろう。となると、残るはやはり最近の報道でも感染者が増えているとされる「夜の街」ということになる。  接待型飲食業はもちろんだが、普通の居酒屋でグループで卓を囲むのも、万が一仲間内に感染者がいるなら危険だ。リスクを取ることにちゅうちょしない宴会好き、接待好きの人が、出張先や旅行先でも「夜の街」の3密の場所に集まって飲んだり騒いだりすれば、ウイルスは否応なく広がってしまう。鹿児島市で起きたことは、その典型例のようだ。  ということは、補償付き休業でも何でも動員して、この特殊な危険を防ぐことさえできれば、足元の感染拡大は収まっていくのではないか。店内の消毒だの店員のマスクだのに気を使う以上に、客同士で口から口にウイルスが移る機会を抑止しなければならない。  それができずに感染再拡大を許してしまうような愚を、これから日本社会が冒してしまうようであれば、たいへん残念であるが、もう一度全員が一斉に犠牲を払って自粛するしかない。「問題を絞り込んでその部分だけきっぱり処断する」という戦略性はないが、「みんな一緒なら我慢できる」という、日本の国柄ゆえの宿命なのかもしれない。

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