2020年7月28日火曜日

なぜアジアで新型コロナ感染者数が少ないのか? 現地で行われていた目からウロコの対策

Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/be283ae0a92d8764d7bf6ec842f54bdc9d53866e

配信、ヤフーニュースより

BuzzFeed Japan

新型コロナウイルスの感染者がまた増え始めているが、これまで度々疑問を持たれてきたことは「なぜ中国を除くアジアで感染者や死亡者が少ないのか」ということだ。BCGの接種、キスやハグの習慣がない、清潔習慣など様々な推測がなされ、結局、いまだにはっきりとした理由はわからない。地域での感染拡大を食い止めるために、アジア各国はどのような工夫をしてきたのか。そんな情報交換をするオンラインシンポジウムが6月中旬に開かれた。【BuzzFeed Japan Medical / 岩永直子】 主催した順天堂大学国際教養学部の特任准教授で、グローバルヘルスを専門とするミャンマー出身の医師、ミョー・ニエン・アングさんと、公衆衛生学を専門とする東京医科歯科大学介護・在宅医療連携システム開発学講座助教の長嶺由衣子さんに報告してもらった。

参加12か国 コロナ封じ込めのために何をしたか発表

シンポジウムは6月21日、ミョーさんが付き合いのあるアジアや欧米12か国(インドネシア、フィリピン、マレーシア、ミャンマー、ベトナム、タイ、日本、オーストリア、米国、台湾、インド、スーダン)の保健関係省、国際機関や公衆衛生関係のNGOに属する役人や医師、看護師、研究者らが参加して開かれた。 その中でもミョーさんが面白いと感じたのは、コミュニティレベルでの対策だ。 「政策レベルの話はニュースやウェブサイトなどで検索できますが、地域で一般の人がどう動いたかを知らないと、他の国での良い実践を活用することができません。主に『予防策』と『外出制限』についてどうやったか尋ねました」 ミョーさんや長嶺さんが特に面白いと感じたのが、以下の4つの試みだ。 1.インドやインドネシア、ミャンマーで行われたコミュニティキッチン 2.ミャンマーで設置された越境者用の一時滞在小屋支援 3.SARSの教訓に基づいたベトナムの巧みな情報発信 4.タイのヘルスボランティア それぞれ順番に説明してもらった。

隔離された人や貧困者に水や食料を提供する「コミュニティキッチン」

インドは、3月から5月にかけての流行期に比較的厳しい隔離政策を取った国だ。 今は段階的に解除しているが、一時は新規感染者数によって、全土を718区域に分け、区域ごとにロックダウンの厳しさをグリーン、オレンジ、レッドに分けていた。 グリーンゾーンでは、感染に気をつけながら通常の生活を送るが、オレンジとなると公共交通機関に乗ることも止められ、飲食店も閉じる。 レッドでは、外から入ったり、出たりしようとするとパスが必要になった。医療や薬局、食料品店など生活必需品に関わる商店のみの営業は認められていたものの、地域によっては食料品を手にいれることも難しい住民が出てきてしまった。 「レッドゾーンになると水や食料も手に入れにくくなり、貧困状態にある人は、それまでの生活に余裕がないので、命の危険にさらされます。それに対して、インドの地域コミュニティは、NGOが中心となって、水や食料を配る『コミュニティキッチン』を行っていました」とミョーさんは言う。 指揮を取るのはNGOだが、実際に料理を作ったり、集まった人たちに配ったりするのはコミュニティから自主的に集まるボランティアの市民たちだ。 低所得者だけではなく、新型コロナに感染したり濃厚接触をしたりして隔離の指示を受けていた人も、支援の対象となった。 「インドネシアやミャンマーでもコミュニティキッチンという形で同じようなことが行われていました。やはりコミュニティの中で余裕のある人が自発的にボランティアとして活動しています」

ミャンマー国境に設けられた「一時滞在小屋」

ミャンマーでは、政府によってタイとの国境付近に木や草で簡易的な一時滞在小屋が建てられた。

越境者は21日間ここに滞在し、症状がないことを確認した上で入国することができる。

問題は周囲には街はなく、店も食料もないような場所だということだ。 ここでも NGOなどが指揮をとり、寄付を募ってコミュニティキッチンが活躍した。 タイに出稼ぎに行って、ミャンマーに帰ろうとしている人たちは水際対策としてここで健康チェックを受ける。 長嶺さんはこうした活動が自発的に行われる背景には、「宗教の精神があるのではないか」と言う。 「困っている隣人がいたら助けるという精神が、敬虔な仏教徒やイスラムの中に浸透しています。東南アジアではよくあることで、ブータンやネパールの参加者も『うちの国でもこんなことがあったよ』と話していました」 水害や台風など災害の時にも同様の対策は行われるのか聞いたら、ミョーさんはそれはないと言う。 「自然災害の場合は、地域全体が被害にあうのでみんなが被害者となるのです。感染症のようにまだらに被害者が出る感染症だと、動ける人もいることが大きな違いです」

SARSの教訓 ベトナムの進んだ情報戦略

ベトナムはSARS(重症急性呼吸器症候群)で63人もの感染者を出した経験を教訓に、効果的な新型コロナ対策を打ち出している国だ。3月に国内初の感染者が出たが、4月頭には新規感染者ゼロに抑え込んだ。 ミョーさんが特に注目したのは政府の情報発信の巧みさだ。 「スマホの普及率が高く、政府によるアプリを使った国民への情報提供が浸透しています。『タイやミャンマーではバイクのスピード違反が目立つのに、ベトナムは制限速度で走る』と言われるように、政府の要請やルールに従う国民性もコロナ対策では効果的だったようです」 人口9000万人のベトナムで5300万回以上再生されている「手洗いソング」は、ベトナムの国民的歌手に歌ってもらい、マスクをして、手洗いをし、目や鼻や口に触らないといった予防策を歌詞に合わせたアニメでわかりやすく伝える。 「これ、政府が作ったビデオに見えないですよね。日本ではあまり見たことがないポップさですね」と長嶺さんは言う。 ベトナムでは日本で言う厚生労働省のような保健省に、国民への情報発信を専門とする「ヘルスリテラシー(健康情報を正しく理解する力)部門」がある。 ミョーさんは「タイにもありますし、ミャンマーも今年作ったばかりです。テレビやネット、SNSなどをあらゆるチャンネルを通じて様々な世代や様々な層に必要な情報が届くよう工夫する専門部署があります」と言う。 「もともと東南アジアには、マラリア、結核、HIVなど感染症の脅威がたくさんあったので、情報をうまく伝えるにはどうしたらいいか考え抜いてきた歴史があります。その素地があったことが今度のコロナ対策にも生かされています」

タイの「ヘルスボランティア」

「タイはもともと公衆衛生に強い国です。大病院にかからず、コミュ二ティで治すことや、予防する対策に長けています」とミョーさんは言う。 健康推進のための拠点が各地に設けられ、コミュニティヘルスナースと言われる地域で活動する看護師が地域住民に健康指導を行っている。 日本でいう保健所、保健師と近いが、もっと小さな単位で地域のあちこちに設けられ、住民にとって身近な存在となっているという。 その活動の大きな助けとなっているのが、タイに100万人養成されているという「ヘルスボランティア」だ。 10世帯に一人程度いると言われ、政府の研修を受けて登録した地域のボランティアが、コミュニティヘルスナースの指導の下で各家庭を回って病気予防のための情報を伝え、健康指導をする。


「長野県佐久市の『保健補導員』の国家バージョンみたいなものです。新型コロナが広がりを見せ始めた時、タイ政府は一斉に各地域のプライマリケア医師を通じて正しい知識を全国のヘルスボランティアにトレーニングし、フェイスシールドなどの感染防護具を供給しました」

「彼・彼女らがコロナ禍でも家庭訪問の活動を止めずに、適切な予防・防護策を取った上で、ソーシャルディスタンス(人と人との距離)を保つことなどの予防策を各家庭に教え、発熱などの症状が出ている人をいち早く見つけて診療所につなげることなどを行いました」と長嶺さんは言う。

地域の医療のリーダーはかかりつけ医師やかかりつけ看護師だ、一方で、タイでは医療従事者が地域のヘルスボランティアを動員して、新型コロナウイルスの対策を進めている。 「新型コロナのような感染症の調査も彼女らによって行われました。なんでこんなにたくさんの方がヘルスボランティアをしているのか。普段からコミュニティを良くしようと地域づくりの過程に参加する人を増やしていくことが、ボランティア活動への参加を促していると思います」

アジア各国の経験から日本が学べることは?

コミュニティのつながりが強いと、互いへの監視にもつながりそうだ。差別や偏見の問題はあるのだろうか? ミョーさんは、アジア各国でも確かに、そうした問題はつきまとっていると言う。 「もしかしたら人にうつすかもしれないというセルフスティグマ(負のレッテル)もありますし、感染者の出た家には近づかないといった差別もあります。また、コロナ患者を診る医者だからアパートを出て行ってくれと言われたということもミャンマーでは起きています」 アジア諸国における新型コロナウィルス感染症のパンデミックへの対策をみてきたミョーさんが今住んでいる日本の良かった点を考えると、政府からの要請を理解し、従う意識の高さだという。 「識字率が他のアジアの国と比べても高いですし、政府の要請を理解して従う意識が高かったことが、ステイホームへの協力要請しかしないこの国で感染者を少なく抑えられた理由の一つだと思います」 その上で、日本がアジアから学べることは何なのか。ミョーさんと長嶺さんは以下の3つの要素をあげる。 1.コミュニティへの参加機会がヘルスボランティア活動のきっかけに 2.平時からかかりつけ医やかかりつけ看護師をハブとしたプライマリヘルスケア(※)の構築に投資することがコミュニティのレジリエンス(困難に対する打たれ強さ)につながる 3. 健康に関わる情報を効果的に伝える戦略をたてる専門部署を行政に作る ※健康であることを基本的な人権として認め、全ての人が健康になること、そのために地域住民を主体とし、人々の最も重要なニーズに応え、問題を住民自らの力で総合的にかつ平等に解決していくアプローチ アジア各国が地域住民による互助の精神を発揮できたのは、プライバシーに関する文化が異なるという背景があったからだ。 「コミュニティで助け合うために、日本では個人情報保護が壁になることが多いです。国民全員が関わる感染症では公の力だけに頼るのは無理があります。地域で取り残される人が生まれないように、どうすればコミュニティで助け合えるのか、日本での情報共有のあり方を探ってみてもいいのではないでしょうか?」 また、ヘルスボランティアなど、平時からの健康への取り組みがコミュニティで確立していれば、新型コロナのような危機の時にすぐに力を発揮できる。 「困難に耐える力を『レジリエンス』と言いますが、感染症に対する地域のレジリエンスを上げるためにも、平時から距離感の近い地域のかかりつけ医や看護師とともに予防も目的としたプライマリヘルスケアのシステムを作っていくことが必要です」 さらに、新型コロナでリスクコミュニケーションの重要性が痛感されたが、ベトナムのように情報発信を専門とする部署が日本の行政にはない。 「ここを参照すれば正しい情報が見つかるというものが用意できておらず、メディアやSNSなどで広がるデマ情報にも翻弄されました。健康に関する正しい情報をわかりやすい形で伝えることを考える専門集団を国に作るべきです」 第2波に備えてどんな準備ができるか。ミョーさんらは、他国の知恵を学ぶ同様のシンポジウムをまた行うことを考えている。

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