Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/6335faf95c41fa8aaa11a6263627f6c969e6fbba
世界中で現地の風土や文化に迫るツアーを展開する「株式会社ワールド航空サービス」(東京都千代田区)。3代目の菊間陽介代表取締役社長(40)は2023年に父から会社を継いだ後、新型コロナによる大ダメージを受けていた売上を4倍に復活させた。菊間氏に、土地や風土をより深く知ることができるツアーを展開する理念について聞くとともに、ビジネスに通じる「愛用の逸品」についても尋ねた。 【動画】星野リゾートはこう変えた 創業家4代目の構造改革
◆カリスマ社長に慣れすぎた社員の意識改革
――2023年の事業承継の前後で、最も苦労した点を教えてください。 どのように業務を整理していきつつ、効率化を図るかが一番苦労したように感じます。 父は2代目でしたが、業界で名前が知られており、日本旅行業協会の会長を務めたり、フランス政府からレジオンドヌール勲章を受章するなどカリスマ性がありました。 その影響もあってか、社員一人ひとりが自分の意見を積極的に述べる習慣がありませんでした。 だから、社員から自発的な意見を引き出す環境づくりが必要でした。 また、働き方を見直し、仕事だけでなく家庭などプライベートをいかに大事にしてもらうか、そのためにどのように業務の効率化を図るかは、いまだ課題として難しく感じています。 ――社員の意見を引き出すために、どのように改善していったのでしょうか。 例えば、会議のときに異議がないか確認をとるようにしました。 よくあるのが、その場では意見が出ないのに、会議が終わってから言われるケースです。 会議で出された意見に対して、同意したのであれば一緒に推進する立場であると、同席メンバーには強く植え付けるようにしました。 会議の進行を意識し、意見を言わずに黙っているのは良いことではない、という空気をつくるようにしました。 あとは、発言したからには責任を持って取り組むという話です。 最初は自分の意見を言わせることにフォーカスしていました。 自分から発言できるようになったら、どのように進めたらいいかという問いかけを行い、建設的な意見が出るような環境づくりを意識しました。
◆残された哲学への深い理解と先人への尊敬
――事業承継の前後で、最も心を動かされたエピソードがあれば教えてください。 コロナ禍のタイミングに開催した、会社の50周年記念コンサートが印象に残っています。 当日、会場の滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(大津市)に、東京を含む全国からお客様が来てくれました。 当時は、まだ新型コロナウイルス感染症を警戒し、怖がって外出しない方も多くいた状況です。 そのなかでお客様から「当社を応援したい」とか、「行くことで助けになるのであれば」という温かいお言葉やエールをいただいたときは心が動きました。 今までもお客様に支えられていることを認識していたつもりでしたが、改めて実感できた非常に大きな経験でした。
◆より現地の文化に触れるための工夫
――ワールド航空サービスは独自の哲学や風土を大事にして旅行を企画されていますが、どのような考えのもとでこのようなツアーが生み出されるのでしょうか。 祖父も父も、旅行自体を芸術作品やアートのように捉えています。 旅行先で感じる印象は人によってまったく違います。 晴れや曇りなど天気や時間帯によっても印象が違うはずです。 人それぞれの感情や、行く人の背景によっても感じ方が違うので、アート作品に近いところがあるのかなと感じています。 街を訪れるのであれば、ただ観光名所を見てまわるだけでなく、現地の日常が知れるような旅行体験を重要視しています。 ――具体的に、どのようなものでしょうか。 例えば、フランスでは朝に街を訪れると、子どもがパン屋へ買い物に行く風景が見られます。 そのような「街の日常」は、日中に観光している時間帯だとなかなか見られませんよね。 ――地元の人と話す機会を設けることもあるのでしょうか。 そうですね、民家を訪問して現地の方と会話する場合もあります。 あとは、地方に行くと教会があります。 その際に、観光地の教会として見るか、地元に住む方の祈りの場として見るかで大きく印象が変わるのではないでしょうか。 もちろん、早朝などお祈りしている人のお邪魔にならないよう敬意をもって訪れますが、観光客で混んでいる時間と違ってより現地の文化を体感できるはずです。 ――ワールド航空サービスにおける今後の事業展開について教えてください。 旅行会社の存在意義を明確に示していきたいと考えています。 また、海外の良さを知るには当社の旅行でなければ実感できないと感じてもらいたいです。 コロナ禍を経て、海外だけでなく国内旅行も深掘りできました。 国内旅行に関しては、オーバーツーリズム問題が話題になっています。 そこで当社では、地元の人の環境を壊してしまわないように、大都市ばかりではなく地方で宿泊するなどして分散化も意識しています。 旅は私たちがお邪魔させていただく立場になります。 その土地では、あくまで地元の人が主役です。 当社としては、そのような精神を大事にしながらも、お客様には旅行を楽しんでいただきたいと考えています。 ――ご自身の経験を踏まえ、事業承継において重要だと考えられる点を教えてください。 会社に残されてきた哲学を深く理解し、先人たちが築き上げてきたことへの尊敬する気持ちを、引き継ぐものとして忘れないことが重要だと考えています。 一方で、伝統ばかり大事にしていては何も変われません。 伝統を守るために、その時代に合わせて変わっていく。 変わらないために変わり続けることも大事です。 理念と価値観を守りながら、時代に合わせて変化していくことが事業承継において大事なことではないでしょうか。
◆社長に「メード・イン・ジャパン」の愛用品を聞いてみた
菊間氏のような、各界で成功した気鋭の経営者が、愛用する「メード・イン・ジャパン」製品は何だろう。 賢者の選択サクセッションでは、ビジネスのヒントや成功への気付きにしてもらう狙いで、長年使い続ける「日本発」の逸品を、経営者に尋ねます。(インタビュー記事と一緒に随時配信します) ――パッケージツアーなどビジネスへのこだわりのように、長年愛用されている製品はありますか。 こだわりという意味では、物にも愛着があります。 とくに革製品が好きで、キプリスというブランドのベルトは10年以上同じものを使用しています。 ――キプリスのベルトを使い始めたきっかけは何だったのでしょうか。 英国から帰ってくる際に自分へのご褒美として靴を買いました。 その靴の色に合うベルトを探して店員さんに質問したのがきっかけです。 革製品は使えば使うほど味が出ると言いますが、旅も似ているように感じます。 観光名所だけを訪れるのではなく、土地の文化を深掘りしてリアルな姿を目にすることで、その地域の魅力や文化をより味わえます。 また、時がたつと自分の価値観なども変わりますし、知識が増えていくので、その旅行地がより一層魅力的に感じます。 その点で「革は旅に通ずる」と言えるかもしれませんね。 ――キプリスを展開している株式会社モルフォのように、上質な「メード・イン・ジャパン」について、海外をよく知る旅行会社社長から見てどのように評価されているか教えてください。 日本製品は、機能性と金額のバランスが非常に取れているのではないでしょうか。 海外も良質なブランド品はあるものの、基本的に金額が高く設定されています。 一方で、日本製品はリーズナブルでありながら長く使用でき、機能性も高いと感じています。 そこは日本製品の魅力ではないでしょうか。 ――海外を知る菊間社長からのお言葉だと、説得力があるように感じます。 先日、縁があってキプリスのブランドを展開している株式会社モルフォの社長とお会いして、当社の記念品のノベルティを製作いただきました。 その際も阿吽の呼吸ではありませんが、先方から「長く使えるようにした方がいいですね」とか「色合いはこういうのがいいですかね」と、さまざまな提案をいただきました。 製品の質はもちろんですが、クライアントやお客様と信頼を築いていくところも、日本発のブランドならではだと感じます。 現状日本の製造業においては、職人集団のイメージが強いかもしれません。 一方で、素晴らしい品質を持つ製造業にマーケティングが加わると、この先大きく伸びる輸出産業になっていくのではと感じています。
■プロフィール
株式会社ワールド航空サービス 代表取締役社長 菊間 陽介 氏 1985年、東京都生まれ。一橋大学大学院経営管理研究科修士課程(ホスピタリティ・マネジメント)修了。立教大学観光学部卒業後、英国サリー大学大学院修士課程(観光学)を修了し、現地の旅行会社で2年間勤務。帰国後、2013年に株式会社ワールド航空サービスへ入社し、2023年に代表取締役社長へ着任。主力事業となる海外・国内ツアー、ネパールでのホテル事業に加えて、発展途上国の子供たちに対する自立活動支援など、社会貢献活動にも広く取り組んでいる。
(取材・文/長島啓太)





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