Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/cb3987fe01c7e71bce81c7c46b137a55f4247b17
介護業界では日本人の若い就業者がきわめて少なく、外国人労働者頼みになって久しい。そしていまや、優秀な外国人材をめぐる「争奪戦」すら起きている。地方から賃金の高い都市部に移る人が増えているのだ。日本語や介護スキルを覚えてもらったあとで出ていかれると、事業者にとっては手痛い。そんな中、人材流出を防ぎ、定着に成功している事業者も出てきている。山梨県のある団体を取材した。(文・写真:室橋裕和/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
ノートを手にフロアを走り回るミャンマー人
甲府盆地の南部。山梨県南アルプス市にあるデイサービス「小笠原くつろぎ」には、毎日47人の利用者が通う。自宅で暮らす高齢者が食事や入浴などのケアを受けつつ一日を過ごす場所だ。 10月半ば、レクリエーションが終わったあとの時間。90代の利用者の女性が、同所の女性スタッフについて話す。 「日本語で何て言うかわからないときとか、難しい漢字とか、私によく聞きに来るんだよ」
語っていたのは、ミャンマー人のメイ・ミャッ・ノーさん(26)のことだ。 この施設では7人の介護職員と1人の看護師が働くが、介護職員の3人はミャンマー人とネパール人だ。彼らは食事や入浴の介助など日本人と同じ業務をこなす。女性利用者は感心するようにメイさんについて言う。 「この子いつもノートを持っててね。私が教えた言葉を書き込んで。遠い国からきて寂しい思いもしているだろうに、素直で一生懸命。日本人よりしっかりしてると思うよ」 そのメイさんは日本に来て2年になる技能実習生だ。山梨に来た日のことをよく覚えている。 「12月だったので、めっちゃ寒かった」 南国生活から来た身に日本の寒さはこたえたが、いつしかノートを手にフロアを走り回るようになった。
業務で大変なのは入浴介助だ。利用者には男性など大きな体格の人もいる。メイさんも、ときには二人がかりの作業になり、「腰が痛くなる」と苦笑いする。「あと、ここね」。言いながら二の腕をさする。利用者がなにかとしがみつく場所で痛みが残る。それでもメイさんは「山梨は住みやすいし、人を助けるのは好き。この仕事で良かった」と話す。 介護の世界でも外国人材が増えているが、昨今では地方から大都市圏への流出が始まっている。だが、山梨のある団体では外国人の離職率が低いという。メイさんもそこで働くひとりだ。
およそ9万人の外国人が働く介護職
212.6万人。2023年度の介護従事者の数だ。2022年度から2.9万人ほどの減少で、初の前年度比減だった。高齢者が年々増えている中、介護従事者が減少した。 そこを補うように、いま各地で約9万人の外国人が働く。その立場は在留資格によってさまざまだ。 まず2008年以降、「EPA(経済連携協定)」に基づきインドネシア、フィリピン、ベトナムから介護福祉士候補者を受け入れた。在留期間は4年間。しかし、試験に合格できなかったら帰国というハードルの高さもあり、EPAで働く外国人は2670人にとどまっている(2025年10月)。 2010年に在留資格となった「技能実習」に「介護職」が追加されたのは2017年。制度の見直しで2030年ごろまでに廃止される予定だが、介護の技能実習生はベトナム、ミャンマー、インドネシアなど2万65人(2024年12月)で、期間は基本的に3年間(最長5年間)だ。
2019年導入の在留資格「特定技能」は、介護分野で5万4916人と急増している(2025年6月)。1号の在留期間は5年間で、ミャンマー、インドネシア、ネパール、ベトナムの人たちが中心だ。技能実習修了後、特定技能に移行することもできる。 さらに、日本の介護福祉士資格を取得した「介護」の在留資格が 1万2227人(2024年12月)で最長5年間(更新可)。加えて、日本人と結婚したフィリピン人、タイ人の主婦や、留学生のアルバイトなど、統計に出てこない介護職の外国人も多い。 こうした外国人労働力はすでに日本国内で「奪い合い」となっている。
技能実習から特定技能になる際に転職
「外国人と働く体制をつくり、日本語も介護技術も教えた。やっと夜勤を任せられるようになったのに、転職してしまったんです」 沖縄県のある事業者はそう嘆いていた。それまで3年間働いていた5人のうち、4人が転職して県外に移ってしまったという。こうした声が昨今、各地で広がっている。転職しているのは特定技能の人々だ。 技能実習では転職は原則不可だが、特定技能では認められている。そのため、賃金や労働条件のよい職場があれば移る外国人が出始めている。
出入国在留管理庁によると、2019年の特定技能の導入から2022年11月までに自己都合によって離職した介護分野の外国人は約1600人。これは特定技能全体の自己都合離職者のうちの8%だ。帰国する人や、日本人との結婚などを機に在留資格を変更する人を除くと、その約3分の1が同業他社に転職したと考えられる。 全国老人福祉施設協議会が外国人を雇用する全国192施設にアンケートを行ったところ、半数以上の102施設で過去5年以内に外国人が離職していた(2024年度)。転職先はおもに東京、神奈川、愛知など都市部だ。最も転職の受け入れが多かった(24人)神奈川では福井、岡山、広島、愛媛などから、東京では山形、福島、島根、山口、愛媛、宮崎などから流入している。 困惑しているのは、地方の介護事業者だ。 介護事業者は、技能実習生を雇用すると、日本語や介護スキルを教え、一人前の人材に育てていく。そして3年後、技能実習から特定技能に移行後も引き続き働いてほしいと考える。しかし、転職が可能になったタイミングで条件のよいところへ移る人が出てくる。育ててきた側から見れば、かけた労力が奪われることになる。
「昨今は大手人材会社も参入し、優秀な外国人労働者を紹介していく流れもある」 「田舎から出て行ってしまうのは日本人も外国人も同じ」 ある地方の介護事業者はそう悩みを打ち明ける。 そんな中、山梨県で医療や介護の人材を手配する山梨メディカルケア協同組合では、都市部に転職していく外国人が少ないという。
外国人の転職を防ぐ取り組みは事前の説明と合意
山梨メディカルケア協同組合には県内90の介護関連の法人が加盟し、250人ほどの外国人が働く。現在東京と山梨では最低賃金で1割以上の差があるが、同組合が監理する介護職の外国人は、技能実習から特定技能に移行後も7割ほどは離職せずとどまっている。この比率は「移行後、2〜3割しか残らない」(東北の事業者)という声すらある地方の実情と比べると、非常に高い。 「信頼関係が醸成できていれば、いてくれるものです」 代表理事の飯久保貴さんは自信を持って言う。 「まず、お互いのミスマッチがないようにしているんです」 具体的には、外国人側と事業者側の双方にとって理解と合意をするということだ。
外国人側には日本に来る前に、山梨がどういう場所であるかを動画や画像で伝え、「都市部ではなく田舎志向」の人に来てもらうようにする。 同時に事業者には、できるだけ人材の出身地に足を運んでもらい、実習生本人と面接をしてもらう。彼らがどんな環境で、どんな生活をしてきたのかを日本の事業者たちにも理解してもらう。 その上で、採用予定の外国人には山梨側の実情を細かく説明する。 「一緒に働く同僚がどんな人か、施設や寮の設備、周囲に何があるのか、全部見せる。技能実習制度の関係省令では、実習生の居住スペースは一人あたり4.5平方メートル(約3畳)以上と決まっていますが、もっと広い部屋を提供すると説明します」 こうした丁寧な対応で彼らから理解を得ておくことが、来日後のギャップや不満防止になる。 来日してからの待遇も手厚い。冒頭の「小笠原くつろぎ」では、メーカーの独身寮だった建物を買い取り、6畳ほどのバスルームつきの個室の寮にした。生活空間は広く、鍵のかかるプライベート空間も確保する。Wi-Fi完備、電動自転車貸与。 「目に見える成果で処遇を良くしてあげないと。日本人以上でいいと思いますよ。なぜなら日本人よりもしっかり働くから」
加えて、本人の人生キャリアを尊重する。技能実習生の多くは特定技能を目指して働きながら学習を始めるが、介護福祉士の取得を目標にする人も多い。そこで、組合内の学習センターで定期的に勉強会を開く。 「こういう対応をしてくれなければ実習生は紹介できませんよ、と加盟する事業所には伝えてある。外国人に長く働いてもらいたいなら、日本人と同じ条件で雇わないと」 冒頭のメイさんも介護福祉士受験に必要な実務者研修をすでに修了した。だが、合格後に東京に行くつもりはないという。 「寮では仕事が終わったあとも先輩たちが勉強しているんです。介護福祉士に合格しても、山梨で働きたい。この施設がいい。もう慣れているし、働きやすいから」 組合や事業所が「優秀な介護スタッフ」として扱ってきたからこその言葉だ。事実、働きぶりのよいメイさんは「相談員」という役職が与えられる予定だ。そうなれば手当も増える。
外国人を雇ったら日本人の離職率が下がった
技能実習生や特定技能の外国人には日本人と同様、労働基準法が適用されており、賃金や労働時間などの規定も日本人と同様だ。外国人の処遇を上げることは、会社にもメリットがあると「小笠原くつろぎ」の法人、介護保険事業部部長、立川信さんは言う。
「外国人が役職を得るほど頑張っているならと、日本人スタッフの刺激になるんですよ。だから、日本人の離職率も下がったんです」 2017年頃に外国人の採用をする前、年間で日本人正社員10人以上、同パート職員15人以上が離職していた。だが、外国人スタッフが入ってからの離職は正社員・パートともに各1人だという。30歳以下の離職率が20%を超える高さの介護業界にあって、きわめて高い定着率といえる。 転職の自由は外国人にとっても大切な権利だ。ただ、地方で雇用した外国人が都市部へ出てしまう流れが大きくなると、地方の介護現場は安定しなくなる。また賃金だけの比較では、地方は都市部には勝てない。 だとすれば、どうすれば外国人が定着するのか。山梨メディカルケア協同組合のような、事前の合意や信頼に基づく取り組みは、事業者、外国人にとって参考になる可能性がある。 「東京は、たまに遊びに行くところ。住むには家賃が高いし、山梨に住んで東京に遊びに行ったほうがいい」 メイさんの言葉は、山梨県民の言葉のようでもある。 使い捨ての労働力ではなく、将来のある若者として対応することが長期の雇用安定にもつながっている。求められているのは、日本の若者を相手にするのと同様、当たり前のことなのだ。 室橋裕和 ジャーナリスト。1974年生まれ。著書に『カレー移民の謎』『ルポ新大久保』など。 「#日本社会と外国人」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2024年末の在留外国人数は前年より約11%増え、約377万人。日本の人口に占める割合は約3%です。訪日外国人旅行者も年々増加し、2024年には過去最高を記録しました。今後、日本社会は外国人とどう向き合い、どのような関係を築いていけばよいのでしょうか。さまざまな事例と共に考えます。









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