Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/21e0797769e9e1160a23c915808c95b96e2e4020
販売席数減少と乗車率・単価上昇の意味
高速バス大手のWILLER EXPRESSは2025年12月4日、東京都内で「2026年戦略説明会」を開催した。同社の平山幸司社長が2025年を振り返り、2026年以降の戦略を説明した。 【画像】「えぇぇぇ!」 これがバスドライバーの「平均年収」です!(6枚) 同社の2025年の高速バス事業では、販売席数が2019年比で22%減、2024年比で6%減(見込み)となった。一方で乗車率は2019年の79.2%、2024年の85.8%に対し、2025年は87.5%(見込み)に上昇した。平均単価も2019年の4848円から2024年の5328円、2025年は5594円(見込み)と上昇し、増収増益を達成した。 販売席数が減少する一方で、乗車率と単価が上昇している。この状況が示す意味は何か。平山社長によれば、販売席数減少の主な要因は 「ハイウェイパイロット(ドライバー)の不足」 にあるという。企業にとって増収増益は最も望ましいゴールである。バス事業者の場合、乗車率と単価の上昇が増収増益の主な要因であれば、理想的な展開といえる。 しかし一方で、ハイウェイパイロット不足により、 「需要はあるのに販売席数を増やせない」 状況がある。この場合、より多くの商品を販売したいが生産が追いつかない状態となり、潜在的な機会損失が生じる可能性がある。 高速バス事業では、乗車率100%以上の席数を販売することはできない。製造業のように在庫を倉庫に蓄えることはできず、他の交通事業同様、「その日・そのときに提供するサービス」は「その日・そのときに生産」する必要がある。
「ハイウェイパイロット」というブランディング
同社にとって最大の課題は人材の確保である。日本では生産年齢人口が減少しており、人手不足は高速バス業界に限った問題ではない。業界を超えた人材の取り合いも生じている。 そのため、高速バスドライバーを 「人気職」 としてブランディングする必要がある。同社は2024年4月、バスドライバーに対する ・キツさ ・長時間労働 ・低賃金 といったイメージを刷新した。飛行機のパイロットのような憧れの職業を目指し、ドライバーをハイウェイパイロットと呼称するようになったのである。 平山社長によれば、このハイウェイパイロットという名称は商標登録されていない。他社でも使用を推奨しており、業界全体でバスドライバーのブランド価値を高めたい考えである。 ハイウェイパイロット自身には、自らをそう呼ぶことに「気恥ずかしい」という声もあった。しかし、販売や採用の面では一定の効果があり、大学生からの応募が増加した。 一方で、高校新卒者の採用は当初の想定より進まなかった。長年の地元企業との関係が強く、ハローワークの求人票を基本とする習慣がハードルとなっている。これに対応するため、SNSなどを通じた情報提供を強化したところ、大学生にヒットし、高校生にはあまり響かなかった。
人材確保の教育戦略
人材の確保は、呼称変更によるブランディングだけではない。同社は2024年5月、教育研修施設「WILLER LABO」を開校し、他業種からのジョブチェンジを促進する形でハイウェイパイロットの育成に乗り出した。 約3か月間のLABO研修では、安全運転技術や接客・接遇スキルに加え、健康管理など実務に必要な知識とマインドを徹底的に指導する。実地研修も段階的に組み込まれ、座学から模擬運転、実車運転まで万全の教育体制を整えている。現在の課題は、指導する教える人の数が不足していることだ。 なお、LABOに通学中の社員には基本給が支給される。卒業後は、 「入社2年目で年収600万円」 を目安としたロードマップを示しており、大都市圏では手当が加わるためさらに高くなる。こうした具体的な数字が、主に大卒者の応募に響いた。 かつてのWILLERは、高速ツアーバスで急成長した旅行会社である。貸し切りバス会社を事実上の下請けとすることで、廉価なバスツアーを販売してきた。 しかし、旅行会社と貸し切りバス会社との関係が歪であることが問題となった。法改正により、高速ツアーバスは2013(平成25)年7月末までに高速乗合バスへ移行・一本化され、業界は健全化された。 旅行会社としての立ち位置だったWILLERは、現WILLER EXPRESSの設立により高速バス事業の主体者となった。現在は主体者として、安全対策やハイウェイパイロットの育成を含め、業界全体を主導する立場にある。
外国人採用偏重と目標達成
同社は人材確保の面で、日本国内のハイウェイパイロットのブランディング・育成に加え、2025年2月から外国人ハイウェイパイロットの採用にも着手した。現在、フィリピン人候補生7人、ネパール人候補生4人が内々定しており、インドでの採用活動も進行中である。 外国人採用で課題となるのは、日本語能力試験N3の試験日が半年に1回しかない点である。これに対し、トラック乗務に必要なN4は試験回数が多く、結果としてトラック業界に人材が流れている。 同社にとって人材確保は高速バス事業の最重要課題であり、外国人採用の拡大は避けられない側面がある。一方で、国策として外国人採用を進める場合には議論や批判もあり、ハイウェイパイロットのブランド価値への影響が指摘されることもある。 同社は2026年までにハイウェイパイロット30人の純増(現状比10%増)を目標としている。この目標が外国人頼みに偏らないことが望ましい。
菅原康晴(フリーライター)




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