Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b43657822e2d2832f4314d6bdaae6ad723a67d56
ネパールのカトマンズに降り立ったのは、2025年4月半ば。乾季のまぶしい日差しの下、街はトレッキングに向かう人たちで賑わっていた。 【画像】意外に狭い?「カトマンズで家賃3万8000円」物件はこんな感じ しかし、僕がカトマンズを訪れた目的は旅ではない。移住である。まずは生活の基盤を作ること。家を探し、生活に必要なものを揃え、暮らしに慣れる。すべてが初めての経験で、手探りで進めていくしかなかった。 僕が体験した怒涛の1か月と、ネパールでの生活にかかる費用の目安についてお話ししよう。
■カトマンズのホテルで生活準備
僕はカトマンズにある大学に通うために移住してきた。入学手続きは5月、新学期は7月スタート。その準備期間を見越して、4月半ばに入国した。 当然、生活を始めるには家が必要だ。だが、この「当たり前」が海外では驚くほど大きな壁になることがある。 日本なら、前の家に住みながら物件を探し、内見して契約という流れが一般的だ。しかし、ネパールでは事情が全く違う。僕はしばらくカトマンズのホテルを拠点にしながら、家探しをすることにした。
■物件探しは「情報」ではなく「つながり」が大事
最初は日本と同じノリで、不動産サイトを眺めてみたものの、ネパールのサイトはとにかく情報が少ない。写真が数枚と家賃の数字がぽつんと置かれているだけで、うーん、これだけではまったく生活のイメージがわかない。 問い合わせメールも送ってみたが、待てど暮らせど返事がこない。まあ、予想はしていた。ネパールでのやり取りは、いまだに電話が主流なのだ。 とはいえ、ネパール語で電話をするのはまだ無理だし、英語で交渉するのもハードルが高い。困ったな。 こういう時は人を頼るが一番。というわけで、現地の日本人、ネパール人の知人に相談すると、口を揃えて返ってきたのは「人を介して見つけるのが一番安心」というアドバイスだった。 外国での賃貸契約は、想像以上に複雑になる場合がある。「焦って決めずに、時間をかけて探したほうがいい」という助言はたしかに納得できた。 家を探して1週間ほどたった頃、思いがけない連絡が届いた。十年以上のつきあいがある会社のオーナーが、「ちょうど2週間ほど前に、うちの物件の1部屋が空いた」と教えてくれたのだ。 部屋は家族向けで2LDKの約60平方メートル。ただし、1部屋は会社側がバックヤードとして使うため、実質1LDKになる分、家賃を下げられるとのこと。 家賃は光熱費込みで3万5,000ルピー(約3万8,000円)。 カトマンズ中心部の相場(3〜5万ルピー ※あくまで僕が複数人の知人から聞いた情報)を考えれば悪くない。さらに、家具家電すべてが備え付け。ベッドからキッチン用品、ガスコンロ、浄水器、WiFiまで完備。買い足すものはほぼない。 しかも、大家さんは日本語堪能で、やりとりもしやすい。十年以上通っている馴染みのエリアという点も含め、条件としては申し分ない。 内見を終えた時点で、気持ちはほとんど決まっていた。
■食事は外食+自炊
入居後、生活は徐々に日常の形を帯びていった。 食事は、朝と昼は外食、夜は自炊するスタイルが定着した。外食が多めなのは、値段の安さもあるが、あえてローカルのお店に行き、やり取りを通してネパール語を上達させるためでもある。 あくまで僕がよく行くお店の朝食は、サモサ、チャナ(ひよこ豆)、アルー(じゃがいも)、チヤ(ミルクティー)あたりを適当に組み合わせて、だいたい80〜100ルピー(87〜109円)。 昼はモモ(ネパール餃子)とチョウメン(ネパール焼きそば)が、それぞれ100ルピー(109円)前後、ダルバートが170ルピー(185円)だ。 夕食の自炊は、野菜は近所の青果市場で、肉や調味料、米はスーパーで揃える。必要なものが手に入りにくいこともなく、思った以上にスムーズに揃えることができる。 日本食が恋しくなることもあるが、日本の調味料も少し割高だが手に入る。でも、僕はネパールをより深く理解するために移住してきたので、「郷に入れば郷に従え」が基本スタンス。もちろん、たまに日本食レストランに足を運ぶことはあるけども。 そんなこんなで、家賃と食費を合わせても約5万ルピー(約5万4,000円)。雑費を含めても、ひと月に5万2,000ルピー(約5万7,000円)もあれば、十分暮らしていけそうだ。
■カトマンズ市内の移動手段は?
カトマンズの移動手段は、バス、タクシー、車、バイク、徒歩の5つが一般的。なぜか自転車に乗る人は驚くほど少ない。なかでも、ひときわ目立つのがローカルバス。そこらじゅうから湧き出してくる。 料金は20〜30ルピー(22〜33円)と財布に優しいが、初心者にはなかなか手ごわい乗り物だ。 まず、バス停がない。正確に言うと、一部の公共バスにはバス停があるのだが、ローカルバスは基本、停まる場所が自由。 乗ろうかなぁと思いながら道路脇を歩いていると、助手が半身を車外に投げ出しながら「○△#%□ーッ!」と叫んでくる。おそらく行き先を言っているのだが、僕にはただの叫びにしか聞こえない。聞き取れないうえに、行き先表示も文字が読めない。結果、どこ行きなのか、ほぼ賭けでしかない。 試しに乗ってみたこともある。助手の叫びは相変わらず謎に満ちていたが、なんとなく語感が目的地と似ていたので、たぶんこれかなと思って乗り込んでみた。 しかし、乗った瞬間に後悔が始まる。車内はすでに満員。それでも助手が「オッケー、オッケー」という感じで、さらに乗客をどんどん招き入れてくる。これが普通だからか、みんな涼しい顔をしている。これくらいのことを気にしていたら、とてもじゃないがネパールでは暮らせない! ところが、問題はここからだった。Googleマップを確認しながら、そろそろ着くかなと思った瞬間、バスはまったく別の方向に曲がっていった。バス停がないので降りるタイミングもつかめず、気づけば目的地からどんどん遠ざかっていく。 「え? どこに行っちゃうの?」 助手に聞こうにも、彼はドアのところで身を乗り出して、また何かを叫んでいる。 最終的に、僕は目的地とはまったく違う場所で降りることになった。別のバスで戻ろうとも考えたが、もはや不安しかなかったので歩いて帰ることにした。 「よし、次からはタクシーにしよう」 心に強く刻んだ瞬間だった。 その点、タクシーはとてもわかりやすい。配車アプリを使えば値段は明確だし、車とバイクを選べる。バイクタクシーなら5kmで150ルピー(164円)ほど。行き先が保証されているという安心感は大きい。
■学ぶことと、働くことと、暮らすこと
僕は学生ビザのため、ネパールで働くことはできない。働く場合は、就労ビザ(Working Visa)か、ビジネスビザ(Business Visa)が必須になる。前者はこっちの会社に雇用されて働くことで、後者は自分で会社を設立するケースだ。 将来的にビザを変えて働く可能性もゼロではないが、今のところは考えてはいない。 今は、ネパールで学び、ネパールをより深く理解することに時間を使いたい。 移住1か月目は、新しい暮らしが始まったばかり。まだ非日常にいるというか、旅の延長のような感覚だ。今はそこから早く脱け出して、自分なりの“カトマンズの日常”を手に入れたいと思っている。 根津貴央(ねづたかひさ) ロングトレイルとハイキングが専門分野のライター。2012年にアメリカの『パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)』を歩く。2014年からは、仲間とともに『グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)』を踏査するプロジェクトを立ち上げ、毎年ヒマラヤに足を運ぶ。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS)がある。2025年4月にネパールへ移住。 @hikertrash_taka @ght_project
根津 貴央



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