Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/369624b0f5768527f7ffcc1d839ea2fb962a6631
2025年12月13日、政府は外国人留学生が日本で働く際のルールを、これまでより厳しくする方針を示した。 日本に来ている「外国人留学生」、いちばん多いのは“あの国” 留学生がアルバイトをする際の許可審査を見直すとともに、マイナンバーを活用して勤務実態をより正確に把握できる仕組みを導入する見通しだ。 背景には、規定時間を超えて働くケースや、「留学生」という立場を抜け穴にした不法就労が後を絶たない実状がある。 ■「労働者」として活躍する留学生 このニュースを聞いて、「留学生の不法就労とは何なのか」「そもそも留学生がアルバイトをしてもいいのか」と、疑問に思った人も少なくないだろう。そこで本稿では、留学生アルバイトの基本的なルールを整理したうえで、不法就労がなぜ繰り返されるのか、その構造的な背景をひもといていく。
現在、日本には33万6708人の留学生が在籍している(24年5月1日時点)。コロナ禍で一時的に減少したものの、その後はV字回復し、24年には過去最多を記録した。 出身国別にみると、中国が全体の約4割を占める。次いでネパール、ベトナム、ミャンマー、韓国の順だ。 留学生は本来、就労を目的とした在留資格ではない。ただし国の許可を得た場合にかぎり、一定の範囲内でアルバイトが認められている。就労時間には上限があり、原則として週28時間までとされている。夏休みなどの長期休暇中にかぎっては、1日8時間まで働くことが可能だ。
世界的にみると、この「週28時間」という規制は、必ずしも厳しいものではない。たとえばカナダでは週24時間、アメリカでは学期中は週20時間までに制限されている。EU諸国でも、週20時間を上限とする国が多い。 近年は、中国人留学生を中心に、親からの仕送りだけで生活できる層も増えており、アルバイトを一切しない留学生も一定数存在する。それでも全体でみると、約65%が何らかの形でアルバイトに従事しているのが実状だ。
日本語力の向上や、日本社会への理解を目的として働く留学生もいるが、多くの場合、アルバイトは生活費をまかなうための現実的な手段となっている。 ■「週28時間」では収まらない実態 職種別にみると、飲食業と営業・販売業で全体の7割近くを占める。私たちが日常的に接するコンビニの外国人店員も、こうした留学生アルバイトであるケースが多い。 留学生アルバイトは、いまや多くの現場で欠かせない存在だ。大手飲食チェーンで店長を務める男性は、その重要性をこう語る。
「注意するとすぐに辞めてしまう日本人学生より、よほど頼りになります。言葉の壁はありますが、同じ国出身のスタッフ同士で教え合い、仕事も驚くほど早く覚えてくれる。正直、彼らがいないと店は回りません」 採用面でのメリットも大きいという。 「外国人スタッフが、同じ国の知人を紹介してくれるんです。募集をかけてもなかなか人が集まらない中で、本当に助かっています」 実際、男性の店舗では、店長以外がすべて特定の国出身の外国人スタッフ、という日も珍しくない。
留学生が法律の範囲内で働くぶんには、何も問題はない。しかし現実には、週28時間を大幅に超えて働く留学生も少なくない。 都内の専門学校に通うハリさん(仮名)が、匿名を条件に証言してくれた。 「実際は、いつも週40時間以上働いています。今の時給は1300円で、深夜のシフトに入れば1625円です。それでも週28時間だけでは、月に16万円ほどにしかならない。友だちの多くも、私と同じくらい働いています」 オーバーワークが発覚すれば、本人は在留資格取り消しや強制退去処分の対象となり、雇用主も不法就労助長罪に問われる。にもかかわらず、なぜこのような状況が放置されているのか。
ハリさんはこう続けた。 「私は2つのアルバイト先で働いています。ホテルで週28時間、居酒屋で週12〜15時間くらいです。掛け持ちしていることは伝えていませんが、居酒屋の店長は気づいていると思います。知っているけど、知らないふりをしてくれている感じです」 ■留学生が必死で働かざるをえない構図 留学生の就労時間は、複数のアルバイトをしていても合算して判断される。合計で週28時間を超えれば違法だ。「知らないふり」が横行する背景には、慢性的な人手不足がある。
さらに、より露骨な手法も存在するという。 「給料を、現金手渡しでもらう人もいます。ほかにも、1人のスタッフに2枚のタイムカードを使わせ、それぞれの勤務時間が週28時間を超えないようにしているケースもあると聞きました」 もちろん、大手企業や知名度のある会社が、このような不法行為に関与するとは考えにくい。実際に問題が起きやすいのは、人手不足が極限まで進んだ小規模店舗だ。 ただし、留学生アルバイトをめぐっては、こうした小規模店舗を中心に、職場ぐるみの不法行為が存在しているのは事実である。
月に16万円を稼げば、生活費として十分に思えるかもしれない。それでも多くの留学生が、リスクを承知で長時間働くのは、来日前に多額の借金を抱えているからだ。 ネパール人留学生の送り出しに詳しい、BLUE SKY JAPAN株式会社の日本法人代表、ポウデル・サントシュ氏はこう説明する。 「ネパール人留学生の多くは、入学金や初年度の学費、あっせん業者への手数料などで、110万〜140万円ほどの借金を抱えて来日します。平均月収が2万〜3万円とされるネパールでは、約4年分の年収に相当します」
本来、留学生には学費や生活費をまかなえる能力、いわゆる支弁能力が求められる。しかし実態としては、出稼ぎ目的の人も多く、その条件を満たしているとは言いがたい状態で来日する例も多い。 さらに問題なのは、「日本でアルバイトをすれば、短期間で借金を返済できる」という誤った期待を抱いたまま来日してしまうことだ。 「『すぐに返済できる』というあっせん業者の言葉を信じ、親戚から多額の借金をして来る人もいます。その結果、返済のために必死で働かざるをえなくなるのです」
■「特定技能実習生」ではなく「留学生」で来日する理由 ここで1つ、素朴な疑問が浮かぶ。日本では19年から「特定技能」という在留資格が設けられ、一定の要件を満たせば外食業や宿泊業でも働けるようになった。にもかかわらず、なぜ就労時間に制限のある留学生の立場で来日するのか。 この点についても、サントシュ氏は制度上の違いを指摘する。 「多くのネパール人は、お金を稼ぐために日本に来ています。ただ特定技能は、日本語試験と技能試験の両方に合格する必要があります。一方、留学生は150時間以上の日本語学習歴があれば認められるケースが多い。制度上のハードルが低いのです」
あっせん業者側の事情もある。 「特定技能より留学生の送り出しのほうが、手続きが簡単で認可も得やすい。だから、問題のある業者ほど留学生ルートを勧める傾向があります」 もっとも、こうした状況も今後は変わる可能性があるという。ネパール政府が、実態と乖離した留学生の送り出しに対し、新たなガイドラインを設ける見通しだからだ。 「今後、日本で働きたい若者は、正攻法で特定技能を取得して来日する流れになるでしょう」
■政府「2033年までに留学生40万人の受け入れ」を目標 以上のように留学生の中には、法を逸脱して働く人が一定数存在する。政府が留学生アルバイトの許可審査を厳格化しようとしているのは、こうした実態をふまえた対応だ。 法を守らない行為を放置することはできない。規制強化自体は、一定程度やむをえない措置だろう。 しかし、学費や生活費を自力でまかなえない若者を大量に受け入れておきながら、働くことだけを厳しく制限すれば、制度に無理が生じるのは避けられない。規制強化は不法就労の抑止につながる反面、留学生の減少や人手不足のさらなる深刻化を招く可能性もある。まさに両刃の剣だ。
日本はこれまで、「留学生30万人計画」のもとで留学生の受け入れを量的に拡大してきた。現在も、33年までに留学生40万人の受け入れを目標に掲げている。 今後は留学生を純粋に「学生」として受け入れたいのか。それとも、引き続き「労働力」としての役割も期待するのか。留学生制度のあり方そのものが、今あらためて問われている。
千葉 祐大 :人材コンサルタント/一般社団法人キャリアマネジメント研究所 代表理事

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