インドの鉄道は「1A」から「GN」まで、席のクラスが8段階に分かれているが、海外からの旅行者は、たとえ興味本位だとしても最下層の「GN」は選ばない方がいい。
2017年夏、インドを旅していた私は、南部の都市チェンナイから東部に位置するコルカタへと向かっていた。飛行機に乗ってしまえばわずか2時間の道のりであるが、せっかく旅に来ているのだから、窓から見える景色がずっと雲ではあまりにもむなしい。
そこで「そうだ、鉄道に乗ってインド大陸を旅してみよう!」と思い立ったわけだが、何を血迷ったのか私は「GN」に意気揚々と乗り込んでしまったのである。
所要時間は約30時間。最下層といっても椅子はあるから運が良ければ座れるかもしれないし、1日くらい立ちっぱなしでもなんとか耐えられるだろう。また、私はその1年前に、香港からタイまで自転車で走破するという旅を終えたところだった。その経験が私に過信をもたらしていたことは言うまでもない。私はちょっとした「ランボー気分」に身を包まれていたのだ。
出発時刻よりも早めにチェンナイ中央駅についたので、ペットボトルの水やポテトチップスを買い込んで列車に乗り込む。ネットでよく見る、電車の周りに大量の人がぶら下がっている光景を予想していたので拍子抜けだ。車内はガラガラで、すんなり4人席の一角に座れてしまったのである。
思ったより楽しい旅路になりそうだ。もしかしたら日本人の女の子がたまたま隣に座って仲良くなってしまうかもしれない。仮に車内がギュウギュウになっても、その子が隣にいるならば、やぶさかではない。そんなことを考えていたらウトウトと眠りについてしまった。
――なんだか周りが騒がしい。そしてものすごい熱気だ。そろそろ列車が出発するころかと目を開けると、私の顔面は脂汗でベトベトになっていた。その原因は、寝ている間に驚くようなスピードで急上昇していた車内の人口密度である。それに加え、「そんなデカい荷物、普通、電車の中に持ってくる?」と聞きたくなるようなインド人がいっぱいいるのだ。
日本の場合、というか世界的に考えても常識的に、電車で座る場所がなかったら人は立っているものだ。しかし、インドの「GN」は座れなかったら少しでも座れそうなところに座る。それでも座れなかったら床に座る。出発前だというのに、すでに床に寝転がっている人もいる。
私が腰かけていた4人席も、気付けば8人も座っているではないか。頭上にある荷台を見ると、私が置いたバックパックを枕にして上半身裸のインド人がいびきをかいて寝ていた。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。
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