2017年7月5日水曜日

ヒマラヤの秘境で幻覚ハチミツを採る山岳民族がいた

Source: https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170630-00010001-nknatiogeo-sctch
6/30(金)、ヤフーニュースより

 竹で編んだはしごにぶら下がりながら、クルン族の男マウリ・ダンは崖を見上げた。ここは地上90メートルの空中。彼が目指す岩棚には長さ2メートル近いハチの巣が張りつき、おびただしい数のヒマラヤオオミツバチが群がっている。

 ハチたちが守っているのは、「マッド・ハニー」と呼ばれる蜂蜜。幻覚作用があることで知られ、アジアの闇市場で通常のネパール産蜂蜜の約6倍の価格、1キロ4000円前後で取引される。
マッド・ハニーが現金収入に
 ヒマラヤオオミツバチは、標高と季節に応じて数種類の蜂蜜をつくる。春に採る蜂蜜に幻覚作用があるのは、毎年3~4月にかけて咲く大きなツツジの木の花に、毒素が含まれているからだ。ネパール東部に暮らす山岳民族クルンの人々は、はるか昔から蜂蜜をせき止めや消毒薬の代わりに利用してきた。蜜蝋は首都カトマンズの職人に売られ、神々の銅像の鋳型となる。

 マウリにとって蜂蜜採りは、自給自足できない生活必需品を買う現金を得るための唯一の手段だ。とはいえ、彼はもうこの仕事を辞める潮時だと考えている。ミツバチは彼の周りを飛び回り、顔や首、手や素足、さらに衣服の上からも容赦なく体を刺してくる。57歳のマウリにとっては、あまりにも危険な仕事なのだ。

 マウリはゆっくりと、ひるむことなく前進し、巣までわずか3メートルの距離に近づいた。ハチの巣からは、怒り狂ったハチたちの羽のふるえが伝わってくる。ハチたちはなおもマウリに襲いかかってくるが、彼は動じることなく、ハチの群れと、この崖に宿る精霊を鎮めるためのクルン族の呪文を唱える。「ミツバチの精霊よ。われわれは盗賊でも、追いはぎでもない。われわれは代々の先祖とともにいる。飛び去れ、立ち去れ」
消えつつある秘境
 ヒマラヤのジャングルに囲まれた、ホング川の深い渓谷で、クルン族は何世紀もの間、外界とは切り離された暮らしを送ってきた。そんな土地にも今、少しずつ開発の波が迫ってきている。すでにマウリが暮らすサディの村から歩いて2日ほどのところまで未舗装の道が開かれ、谷の奥深くへ通じるトレッキング・コースの整備が始まっている。これが完成すれば、サディとその近隣の村落は、観光客に人気のトレッキング・エリアと結ばれるようになる。

 クルン族を取り巻く世界は急速に変化している。古い歴史をもつこの集落と外界をずっと隔てていた境界が、その土地に秘められた魔法のような力とともに、消え去ろうとしている。

※ ナショナル ジオグラフィック7月号特集「消えゆく蜂蜜採り」では、ヒマラヤの密林で命がけで蜂蜜を採る山岳民族をレポートします。
Mark Synnott/National Geographic

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