Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/2b46af9dd965ccad70888321844bdd539039b75d
町長に案内されてまず入ったのは、ブラジル料理店。1時間後にインドネシア料理店に移り、それからトルコ料理店、ブラジル人の集まるバーと、はしご酒した。「何でも相談しろよ。町長室に遊びに来てくれ」。どの店でも外国人客たちと盛り上がる。 【写真】日本のAVへの出演を目指したが、数十社に断られ… 香港女性 「挑戦する姿」に若い女性は共鳴 「日本のAV界で同じ香港人が活躍することは『すごい』と受け止められている」
深夜、最後の締めにインド料理店へ。町長は上機嫌で記者に言った。「これが、リアル大泉だよ!」 群馬県大泉町は人口4万人のうち9千人と、2割以上が外国籍住民だ。夜な夜な彼らが集まる店を飲み歩き、体当たりの町政を続ける名物町長がいるとのうわさを聞き、同行取材をお願いした。濃い一夜をリポートする。(共同通信=勝田涼斗) ▽チャオチャオ! 村山俊明町長(63)と待ち合わせたのは、冷え込んだ1月末のある日の午後6時。大泉町のブラジル料理店「ビッグビーフ」だった。店内は明るい音楽が流れ、数組の外国人が食事を楽しんでいた。 「チャオチャオ!」。陽気なあいさつをして入店する村山町長に、おそるおそるついて入る。町長から「食べてよ!」と促され、コロナビールと「コシーニャ」を注文。鶏肉を包んでコロッケのように揚げた料理だ。ボリュームがあっておいしい。 食事が一段落し、町長はふらっと店の外に出た。待っていると5分後、数人の外国人を連れて笑顔で戻ってきた。「初めて会ったけど仲良くなった。話を聞いてみる」
▽外国人とまとめられる 町長は彼らの職業などを聞き、名刺を渡して語りかけた。「頑張れよ、困ったら相談してくれ。大泉にはポルトガル語が分かる弁護士もいるぞ」 記者は、仕事帰りに外国人の同僚と一緒に来店したという30代の男性会社員に話しかけてみた。生まれも育ちも大泉町で、隣の太田市の物流会社で働いている。男性はこう嘆いた。「一部の人が悪さをすると、同じ外国人だからとまとめられることが頻繁にある。彼らは真面目に働いているのに」 ▽キーパーソンを捜す 1時間ほどでブラジル料理店をあとにし、インドネシア料理店へ向かった。こちらは照明も音楽も落ち着いた雰囲気だ。ナシゴレンやミーゴレン、ビンタンビールを注文した。 飲食店を巡る目的は何なのか。村山町長に尋ねると、こう答えた。 「ここはインドネシア人のコミュニティーの場。彼らの困り事や要望を把握するために店を回って、行政とのパイプ役になるキーパーソンを捜す。要望にすぐ応じることで信頼関係を築くんだ」 ▽技能実習生の新年会に乱入
店の2階には、同じ職場で働く技能実習生ら約20人が集まっていた。町長はインドネシア語の「こんばんは」を覚えてから、2階へ。「スラマットマラム!大泉の町長って分かるかな?」 町長はスマートフォンの翻訳アプリを使いながら、こう続けた。「外国人だからといって悪く見る、間違った考え方が広がってきた。だけどみんなは真面目に働いている。何でもいいからみんなの意見を聞きたい」 町長に負けじと記者も1人に話しかけた。19歳で日本に来て7年目、現在は卵の包装の仕事をしているという男性。この日は新年会だという。将来の目標を尋ねると、彼は笑顔でこう話した。「永住許可を取って日本で暮らしたい」 ▽おい、兄弟! 次の店に向かう道中、町長は記者にこう語りかけた。「話してみて悪い人はいないだろ。自治体が彼らと同じ目線にならないと、トラブルが起きてしまうんだよ」 午後8時過ぎ、トルコ料理店に到着。「おい!兄弟!」。町長はコンテナ型の店に入り、店の人と熱烈なハグをした。記者が戸惑っていると、町長が店主ジノグル・ハサヌさんを紹介してくれた。町のトルコ人コミュニティーのまとめ役で、子ども食堂も運営し、町のイベントにも協力してくれるという。
店内には他に3人のトルコ人がいた。そのうちの1人は大泉で暮らして約25年。NPO法人でキッチンカーをつくる仕事をしていて、能登半島地震では現地に駆け付け、食事を配ったという。彼は町の印象をこう語る。 「住んでいて困ったことは一度もない。生まれた町ではないが地元のように感じる。町を大切にしたいし守りたい」 町長はこう呼びかけた。「困ったら何でも言ってこい!酔っぱらっていても話や約束は大事に聞くから。今度は町長室に遊びに来てくれ」 ▽見た目で判断され悲しい トルコ人たちに別れを告げ、今度はブラジル人が集まるバーへ。多くの客が飲食しながら、音楽に合わせて陽気なメロディーを口ずさんでいた。町長にうながされ、女性に話を聞いてみた。 町長の知人というマユメ・クララさん(18)は、親と一緒に来店していた。隣の太田市で生まれ育ち、この春、美容師を目指して専門学校に入学する。最近は外国人への厳しい目線を感じるという。「日本のルールや文化は理解しているのに、見た目で判断されるのは悲しい」
一方で、大泉町の印象を尋ねるとクララさんはこう返した。「ここにいると、守られている感覚がする」 ふと気付くと、村山町長の周りに大勢の外国人が群がっている。「全然知らない人が8割くらいだよ!」。町長は豪快に笑った。 ▽国境を越えた手話 午後10時ごろ、これで最後にしようと、インド料理店「チャウラシ パリカ」に連れていかれた。「『ナマステ』と言って店に入らないと駄目なんだよ!」 勢いよくドアを開け、店主らにナマステ!とあいさつをする。パラクカレー(ほうれん草カレー)など数種とナンを注文。5軒目だが、まだ食べられる。 広々とした店内では、日本人の男性客が、経営者のネパール人夫婦と、手話で話していた。店主によると、男性はろう者で、8年前からの常連だという。 町長は店主や男性と写真を撮り、興奮した様子で言う。「これが、リアル大泉だよ!」。そして、こう続けた。「町の実情も知らないで『外国人は出ていけ』は間違っている」 ▽「百聞は一食にしかず」
多文化共生を地で行く町長は、これまで、何者かから爆竹を自宅に投げられたり、手紙で脅迫されたりしたこともあったという。それでも、こう誓う。「良い外国人は命懸けで守る。俺が折れるわけにはいけない」 インド料理店を出て午後11時半ごろ、町長と別れた。「これが俺の仕事。百聞は一見にしかず、百聞は一食にしかずだよ!また来いよ!」。濃い一夜が終わった。 ▽大泉町はどんな町 群馬県南東部にある大泉町は、面積では県内で一番小さい。パナソニックやSUBARUなど大手製造業の工場が立ち並んでいる。 1990年施行の改正入管難民法を機に日系ブラジル人の集住が進み、その後も外国人が増加。2025年9月末時点で人口4万1381人のうち、21・8%の9038人が外国籍で、55カ国に及ぶ。ブラジル国籍が半数ほどで、次にペルー人やネパール人が多い。 村山俊明氏は1962年、大泉町に生まれた。1997年に町議に初当選し、議長を経て2013年から町長に就任。現在は4期目だ。
▽自治体にとっては同じ住民。職員の国籍条項を撤廃 飲食店巡りに密着する前の2025年11月、村山町長にインタビューした。 ―外国籍住民とは、どんな存在ですか。 「国が労働力として受け入れても、転入届が出れば自治体にとっては住民だ。1990年代は2~3年の出稼ぎが多かったが、今は10年以上住む定住者が7割以上いる。国民健康保険や年金をよく知らない人、未加入の人もいて、年を取ると生活保護受給者になることも考えられる」 ―どんな施策を打ち出しましたか。 「2017年には群馬県内で初めて『あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例』を制定した。2019年には全国の町村では初となるパートナーシップ条例を制定。2025年4月採用の職員試験からは国籍条項を撤廃した」 ―国籍条項撤廃の狙いは。 「人の役に立ちたいと一生懸命勉強しても、外国籍だから公務員にはなれない。それでは疎外感が出る」
―他にどんなサービスを提供していますか。 「病気になった時、日本語ができる同僚が仕事を休んで病院に付き添う必要があると聞いた。そこで、8カ国語の問診票を作って医療機関に配布した。 ごみ出しのマナーは問題になりやすく、7カ国語で資料を配布している。広報紙や防災マップもポルトガル語や英語で作った」 ―55カ国の言語にどう対応するのですか。 「全ての言語に対応するのは難しい。英語を共通のツールとして活用するため、外国語指導助手(ALT)を各学校に配置し、英検の検定料の一部補助などをしている。小さい頃から英語に慣れれば、国際社会にも通用するだろう」 ▽「日本人ファースト」なんて言葉が入ると傷つく ―トラブルはないのですか。 「例えば、ブラジル人は店に集まって母国のサッカーを観戦するが、時差の関係で午前3時ごろ開始になることもある。盛り上がると近所から町にクレームが入る。だから俺もマナーを説明しに店に行って、一緒に見たこともあった」
―外国人による犯罪が起きてしまうこともあります。 「定住していない一部の外国人が犯罪を起こすと、定住者もひとくくりで『外国人が』と悪く言われ、迷惑する。『〇〇人が』と事件報道があると、翌日の学校が心配だ。子どもたちのいじめや差別がないよう、校長に通達を出す」 ―排外主義の高まりをどう考えますか。 「学校では、多いクラスだと外国籍が4割いる。仲良くやっているところに『日本人ファースト』なんて言葉が入ると当然、子どもは傷つく。子どもたちは大泉生まれ、大泉育ち。少子化に歯止めをかけ、将来の町を支える担い手だ」 ―なぜ、これほどの信念を持ち外国人共生施策を推し進めるのですか。 「昔、俺の自宅の近くには在日韓国人が多く住んでいて、両親が彼らを大切にしていた。彼らは20代の頃の自分をかわいがってくれて、その出会いが自分の考え方や価値観を大きく変えた」 ―自治体の取り組みに対して、政府はどれくらい理解していますか。
「理解は足りない。定住化が進めば新たな課題が生まれ、通訳や教育、いろんな分野で人員が必要だ。国は自治体に丸投げせず責任を持つべきだ。規制を急激に進めるのではなく、支援から考えてほしい。 外国人は必要不可欠だが、大泉に来る外国人は大泉のルールを守ってもらう。真の多文化共生は、義務を果たして住民サービスを受ける権利を確立することだ」








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