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外国人が日本で事業を営むために必要な在留資格「経営・管理」は昨年10月、資本金が500万円から3000万円に増額されるなど許可基準が厳格化された。ハードルの高さから廃業する外国人も出てきているが、日本経済への悪影響も指摘される。厳格化はなぜ行われ、どんな課題があるのか。識者や当事者のほか、省令改正時の法務大臣・鈴木馨祐氏にも取材した。(文・写真:ジャーナリスト・室橋裕和/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
あきらめて帰国する人も
そもそも、在留資格とは何か。 入国を許可するための「ビザ」とは異なる。日本で3カ月以上滞在する外国人に取得が義務づけられているものだ。在留資格は「この国で何をするのか」、つまり「目的」や地位とひもづいている。学びに来た人は「留学」、働きに来た人は「特定技能」や「技能実習」、ほか「外交」「報道」など計29種類。目的や身分が変わったら、在留資格も変更しなくてはならない。 また在留資格には滞在期間が決められており、時期が来たら資格を更新する必要がある。期間を過ぎたら「不法滞在」となり、更新できなければ帰国するしかない。そして更新できるかどうかは出入国在留管理局(入管)の審査にかかっている。 在留資格は外国人が日本で暮らすための「生命線」ともいえる。「在留資格は命の次に大事」と真顔で話す外国人もいる。
その在留資格のひとつ「経営・管理」は、日本で事業を営む目的の外国人が取得するものだ。保有者は2025年6月時点で4万4760人。大半は飲食業など小さな会社の経営者だ。滞在期間は3カ月から5年。 昨年10月、この「経営・管理」の許可基準が厳格化された。資本金が500万円から3000万円へと引き上げられ、日本人もしくは永住者等の常勤職員を雇用することなどの条件が課された。既存の事業者には2028年10月までの猶予期間があるが、中小の飲食店などの経営者にとってはきわめて厳しい条件となっている。 「(在留資格の条件を満たすことを)あきらめて帰国する人も出てきています」 東京・新大久保でレストランを経営する、あるネパール人は言う。 在留資格の問題は家族にも影響が及ぶ。「経営・管理」を持つ外国人に扶養される配偶者や子どもには「家族滞在」という在留資格が与えられる。だが、扶養者が在留資格を更新できなければ、本人はもちろん、家族も日本には住めなくなる。日本生まれで日本語しか話せない子どもでも、なじみのない「母国」に追われることになる。 そして厳格化の影響は外国人だけではなく、日本の企業や地域社会にも及ぶ可能性がある。
労働者不足に拍車がかかる可能性
「経営・管理」を保有する外国人のうち、資本金3000万円を満たしているのは4.1%(出入国在留管理庁)。残り95.9%が在留資格を更新できなければ、どんなことが起きるのか。 たとえば飲食店。在留資格切れまでに店舗の整理などが間に合わず、やむなく放置して日本を出国するケースも想定される。借り主がいなくなれば、貸主(大家)に損害が及ぶ。 入管行政に詳しい児玉晃一弁護士は、大家が借り主を被告として「建物明渡請求」の訴訟をする必要がある、と語る。 「大家の訴えを認める判決後、執行官同行のもと店舗明け渡しの強制執行をしますが、原状回復費用などすべて大家の負担。かかる費用は100万円単位になるでしょう、と伝えることが多いです」 また飲食店の場合、食材や消耗品などの取引業者が売掛金を回収できない事態も考えられる。 労働者不足に拍車がかかるという指摘もある。在留資格を専門に扱う行政書士の古市展宏氏はこう懸念する。 「飲食店を営む『経営・管理』の方やそこで働くコック(在留資格は『技能』)の配偶者は『家族滞在』という在留資格で大きな労働力になっています。その方たちもいなくなるからです」 「家族滞在」は入管で許可を得れば、週28時間までのアルバイトが可能だ。2024年は8万8776人もの外国人がこの許可のもと働いている。 「弁当や総菜の工場、コンビニ、ホテルのベッドメイクなど『家族滞在』の労働力で維持している職場は非常に多い」(古市氏) この人々も一斉に帰国せざるを得ないとなれば、影響を受ける業界も出てくるだろう。
「3000万円」という資本金要件の根拠
日本の全産業における法人の資本金の中央値は300万〜500万円だ(総務省・経済産業省。2021年)。入管庁は資本金引き上げに「諸外国の例も参考にした」というが、その入管庁が提示する資料「諸外国における受入れ制度比較」を見ると、フランスやイギリスなどは資本金要件を設けていない。韓国は約1000万円、アメリカは約1500万〜約3000万円だ。 「そもそも資本金という要件そのものが疑問」と児玉弁護士は言う。
「以前は、有限会社は300万円、株式会社は1000万円という最低資本金制度がありました」 最低資本金制度は倒産したときのために、一定額を債権者のために維持すべきという制度だったという。資本金が会社の信用度を表す指標でもあった。 「しかし、現実は資本金をそのまま残している会社はあまりない。設備投資のためなどに使うものです。倒産の際にまったくお金が残っていない会社も多い」 資本金の額が必ずしも会社の信用や経営実態と直結しないということだ。そんな実情を受け、2006年に会社法の施行で最低資本金制度は廃止。資本金1円でも会社が設立できるようになった。 しかし、2026年5月8日の衆議院法務委員会で出入国在留管理庁次長の内藤惣一郎氏は「資本金3000万円」の妥当性を問われ、「事業の安定性や日本の経済に資する事業の規模という観点」を根拠に挙げた。 この答弁に対し、児玉弁護士は、資本金が「事業の安定性」や「会社の利益」を証するものではないからこそ最低資本金制度は廃止されたわけで、会社法の理念にそぐわないのではないか、と疑問を呈する。 「外国人にだけ資本金を求め、3000万円に引き上げる。入管庁は資本金のなんたるかをわかっていないと思います」 また、資本金3000万円よりも、「日本人もしくは永住者などの常勤職員1名以上を雇用」という条件のほうが難しいと児玉弁護士は言う。 「飲食は人手不足で、とくに外国人に頼っている業界。外国人のもとで働く日本人がどれだけいるでしょうか」
「もっと段階的にすべき」の声も
「経営・管理」厳格化の理由を、入管庁は「日本に移住するための手段とし、事業実態がないケースが散見されること」と説明している。この件が昨年8月20日の「出入国在留管理政策懇談会」第6回会合で話し合われ、法務省は同10月に省令を改正した。 背景にあるのは「経営・管理」保有者の半数以上、2万3747人を占める中国人の存在だ。日本で長期滞在するために営業実態のない法人(ペーパーカンパニー)をつくり、「経営・管理」を保有する中国人が一定数いると指摘する報道が相次いだ。 しかし「悪用」の実数は不明だ。前出の内藤入管庁次長は5月14日の参議院法務委員会で「ペーパー会社など不正行為の件数は統計として把握していない」と述べている。 中国に詳しいジャーナリストの舛友雄大氏は「中国人の『経営・管理』取得者には民泊や貿易会社などの実業を営んでいる人もおり、すべてがペーパーカンパニーと断言はできないと思います」と話す。 明確な不正の数がわからない中での改正ということになる。
ただこの改正は、単に「厳格化」というだけでなく、いままで放置されていた問題を締め直す意味合いもある。とりわけ社会保険だ。行政書士の古市氏は入管庁の変化をこう語る。 「これまで『経営・管理』の更新時などには、社会保険や労働保険加入の有無の確認がなかった。しかし改正を境に、法人税や事業税などと併せてしっかり確認されるようになっています」
「社会保険を払っていないなど、ルールを守っていない人も多いんです。ここを厳しくするのはいいことだと思います」とNRNA JAPAN(海外在住ネパール人協会日本支部)の会長スバス・ラミチャネさんは言う。 自身も複数の飲食店を持ち、今回の厳格化の基準をすべてクリアしている。 「でも3000万円は高すぎるし、猶予期間も短すぎる。もっと段階的にすべき」と入管庁の姿勢にも疑問を呈する。 「これだけ厳しくなると、日本から出ていこうと考えるネパール人もけっこういます。僕もですよ」 多くの日本人を雇用し、税収面でも日本社会に貢献しているスバスさんのような人ほど、帰国を考えているという。
「外国人に対して突然、制度変更がある国になった日本に、資産を置いておくのはリスク」という気持ちからだそうだ。 中国人も同様だと舛友氏も言う。 「外国人に対して『経営・管理』だけでなく厳しい措置が続き、中国政府的なやり方だ、と言う中国人もいました」 そのためか、東京に住む中国人の数にも変化がある。今年1月1日時点で29万9831人だった中国人は4月1日時点では29万7055人とわずかに減った。7月1日時点で30万510人と戻しはしたが、この数年、一貫して増え続けてきた数が一時的とはいえ減った時期があった。 「コロナ禍の上海ロックダウン(2022年3〜5月)以降、中国人の間では中国政府の方針に疑問を感じて日本に移住する中間層が増え続けていました。それがここにきて一時的にでも減少に転じたのは意味を持っていると思います」(舛友氏)
鈴木前法相「日本社会の安定と安全のため」
厳格化は妥当だったのか。2025年の省令改正時の法務大臣、鈴木馨祐氏に話を聞いた。
──なぜ厳格化したのでしょうか。 「埼玉県川口市でのトルコ国籍の方に対する報道もあり、国民の間に不安が広がっていました。欧州諸国でも、外国人をめぐり右派政党が台頭するなど社会の分断が見られる。日本をそういった状況にするわけにはいかないという思いが根底にありました」 ――改正の背景には制度を悪用する外国人がいると伝えられています。 「外国籍の方が事業実態が疑われる形で『経営・管理』の制度を悪用し、滞在しているという情報が多く寄せられていた。そこを考えたときに改善が必要だということで、政府で検討しました」 ──3000万円という資本金により、正当に事業をしてきたけれど用意できない外国人事業者はやめざるをえないのではないかという指摘があります。 「実際にいまの制度が脱法的に悪用されている例がある以上、日本社会の安全と安心、治安を守るとの政府としての責任を果たすためには、制度改正も含め、最善を尽くしていくことが必要だと思います」 入管庁は公式サイトで、「3000万円に満たないことのみをもって一律に不許可処分とはしない」と公表している。「2028年10月以降、許可基準に適合しない場合でも、経営状況が良好で、法人税等の納付義務を適切に履行し、次回更新時までに改正後の許可基準を満たす見込みがあるときは、その他の在留状況を総合的に考慮し、許否判断を行う」としている。 しかし、「総合的に考慮」という基準は明示されていない。「だから対応のしようがない。来年あたりから廃業する外国人は増えるでしょう」と冒頭のネパール人はつぶやく。 行政書士の古市氏は言う。 「大富豪のような外国人しか日本では起業できなくなるのでは。でも、そんな人たちにとっていまの日本は3000万円を投じてまで選ぶ国でしょうか」 室橋裕和 ジャーナリスト。1974年生まれ。著書に『カレー移民の謎』『ルポ新大久保』など。 「#日本社会と外国人」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2024年末の在留外国人数は前年より約11%増え、約377万人。日本の人口に占める割合は約3%です。訪日外国人旅行者も年々増加し、2024年には過去最高を記録しました。今後、日本社会は外国人とどう向き合い、どのような関係を築いていけばよいのでしょうか。さまざまな事例と共に考えます。








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