Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c6e554a5b22126968320f31bc738b7d77262e316
6月19日、ウクライナのフェドロフ国防相は「トロフィー・ラボ(Trophy Lab)」の開設を発表した。「トロフィー」は「戦利品」と訳されることが多いが、ここでは「鹵獲品」が適切だろう。「ラボ」は「研究室」なので直訳すると「鹵獲品研究室」となる。一体、何の研究をしようというのか。軍事ジャーナリストは「ウクライナによる史上初、前代未聞のプロジェクトであり、世界中の軍事関係者が大きく注目しています。ロシア軍はもちろん、何よりもプーチン大統領が窮地に立たされたと考えて間違いないでしょう」と言う。(全2回の第1回) 【写真12枚】「美しすぎる」と話題に…米国で拘束されたロシアの美人スパイの素顔 「プーチンも絶賛」 ***
軍事ジャーナリストは「ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ウクライナ軍はロシア軍の兵器を大量に鹵獲してきました」と言う。 「妨害電波で墜落させたロシア軍の偵察型、自爆型など各種ドローンや各種ミサイル、乗り捨てられた戦車のT-80やT-90、撃墜された戦闘機のスホーイ35などをウクライナ軍は戦場から回収しました。戦争において敵軍からの鹵獲品は軍事機密の入手が期待できる、文字通りの“宝の山”です。どんな部品が使われ、どう組み立てられ、どれくらいの攻撃・防御能力を持っているのか、弱点はどこか、専門家が徹底的に調査・分析します。ただし、これだけなら軍事史上、何度も繰り返されてきたことです。ところがウクライナは得られたデータを包み隠さず公開し、同盟国と共有するという前代未聞のプロジェクトをスタートさせたのです」 もちろん最高レベルの軍事機密のため、誰でもアクセスできるというわけではない。希望者を募り、厳密な審査を行って許諾の可否を通告する。 ウクライナ国内の軍事産業、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の政府や軍事関連組織は許諾を得ると考えられている。一方、ロシア、中国、北朝鮮といった対立関係にある政府や関係機関は完全に排除する。この3カ国は偽装した軍事研究機関などを設立して申請する懸念があり、徹底的な審査を行う構えだ。
AIでも活用する可能性
トロフィー・ラボでは100を超えるロシア製兵器の図面、電子基板の回路図、装甲の材質などが公開されている。 「いずれも“超”が付くほど貴重な軍事機密です。例えばT-80やT-90の走行スピードや装甲の強さといった基本データは推定値ではなく、正確な測定値を手に入れたわけです。内部の構造を図面化すれば弱点が分かります。ロシア軍の戦車を破壊する対戦車ミサイルの開発に大きく寄与するでしょう。偵察型、自爆型など各種ドローンやミサイルに対する妨害・誘導電波の性能も大幅に向上すると考えられます。また最前線のウクライナ軍指揮官にも朗報でしょう。戦車の砲弾やミサイルの有効射程距離が分かるわけですから、戦場のどこが安全で、どこが危険なゾーンか簡単に判断できます。さらにウクライナ軍は作戦の立案にAIをフル活用しています。鹵獲品から得たロシア軍兵器の性能データをAIに移植すれば、作戦の成功率は向上し、ロシア軍に大きな損害を与えることが期待できます」(同・軍事ジャーナリスト) トロフィー・ラボのデータは戦場以外でもロシアを苦しめることになるだろう。例えば鹵獲品の調査からロシア軍が兵器に使用した西側ICチップの型番が判明しており、その型番はラボで公開される。つまりロシアが制裁をすり抜けて入手したICチップが明らかになったのだ。
なぜ新品の鹵獲品があるのか?
「これでロシアの“経済制裁の回避ルート”を突き止められるのではないかと期待が集まっています。調査を行って得られた情報から再発防止を強化すれば、経済制裁の抜け穴を塞ぐことができます。さらに驚くべきことに、ウクライナはデータだけでなく鹵獲した兵器そのものも“開示”する方針です。希望者にはロシア製兵器の原物も貸し出すと発表しているのです。もし日本政府がトロフィー・ラボの使用許諾を得たとして、貸し出しを希望すれば日本人の専門家がロシア製兵器を徹底的に分析することも可能なのです」(同・軍事ジャーナリスト) 鹵獲した兵器の中には新品同様の代物もある。軍事ジャーナリストは「例えば攻撃ヘリのKa-52は全くの無傷で、本当に戦場で鹵獲したのか疑問に感じてしまうほどです。横流しを疑う人がいても仕方がないでしょう」と言う。 状態の良い鹵獲品が多いのは、ロシア兵の練度や士気が極めて低いことが原因だ。何しろ最前線に展開するロシア兵は、まさに“烏合の衆”だと言える。例えば2022年、ロシア軍は「6カ月戦えば恩赦する」と囚人を勧誘して話題になった。 多くのロシア国民はウクライナ戦争を「正義のない戦争」と考えており、無理に徴兵を実施すると世論が反発する可能性がある。
自業自得のプーチン大統領
そのためウクライナの最前線に展開する部隊には、現在でも囚人兵が含まれていると考えられている。さらにアフリカ諸国やネパール、インドなどで傭兵を募集しているほか、ロシア辺境に住む低所得者にも高給を提示して入隊を呼びかけている。 「ロシアが北朝鮮に経済支援や軍事援助を保証し、北朝鮮軍の正規兵が派兵されたのも記憶に新しいでしょう。5月には国内の多重債務者を対象に『入隊したら借金を帳消しにする』と呼びかけ、多くのメディアが記事を報じました。陸上自衛隊の戦車隊員なら戦車を放棄して退却する場合、破壊の手順について訓練を受けます。戦車を丸ごと破壊できれば理想的ですが、困難な場合は光学照準器などの火器管制システムや通信機器の破壊が最優先……などと学ぶわけです。一方、はっきり言ってロシア兵はこうした訓練を受けていませんし、破棄の命令も無視してしまいます。ウクライナ軍が公開した動画などを見ると、退却の際は我先に逃げ出しており、兵器の鹵獲を防ぐといった考えなど全くないことが分かります」(同・軍事ジャーナリスト) トロフィー・ラボが稼働したことで怒り心頭のプーチン大統領は部下を叱りつけているのかもしれない。しかし結局のところ、囚人兵や傭兵だらけの部隊を最前線に派遣することを許可したのは他ならぬ大統領だ。まさに自業自得だろう。 第2回【ウクライナが「ロシア製兵器の弱点」を公開…プーチン大統領が頭を抱える戦争への影響以上の“大打撃” 中国や北朝鮮が狼狽している可能性も】では、トロフィー・ラボのデータがロシアの軍需産業にも深刻な打撃を与え、中国や北朝鮮の兵器も弱点が判明する可能性があるという意外な展開について詳しくお伝えする──。 デイリー新潮編集部
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