Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/3b8b87e4f8aa80d6ffcaef2d74fb319e78d8d32f
#日本社会と外国人
外国人が会社を運営するための在留資格「経営・管理」が厳格化され、資本金要件が500万円から3000万円へと引き上げられた。このため外国人経営の企業の多くが閉業の瀬戸際にある。とくに大きな影響を受けるのはネパール人の飲食店と言われるが、それはなぜか。そしてネパール人たちにとって3000万円とはどういう額なのか。都内でカレー店を営む一家に取材した。(文・写真:ジャーナリスト・室橋裕和/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
夫婦で7年かけて貯めた500万円
「500万円を貯めて、自分の店を持つことが目標だったんです」 賑わう店内を見渡しながら、ネパール人の女性リタ・ティワリさん(仮名)は言う。日曜昼下がり、東京都内の商店街にあるインド料理店。客の大半は日本人の家族連れだ。リタさんに手を振って入ってくる人もいる。 リタさん夫妻(40代)は2006年に来日。夫は親戚筋を頼って、九州のインドカレー店でコックとして勤め始めた。当時の在留資格は「技能」だった。リタさんは夫の配偶者である「家族滞在」という在留資格。この場合、週28時間のアルバイトができるため、弁当屋で働きつつ日本語を学んだ。
「あの頃は、時給680円だったかなあ」 夫が働く店の2階にふたりで住み込み、故郷に仕送りをしながら、少しずつ貯金をした。 「1年で100万円ずつ、がんばって貯めようねって」 当時、外国人は500万円を出資して会社をつくれば「投資・経営」(現在は「経営・管理」)という在留資格を取得できた。経営者として自分の店を持てるのだ。娘が生まれたことで少し遅れたが、来日7年後の2013年に500万円を確保、夫は念願の「投資・経営」に在留資格を変更した。さらに貯めたお金で都内に店を開いた。 しかし昨年10月、「経営・管理」の要件が突然に変わった。資本金が3000万円と従来の6倍に。既存の外国人経営者には2028年までの猶予があるが、その間に残り2500万円を増資しなくてはならない。 「難しいよね」 リタさんはぽつりと言う。
資本金500万円→3000万円の背景は
厳格化の発端は昨年8月20日に行われた「出入国在留管理政策懇談会」の第6回会合だ。この中で出入国在留管理庁(入管)の在留管理課長から、「経営・管理」を利用して日本に移住し、トラブルにつながっている例があること、事業実態がないケースが散見されることから、取得基準見直しが提言された。 そこで入管は省令を昨年10月に改正、資本金を3000万円に変更。加えて「日本人、もしくは永住者などの常勤職員を雇用すること」「一定以上の日本語能力を持っていること」などの基準を設けた。 入管は具体的な国名を挙げてはいないが、中国を念頭に置いているとみる報道は多い。読売新聞は昨年10月、大阪の5つの物件に677社もの中国系法人が登記していたと報道。うち666社が資本金500万円で「経営・管理」を取得しており、事業実態のないペーパーカンパニーの疑いがあるという。 「経営・管理」(「投資・経営」)保有者数を見ると、2012年は1万2609人のうち35.1%の4423人が中国人だった。これが2016年に2万1877人のうち51.3%の1万1229人が中国人となり、以降は過半数を中国人が占めるようになる。昨年6月末時点の「経営・管理」保有者数は4万4760人で、53.1%の2万3747人が中国人だ。
ただ、このうちどの程度がペーパーカンパニーかは不明だ。入管の内藤惣一郎次長は今年5月14日の参議院法務委員会で「ペーパー会社など不正行為の件数は統計として把握していない」と述べた。 中国人をめぐるこうした指摘の一方、リタさんの店はペーパーカンパニーではないにもかかわらず、きわめて高いハードルを課された。
多くのネパール人が日本でカレー店経営を目指した
「経営・管理」はもともと「投資・経営」という名の在留資格として1990年に創設された。経済の国際化により外資系企業の進出が増えてきたことに対応するためだ。取得要件は、日本に事業所があり、日本在住の常勤職員2名以上。資本金の額は定められていなかった。 これが2000年、入国管理局(当時)の局長通達によって大きく変わる。ベンチャー企業の世界的な増加などを理由に「相当額の投資が行われている場合は常勤職員の雇用がなくても『投資・経営』を付与する」とされた。「相当額」は、アメリカや韓国を基準に「500万円」と定められた。 さらに2015年の法改正で「投資・経営」は「我が国の経済の発展に寄与する外国人の受入れを促進するため」(入管)、「経営・管理」と名称を変更。
それから25年、日本は500万円を出資して起業する外国人を広く受け入れてきた。「経営・管理」の在留期間は3カ月から5年。この在留資格を持つ人たちの多くは小規模なビジネスをし、期限が来ると更新し、妻や子どもは「家族滞在」で暮らす。こうした形で各地域に定着する外国人は次第に増えていった。 「この『500万円制度』を使って、ネパール人のカレー屋が一気に増えたんです」 一時期は20店舗以上ものインドカレー店を展開していたあるネパール人は言う。 「1980~1990年代に日本ではインド人経営のカレー店がたくさんできましたが、厨房ではネパール人コックもかなり働いていたんです。彼らが日本に慣れて、まとまった貯金もできる頃に、ちょうど法律が変わった」 この波に乗り、在留資格を「技能」から「投資・経営」に変えて、店を持つネパール人が急増した。コックを母国の親戚筋から呼び、そのコックらも500万円が貯まると独立する。 加えて日本政府が2008年に始めた「留学生30万人計画」で急増したネパール人留学生たちも、アルバイトや借金で500万円をつくり、卒業後はカレービジネスに参入した。
1990年に「投資・経営」が創設された当初、ネパール人の保有者は皆無だったが、2000年の制度改正を機に増えていく。2012年513人、2020年1708人、そして2025年6月末時点では2999人と中国人に次いで2位だ。 ネパール人たちにとって日本で「経営・管理」を取得して飲食店を開くことは、大きな目標となっていった。
カレー店経営の「楽ではない」内実
リタさん夫妻の会社は2店舗を経営しており、2025年の売り上げは計約9000万円。繁盛店にも思えるが、内実はけっして楽ではない。 「家賃が2軒で月100万円。スタッフが9人で給料は23万~30万円かな。家賃補助2万円も出してる。水道光熱費は月によるけど1軒20万~30万円。消費税は今年600万円も払った」 1軒の店は飲食店がひしめく繁華街にあり、「グルメサイトに情報を有料で掲載して、飲み放題の安いプランをアピールしないとお客さんが来ない」という。この広告料が4つのサイトで月に約40万円。 昨今の食材高騰も経営を圧迫する。
「油、米、タンドール(かまど)に使う炭、スパイス……。コロナ前に1ケース(12キロ)4500円だった鶏もも肉が、いま1万円ですよ」 それでもコストの上昇を価格に反映させることは「お客さんが離れそうで、怖くてできない」。法人税や社会保険料を引けば、経営者である夫の報酬は年350万円ほどに過ぎない。 この利益率の低さは日本人経営の飲食店も同様だ。日本政策金融公庫によると、飲食業のうち黒字の企業でも、小規模な飲食店の営業利益率は平均5%(赤字企業も含めた日本の全産業の平均営業利益率と同程度。こちらは財務省法人企業統計による)。 また、外国人経営者には大きな「弱み」がある。売り上げが前年より低い、あるいは赤字だと、「経営・管理」の更新時、在留期間に悪影響が出ることがある。それまで3年間の許可だったのが、赤字となると1年間しかもらえなかったりする。 そのため、売り上げが確保され、経営が安定していることを示す必要があるが、その分、税金も高くなる。日本人経営者の中には税負担を考えて利益を抑える人もいるが、そうした「節税」はやりにくい。 リタさんの会社も同様で、だからこそ2年後までに2500万円を増資することは「とうてい無理」だという。
だが、入管が「経営・管理」の審査で重視するという「事業実態」を、リタさんの店が13年にわたり維持してきたことは確かだ。 入管は厳格化の理由に、「経営・管理」を日本に住む手段として悪用し、トラブルにつながっている例があることを挙げている。しかしリタさんの店はトラブルどころか地域に欠かせない存在だ。 「娘の中学校のママたち、食事会はよくうちを使ってくれる」 娘が日本人の友達を連れてくることもあれば、日本人の子どもたち同士で遊びに来たりもする。 「ここだったら安心ってママたちも言ってくれる」 そんな日本人客の反応を見ながら、カレーはマイルドに、スパイスは控えめにと味つけも工夫してきた。商店街に加盟し、祭りにも出店する。ある客はリタさんに「昔はね、日本にもこういう店がいっぱいあったの」と語ったそうだ。 「お店の人と仲良くおしゃべりして、子どもたちの遊び場で。そんな店がどんどん減っているから、ここを大事にしてね、って言われた」
日本で生まれ育った娘のために
「日本に長く住んでいるなら、なぜ『永住』を取らなかったのか」 そんな批判もSNSなどには多い。在留資格「永住者」であれば、就労や資本金の制限はなくなる。 「私たちも本当は『永住』を取りたかったんだけど」 しかし「経営・管理」の場合、在留期間が3年以上でないと「永住者」への申請ができない。夫はずっと1年のままだ。もちろん納税もしてきた。
「去年、入管に聞いたんです。どうしたら3年もらえますかって。返事は、売り上げをもっと上げてくださいって。だからがんばって、去年より1000万円くらい売り上げが増やせて、今年こそはと思った」 だが、やはり期間は1年のみ。いったい売上がいくらならいいのか、どこに問題があるのか。 「うちと同じような経営状態で、3年や5年もらってる人もいる。どうしてかな」 尋ねても、具体的な数字や基準を入管は提示しない。だから対策や改善ができないという。 1年先までしかこの国で商売ができない不安定さを常に抱え、夫妻はそれでも笑顔で客を出迎えてきた。もし夫が「経営・管理」を更新できなかったら、店を畳まなくてはならない。夫の扶養である「家族滞在」のリタさんと娘も、在留資格を失う。日本に住めなくなる。 そのリスクが法改正によって現実味を帯びてきた。 夫は万が一となったら、一介のコックに戻ることも考えている。店舗経営を諦め、在留資格を「技能」に戻すのだ。そうまでして日本にとどまりたい理由は、中学生の娘だ。彼女は日本で生まれ、日本の学校に通ってきたため、日本人という意識が強い。ネパール語は話せるが、文字はわからない。 「もしネパールに転校しても、娘は教科書が読めないと思う」 「技能」でも「家族滞在」が許可されるので、娘は引き続き日本で学べる。だが、夫妻は日本で20年かけて築いてきた財産である店を手放すことになる。収入も減るだろう。従業員とその家族も行き場をなくす。 「でも、我慢しかない」 リタさん夫妻のほかに取材したネパール人たちも、生き残るすべを模索している。 何人かで資本金を出して新しい会社を作れないか、生活費を切り詰めて貯金しよう、日本で稼いだお金で買った故郷の土地や家を売ろうか……。異国で商いをしてきた、したたかな人々はまだ諦めていない。 室橋裕和 ジャーナリスト。1974年生まれ。著書に『カレー移民の謎』『ルポ新大久保』など。 「#日本社会と外国人」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2024年末の在留外国人数は前年より約11%増え、約377万人。日本の人口に占める割合は約3%です。訪日外国人旅行者も年々増加し、2024年には過去最高を記録しました。今後、日本社会は外国人とどう向き合い、どのような関係を築いていけばよいのでしょうか。さまざまな事例と共に考えます。めから3000万円だったら、目指さなかったと思う」









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