Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/1c1d043ca82d37f17e2372714a8d11d39daa5fdd
半年前、僕はネパールに移住して学生になった。授業のない週末になると、カトマンズ近郊でハイキングを楽しんでいる。 【画像】え、3,000mオーバーなのに? ネパール人の「ハイキングの格好」 ネパールのハイキングと聞けば、多くの人はエベレストやアンナプルナなど、ヒマラヤを思い浮かべるだろう。しかし、いま現地の若者たちに人気なのは、もっと身近な場所を歩くハイキングだ。 今回は、僕が訪れた「標高3,000mを超える丘」を紹介しながら、日本とは少し違う、ネパールならではのハイキング文化をレポートしたい。
コロナが変えたネパールの週末
カトマンズでは近年、若者の間でハイキング人気が高まっている。きっかけは新型コロナだった。 長いロックダウンによって、多くの人が家に閉じ込められた。自由に出かけられるようになったあと、人々が求めたのは街を少し離れた丘や森といった自然だった。もともと娯楽の選択肢が限られるネパールでは、ハイキングが身近なレジャーとして定着していった。 僕が住んでいるカトマンズでは、毎週末のようにハイキングイベントが企画されており、多くの人が近郊の自然に足を運ぶ。 参加費も安く、一人でも安心して参加できる。友だちができるし、運動にもなって、映える写真も撮れる。ネパールも日本同様、SNSは欠かせないツールになっているが、なかでもTikTok人気が驚くほど高い。雄大な自然を舞台にした動画は、絶好の投稿ネタになる。それもあってか、多くの若者たちが週末ハイキングを楽しんでいるのだ。
標高3,100mなのに「丘」
今回僕が歩いたのは、カトマンズの東、バスで約5時間の場所にあるサイルン(Sailung)。カトマンズは盆地で、日本でいうなら京都のように四方を山に囲まれている。僕の家からも3kmも歩けば標高2,000m近い場所まで行けるほど、自然が町のすぐそばにある。ただ今回は、カトマンズ市内ではなく、その外にある場所へ行ってみたかった。 5時間と聞くと、「それ本当に近郊?」と思われそうだが、距離は120kmほど。東京から富士山に行くくらいの距離感である。ネパールは道路事情が悪いので、同じ距離でも日本の倍以上時間がかかってしまう。それでもネパールの人たちにとっては、十分“近場”のハイキングエリアなのだ。 サイルンという名前は、タマン族の言葉で「100の丘」という意味を持つ。その名のとおり、なだらかな丘陵が幾重にも連なる風景が続く。以前、この地の写真を見た瞬間から、「歩いてみたい!」と思っていた場所だった。
1泊2日で歩きに行ってみた
1日目は、標高約2,800mのロッジに泊まり、周辺を散策。ネパールのロッジは、日本の山小屋という感じではなく、簡素なホテルという感じ。しかも1泊2食付きで2,000円前後と安価である。 翌日は、朝4時に丘に向けて出発。目的は日の出を見ることだった。ネパールでも日本同様、みんな朝日と夕日を見るのが好きなのだ。丘の上に立つ展望台までは約3km。ゆっくり歩いても2時間ほどで着く。 しかし、この日は厚い雲が広がり、期待していた朝日は姿を見せてくれなかった。少し残念に思っていると、日の出から3時間ほど経って、突然空が明るくなった。目の前には、どこまでも続く草原。霧が流れ、雲が切れ、丘が次々と姿を現す。まさに「100の丘」という名前にふさわしい場所だった。 どこを目指すわけでもなく、連なる丘を自由に歩く。丘を縦横無尽に歩くことが、こんなに楽しいことだとは思ってもみなかった。気がつけば、朝日を見られなかったことなど、すっかり忘れていた。
日本とネパールの登山の違いとは
サイルンの標高は3,100mを超えている。日本なら3,000m級といえば、本格的な高山。装備を整え、天候を気にしながら歩く世界だ。ところがネパールでは、友だちと散歩に出かけるような感覚で若者たちが歩いている。 面白かったのは、周りにいた彼らの格好だった。 ほとんどがスニーカー。リュックも普段使いのもの。中にはショルダーバッグの人までいる。雨具も本格的なレインウェアではなく、自転車やバイクで使うポンチョがメイン。日本だったら、「それで山へ行くの?」と言われそうな格好だ。 でも、彼らにとってここは山ではない。「丘」なのだ。 写真やTikTok用の動画を撮り、おしゃべりして、お菓子を食べて、のんびり過ごす。どちらかというと、遠足やピクニックに近い。 ネパールでは、日本でいう登山の対象はヒマラヤであり、それ以外は丘であり日常の延長として行くような場所なのだ。この感覚の違いは、とても興味深かった。
シーズンオフの雨季も楽しい
ネパールには雨季と乾季があり、6〜9月は雨季である。 雨も多く、ヒマラヤが見えない日も多いため、外国人旅行者は雨季を避ける。もちろん、その気持ちはよくわかるし、実際、僕も移住する前は雨季にネパールを訪れたことはなかった。 でも、今回雨のネパールを歩いて、考えが少し変わった。 雨季の自然は、本当に美しい。森は深い緑になり、霧が流れ、雲海が現れる。渓谷や滝の水量も増え、苔も鮮やかになる。乾季とはまったく違う景色が広がる。しかも、観光客は少なく、ロッジ代も安い。ネパールの若者たちが、雨季でも楽しそうに歩いている理由が少しわかった気がした。 ネパールといえばヒマラヤを思い浮かべる人が多いが、この国の魅力はそれだけではない。ヒマラヤにこだわらないのであれば、ぜひ一度、雨季のネパールの自然を歩いてみてほしい。きっと、これまで知らなかったネパールに出会えるはずだ。 根津貴央(ねづたかひさ) ロングトレイルとハイキングが専門分野のライター。2012年にアメリカの『パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)』を歩く。2014年からは、仲間とともに『グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)』を踏査するプロジェクトを立ち上げ、毎年ヒマラヤに足を運ぶ。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS)がある。2025年4月にネパールへ移住。 @hikertrash_taka @ght_project
根津 貴央


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