Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/1891fc8a452d8c7058c898b5aff6f5d8b157d0b4
「子どもには自由に生きてほしい」と願う一方、親として反対したくなるような夢だったら、どうしますか? 親も子も安心して気持ちを話せる場「かぞくかいぎ」を通して、子どもと将来の夢を話し合い続けたという家族の実例を紹介します。 ※本稿は、玉居子泰子著『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』(白夜書房)を一部抜粋・再編集したものです。 ※いわゆる、会社で行なわれているような一般的な会議は「会議」と表記し、家族がフラットに意見を交わし合うことは「かぞくかいぎ」「かいぎ」と表記しています。
小さな夢を繰り返し問いかける
ワカイ一家はハワイ在住。父親のグレンさんは日系アメリカ人として育ち、現在はハワイ州の上院議員をしています。母親のミキさんは日本で生まれ育ち、15歳で単身、ハワイへ。ビジネスコンサルティング業を自営し、十数年前にグレンさんと出会い、子連れ結婚をしました。 娘、シエラさんは現在22歳。カリフォルニアの大学を卒業し、現在はハワイに戻って来ています。 ワカイ家のかぞくかいぎは、娘さんが3歳の頃から始まりました。 テーマは、「大きくなったら何になりたい?」 まず小さな夢を聞き、その夢を実現するために何ができるか繰り返し問いかけていたそうです。
娘の夢は「スパイ」
小学校高学年になった頃、シエラさんはかぞくかいぎで、将来の夢を「CIAに入ること」と設定しました。CIA、米国中央情報局です。 「そのために大学院にも行きたいし、外国語を複数勉強する」 「目指す大学や高校に入れるように、小学校からオールAの成績を取る」 と、次々と目標を設定していく娘さん。 実際、学校でも今まで以上に熱心に勉強や運動に取り組みました。 両親はそんな娘さんの姿に誇りを感じながらも、CIAと言う夢には、正直、戸惑いを抱いたと言います。 「え、スパイ? って、思いましたよ。危険だし……心配ですよね」と、ミキさんは当時を思い出して笑います。 スパイを目指す理由は「いろいろな国に行けて、みんなが知らないことを知れるから」というもの。親からすれば、「それ、スパイじゃなくてもできるでしょ……」と言いたくなりそうです。 しかし二人は、わが子の夢を決して否定しない、と決めていました。
子どもが夢中なときの親のNG行動
「親がすべきことは、子どもの道を決めることじゃなく、子どもが決めたゴールを全力でサポートすること」とグレンさん。 その言葉の通り、グレンさんはワシントンD.C.に出張に行くたびに国際スパイ博物館で頼まれた資料を買って帰り、中学生になった娘さんを連れて、CIAの講習会に一緒に参加するなど、全面的に応援する姿勢をとっていました。 「子どもがのめり込んでいるときに、反対するのは逆効果だから」です。
親の経験から何を伝える?
娘さんが中学生になってからも、朝食時や隙間時間に、ワカイ家は短いかぞくかいぎを行いました。 このころの主なテーマは、「仕事」。 子どもが自分で決めたことを、親は全力で応援するしかない、というお父さんですが、同時に、「セーフティネットを張ることも大切」と言います。 ここで言うセーフティネットとは、CIA以外にも、世の中にはいろいろな仕事があるよと、伝えることです。 まず二人は、自分たちの仕事や役割についてくわしく説明するようになり、時には、「あなたなら、こういうときどう考える?」と娘さんに意見を求めるようにしました。 父のグレンさんなら州議員としてハワイの人たちにどう貢献できるのか。今の地域の問題点は何か。 母のミキさんが、世界を飛び回りコンサルティングをしている理由は何か。自分たちと異なる生活をしている人と、どう助け合えるのか。 自分たちの仕事を伝えることで、娘さんの視野を広げようとしたのです。
世界観を広げる活動を
さらに、ワカイ夫妻は、仕事とは別に行なっていた、ハワイや太平洋諸国、アジアの途上地域をサポートするNPO事業や医療事業拡大のボランティア活動についても、娘さんに説明しました。そして、娘さんもそのボランティア活動に参加するようになります。 週に一度、10分のかぞくかいぎは、次第に、家族で行うプロジェクトかいぎに変わっていったと言います。 あるとき、両親が医療ボランティアでネパールに行くことになります。ネパールでは歯ブラシが不足し、虫歯で歯を失う子が多いことを知った娘さん。ネパールの子どもたちに歯ブラシを寄付したいと思いつき、かぞくかいぎにかけます。 どうやって寄付をする歯ブラシを集めるのか、ネパールのどこに届ければ多くの子に配布できるのか。 基本的に、娘さんが自分で考えたアイディアを報告させる姿勢を取りました。 「ある日娘が、地元で歯科医師会の会合があると知り、学校を休んで歯ブラシの寄付を募りに行きたいと言ったんです。娘が本気で関わろうとしているとわかったので、このときは私が連れて行きました」とお父さん。 娘さんは事前に作ったパンフレットを配り、医師たちに寄付を募ります。 最初は誰にも相手にされず泣き出してしまう場面もありましたが、諦めず交渉を続けていると、共感してくれる人が出始めました。 その後、娘さんは、見事3000本の歯ブラシ、フロス、歯磨き粉の寄付を取り付け、両親を通じて、ネパールの子どもたちに歯ブラシを届けることに成功しました。
親が面倒くさがってはいけない
ここまでのエピソード、グローバルでスケールが大きすぎて、簡単にマネできないことは否めません! でも、州の上院議員でなくても経営者でなくても、親が取り組んでいる仕事や価値観を伝えることはできるはず。親が仕事関係で出会った人たちの多様な生き方を伝えることはできるし、PTA活動などで地域の人とつながる意味を子どもと一緒に考えることはできます。 もし、子どもがネパールに寄付をしたいと言えば、どういう方法で寄付をすれば、一番効果的かを一緒に調べて話し合うことはできます。大切なのは、一緒に話し合い、考え、子どもの行動を応援する。その労力を厭わないことなのです。
「夢は結局何でもよかった」
両親の仕事やボランティア活動についての思いを知り、自分も地域の人たちとつながってプロジェクトを行うようになり、娘さんの目標も変化してきました。 スパイの夢は、いつしか口にしなくなり、代わりに、「人の役に立ちたい」と言うようになっていきます。それは具体的に「医師」という夢になり、娘さんはまた、人生プランを書き換えました。 こう聞くと、きっと「もともと両親が立派な仕事をしているからうまくいったんだ」「医師を目指してくれたら親は満足だろう」などと感じる人がいるかもしれません。 でも、両親は、この先医師になる夢が途中で頓挫したとしても、別にかまわないと言います。理由は、どんな道を進んでも、娘が娘らしく生きていけることがわかっているから。 「結局、スパイでも医師でもなんでも良かったのだと気づいたんです」。 ただ、自分が立てたゴールに向かって行動できる人になってほしい。 自分の夢のために、明日やるべき目標を見つけてほしい。 それを伝えたくて、かぞくかいぎをしてきたのだ、と二人は話してくれました。 【プロフィール】 玉居子泰子(たまいこ・やすこ) 1979年、大阪生まれ。出版社勤務を経て、フリーランスの編集・ライターに。育児・教育雑誌『AERA with Baby』の編集・執筆に携わり、また、妊娠・出産、子育て、仕事、福祉などをテーマに、多様な媒体で記事を執筆。2015年頃、自身の家族との対話を見直したのをきっかけに、様々な家族の家族会議を取材し始め、本書のもととなった「家族会議のすすめ」(東洋経済オンライン)を執筆。さらに、関連記事も『AERA with Kids』、日経DUALなどに多数寄稿。NHK『おはよう日本』に出演するなど、その家族会議の様子が注目を集めている。ワークショップも実施中。二児の母。
玉居子泰子(たまいこ・やすこ)