8月21日(金)
Source:Wedge
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最近のロシアと中国の関係深化は、ウクライナ危機によるロシアの国際的孤立とロシアの外交的なアジアシフトもあって、特に顕著となっている(拙稿「効果に乏しい欧米の対露制裁 拍車をかける中国 中国主導のAIIBに参加するロシア(2015年04月09日)」、「ロシアの戦勝70周年記念日 したたかな習近平と親欧米国にとどまらないロシア離れ(2015年05月11日)」も参照されたい)。
効果に乏しい欧米の対露制裁 拍車をかける中国 中国主導のAIIBに参加するロシア
実際は、ロシア・中国双方が相互に不信感を持っており、勢力圏争いを繰り広げるなど、両国の関係は決して単純に良好であるとは言えないものであるが、少なくとも対米戦略、グローバル戦略ではかなり利害を一にしている。
そのような中で、ロシアのウファで、7月8-9日に第7回BRICS首脳会議と、同9-10日に第15回上海協力機構(SCO)首脳会議が開催された。この両会議を主導するのはロシアと中国であり、この会議が持つ意味は、ロシア・中国という二国間レベルに止まらず、地域的、ひいては国際的なレベルにおいても極めて大きかった。開催から一ヶ月以上が過ぎたが、改めて俯瞰的に両会議の意味をとらえていきたい。
効果に乏しい欧米の対露制裁 拍車をかける中国 中国主導のAIIBに参加するロシア
実際は、ロシア・中国双方が相互に不信感を持っており、勢力圏争いを繰り広げるなど、両国の関係は決して単純に良好であるとは言えないものであるが、少なくとも対米戦略、グローバル戦略ではかなり利害を一にしている。
そのような中で、ロシアのウファで、7月8-9日に第7回BRICS首脳会議と、同9-10日に第15回上海協力機構(SCO)首脳会議が開催された。この両会議を主導するのはロシアと中国であり、この会議が持つ意味は、ロシア・中国という二国間レベルに止まらず、地域的、ひいては国際的なレベルにおいても極めて大きかった。開催から一ヶ月以上が過ぎたが、改めて俯瞰的に両会議の意味をとらえていきたい。
BRICSと上海協力機構(SCO)とは
まず、BRICSとSCOについて簡単に整理しておこう。両者誕生の経緯は全く異なるが、ロシアと中国が主導しているということ、結果的に米国が主導する世界に対抗する性格を持つこと、徐々に拡大をしてきたという共通点を持つ。
BRICSの前身であるBRICsは経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取り、投資銀行ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール執筆の2001年11月30日の投資家向けレポート『Building Better Global Economic BRICs』で初めて用いられた。当初は完全に部外者が恣意的に名付けた枠組みであり、特にロシアはBRICsという枠組みに強く反発したものの、米国一極支配に対抗する一つの手段とすべくそれを利用することになり、2009年6月16日にエカテリンブルグで初サミットを開催した。
以後サミットが定期的に開催されている。2011年4月13 日に北京でのサミットに南アフリカ共和国が招待され、BRICsはBRICSに拡大し、この頃から中国のBRICSにおけるロシアに対抗する動きが目立つようになっている。5カ国の総人口は世界の40%を超す約30億人、国内総生産(GDP)の合計は世界の約20%とされ、世界における影響力を強めている(図1参照)。
他方、上海協力機構は完全に主体的に生まれたものである。1996年4月に、中ロと中央アジアの3カ国(カザフスタン、タジキスタン、キルギス)が安全保障、経済、文化など多面的な地域協力を推進するために「上海ファイブ」を結成し、2001年6月にはウズベキスタンも加わって、上海協力機構(SCO)として拡大・改組し、さらなる関係強化を続けているという状況だ。事務局は北京にあり、モンゴル、イラン、インド、パキスタン、 アフガニスタンが準加盟国となっていて、インドとパキスタンの正式加盟プロセスが進んできただけでなく、イランもイランの国際問題の解決状況次第で実質的な加盟プロセスに入ると見られてきた。
だが、上述のように中ロ関係は単純ではなく、近年のBRICSやSCOの会合では、関係強化の一方で牽制し合うというような傾向が見て取れた。「蜜月」とも言われる関係を「一見」作り上げている一方で、彼らは相互不信に満ち溢れ、特に地域をめぐる覇権闘争では熾烈な争いを見せている。中国はかつてのシルクロード(陸)と海洋に勢力圏を広げようと「一帯一路」のスローガンの下、拡張態勢を強めている一方、ロシアは自国の「勢力圏」に中国が侵食してくることを忌み嫌い、非常に警戒しながら、実際に度々やんわりと中国を牽制してきた。
BRICSの前身であるBRICsは経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を取り、投資銀行ゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール執筆の2001年11月30日の投資家向けレポート『Building Better Global Economic BRICs』で初めて用いられた。当初は完全に部外者が恣意的に名付けた枠組みであり、特にロシアはBRICsという枠組みに強く反発したものの、米国一極支配に対抗する一つの手段とすべくそれを利用することになり、2009年6月16日にエカテリンブルグで初サミットを開催した。
以後サミットが定期的に開催されている。2011年4月13 日に北京でのサミットに南アフリカ共和国が招待され、BRICsはBRICSに拡大し、この頃から中国のBRICSにおけるロシアに対抗する動きが目立つようになっている。5カ国の総人口は世界の40%を超す約30億人、国内総生産(GDP)の合計は世界の約20%とされ、世界における影響力を強めている(図1参照)。
他方、上海協力機構は完全に主体的に生まれたものである。1996年4月に、中ロと中央アジアの3カ国(カザフスタン、タジキスタン、キルギス)が安全保障、経済、文化など多面的な地域協力を推進するために「上海ファイブ」を結成し、2001年6月にはウズベキスタンも加わって、上海協力機構(SCO)として拡大・改組し、さらなる関係強化を続けているという状況だ。事務局は北京にあり、モンゴル、イラン、インド、パキスタン、 アフガニスタンが準加盟国となっていて、インドとパキスタンの正式加盟プロセスが進んできただけでなく、イランもイランの国際問題の解決状況次第で実質的な加盟プロセスに入ると見られてきた。
だが、上述のように中ロ関係は単純ではなく、近年のBRICSやSCOの会合では、関係強化の一方で牽制し合うというような傾向が見て取れた。「蜜月」とも言われる関係を「一見」作り上げている一方で、彼らは相互不信に満ち溢れ、特に地域をめぐる覇権闘争では熾烈な争いを見せている。中国はかつてのシルクロード(陸)と海洋に勢力圏を広げようと「一帯一路」のスローガンの下、拡張態勢を強めている一方、ロシアは自国の「勢力圏」に中国が侵食してくることを忌み嫌い、非常に警戒しながら、実際に度々やんわりと中国を牽制してきた。
7月にウファでBRICSとSCOサミット
そんな中で開催されたのが、ロシアのウファにおける両サミットだ。ウファは、ロシア連邦中央部に位置するバシコルトスタン共和国の首都であり、ロシアにおけるムスリムの主要都市でもある。
両会議は、第二次世界大戦後の世界の経済体制であったブレトン=ウッズ体制とドル基軸体制に実質的な最後のとどめを刺したとも言われる。上述のように、BRICSとSCOの首脳会談は、続けて7月8日から10日まで開催されていたが、ブレトン=ウッズ会議は1944年に7月1日から22日までの3週間にわたって開催されており、ちょうど71年前に構築された体制の限界を露呈した形だ。
ブレトン=ウッズ体制は、国際貿易の自由化と経済成長、雇用促進を目的として創設されたIMF、世界銀行、GATT(WTOの前身)を軸とする国際経済体制であり、固定為替相場制を基礎とするIMF中心の国際通貨体制を指すことも多い。実際には、1971年8月にニクソン米大統領がドルの金交換性を停止し(ニクソン・ショック)、1973年には完全に変動相場制に移行したことから、ブレトン=ウッズ体制は完全に崩壊したと見る向きがある一方、依然として米ドルが世界の貿易の基軸通貨となっていることやIMF、世銀、WTOが世界経済の基軸となっていることから、ブレトン=ウッズ体制は実質的には残存しているという見方もあった。
だが、後者の見方も近年では根拠が揺らいできていた。なぜなら、ドルが貿易の基軸通貨だとはいっても、それに反発する国が増え、実質的にドルを使わないで取引をする国も増えてきているからだ。(参考:『グローバル貿易で米ドルを拒否』(2015年5月5日 スプートニク.jp))
しかも、かつては世界の経済を支えてきたのは、いわゆる「G7」(のち、ロシアが入って「G8」)諸国であったが、2008年頃からG8(G7)と並行してG20会議が開催されるようになり、世界の富の90%がG20に集中していることから、もはや世界の経済状況はG20抜きでは考えられなくなってきていた。
加えて、このBRICS、SCOの会議が米国の凋落とブレトン=ウッズ体制の終焉にとどめを刺したという分析をする評論家が少なくない。
以下では、両会議の成果を概観し、その後、その成果の意味を考えていこう。
両会議は、第二次世界大戦後の世界の経済体制であったブレトン=ウッズ体制とドル基軸体制に実質的な最後のとどめを刺したとも言われる。上述のように、BRICSとSCOの首脳会談は、続けて7月8日から10日まで開催されていたが、ブレトン=ウッズ会議は1944年に7月1日から22日までの3週間にわたって開催されており、ちょうど71年前に構築された体制の限界を露呈した形だ。
ブレトン=ウッズ体制は、国際貿易の自由化と経済成長、雇用促進を目的として創設されたIMF、世界銀行、GATT(WTOの前身)を軸とする国際経済体制であり、固定為替相場制を基礎とするIMF中心の国際通貨体制を指すことも多い。実際には、1971年8月にニクソン米大統領がドルの金交換性を停止し(ニクソン・ショック)、1973年には完全に変動相場制に移行したことから、ブレトン=ウッズ体制は完全に崩壊したと見る向きがある一方、依然として米ドルが世界の貿易の基軸通貨となっていることやIMF、世銀、WTOが世界経済の基軸となっていることから、ブレトン=ウッズ体制は実質的には残存しているという見方もあった。
だが、後者の見方も近年では根拠が揺らいできていた。なぜなら、ドルが貿易の基軸通貨だとはいっても、それに反発する国が増え、実質的にドルを使わないで取引をする国も増えてきているからだ。(参考:『グローバル貿易で米ドルを拒否』(2015年5月5日 スプートニク.jp))
しかも、かつては世界の経済を支えてきたのは、いわゆる「G7」(のち、ロシアが入って「G8」)諸国であったが、2008年頃からG8(G7)と並行してG20会議が開催されるようになり、世界の富の90%がG20に集中していることから、もはや世界の経済状況はG20抜きでは考えられなくなってきていた。
加えて、このBRICS、SCOの会議が米国の凋落とブレトン=ウッズ体制の終焉にとどめを刺したという分析をする評論家が少なくない。
以下では、両会議の成果を概観し、その後、その成果の意味を考えていこう。
BRICS会議
BRICS会議には、正規メンバー首脳として、中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領、ブラジルのルセフ大統領、インドのモディ首相、南アフリカのズマ大統領が出席した他、アルメニアのサルキシャン大統領、アフガニスタンのガニー大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領、イランのロウハーニー大統領、カザフスタンのナザルバエフ大統領、モンゴル国のエルベグドルジ大統領、パキスタンのシャリフ首相、タジキスタンのラフモン大統領、ウズベキスタンのカリモフ大統領、そしてユーラシア経済連合(EEU)加盟国、上海協力機構(SCO)の加盟国が招待されて出席した。
会議のまとめとして、43ページから成り、77種類の内容を網羅したウファ宣言が出された。特筆すべき内容は、まず米国が2010年の国際通貨基金(IMF)の改革計画を批准しなかったことを批判したことであろう。 IMFの機能不全を批判する一方、活動が本格化し始めたBRICSの新開発銀行(NDB)(2015年7月7日にBRICS開発銀行がモスクワで初の理事会会議を開き、インドのK・V・カマト氏が初代総裁に就任(任期5年)と、中国が主導しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)がIMF、ならびに日米が主導するアジア開発銀行(ADB)に取って代わり、世界経済を主導するという宣戦布告と考えてよいだろう。
また、多項目の協力合意を達成し、たとえば具体的な提案として、NDBが2016年初頭に第1期投資プロジェクトを確定し、既存および新規の金融機関との連携に関する提案を歓迎するとした。中国の習近平主席も、四つのパートナーシップ、すなわち、「世界平和の維持/共同発展の促進/多元的文明の発揚/グローバル経済ガバナンスの強化を実現するためのパートナーシップ」を構築し、共に素晴らしい未来を想像するべきだと主張している。
そして、特に強調されたのが、エネルギーや製造業における多くの協力成果である。たとえば、ロシアのシルアノフ財務相は、中国の投資家が今年すでに500~600億ルーブルの債券を購入しており、中国の対露投資の拡大趨勢の継続も発表した。加えて、NDBがAIIBと提携し、IMFに見落とされてきた地域をすくい上げる救世主となることにも期待が寄せられた。加えて、このような趨勢が欧米による対露制裁を無意味化するという見解も持たれている。実際、西側の研究者の中にも、これらの動きを評価し、世界の経済の中心が西半球から東半球に移行していくという見解を持つものもいる。
そして、これら経済構想は政治構想ともリンクしており、ロシアが主導するユーラシア連合、中国が進める一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)構想を共存共栄させるために、NDBとAIIBはもちろん、BRICS基金、シルクロード基金などもすべて総動員して地域の活性化はもちろん、グローバルな政治経済の改革を進めることでも協力が合意された。
BRICS当局者たちは、BRICSを多極化した世界の新しい中心、より民主的な国際関係の新体制の象徴であると位置付けている。
会議のまとめとして、43ページから成り、77種類の内容を網羅したウファ宣言が出された。特筆すべき内容は、まず米国が2010年の国際通貨基金(IMF)の改革計画を批准しなかったことを批判したことであろう。 IMFの機能不全を批判する一方、活動が本格化し始めたBRICSの新開発銀行(NDB)(2015年7月7日にBRICS開発銀行がモスクワで初の理事会会議を開き、インドのK・V・カマト氏が初代総裁に就任(任期5年)と、中国が主導しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)がIMF、ならびに日米が主導するアジア開発銀行(ADB)に取って代わり、世界経済を主導するという宣戦布告と考えてよいだろう。
また、多項目の協力合意を達成し、たとえば具体的な提案として、NDBが2016年初頭に第1期投資プロジェクトを確定し、既存および新規の金融機関との連携に関する提案を歓迎するとした。中国の習近平主席も、四つのパートナーシップ、すなわち、「世界平和の維持/共同発展の促進/多元的文明の発揚/グローバル経済ガバナンスの強化を実現するためのパートナーシップ」を構築し、共に素晴らしい未来を想像するべきだと主張している。
そして、特に強調されたのが、エネルギーや製造業における多くの協力成果である。たとえば、ロシアのシルアノフ財務相は、中国の投資家が今年すでに500~600億ルーブルの債券を購入しており、中国の対露投資の拡大趨勢の継続も発表した。加えて、NDBがAIIBと提携し、IMFに見落とされてきた地域をすくい上げる救世主となることにも期待が寄せられた。加えて、このような趨勢が欧米による対露制裁を無意味化するという見解も持たれている。実際、西側の研究者の中にも、これらの動きを評価し、世界の経済の中心が西半球から東半球に移行していくという見解を持つものもいる。
そして、これら経済構想は政治構想ともリンクしており、ロシアが主導するユーラシア連合、中国が進める一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)構想を共存共栄させるために、NDBとAIIBはもちろん、BRICS基金、シルクロード基金などもすべて総動員して地域の活性化はもちろん、グローバルな政治経済の改革を進めることでも協力が合意された。
BRICS当局者たちは、BRICSを多極化した世界の新しい中心、より民主的な国際関係の新体制の象徴であると位置付けている。
SCO会議
BRICS首脳会議に続き、SCO首脳理事会が10日に開催された。SCO加盟国の全大統領、すなわち中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領、カザフスタンのナザルバエフ大統領、キルギスタンのアタンバエフ大統領、タジキスタンのラフモン大統領、ウズベキスタンのカリモフ大統領の他、アルメニアのサルキシャン大統領、アフガニスタンのガニー大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領、イランのロウハーニー大統領、モンゴル国のエルベグドルジ大統領、パキスタンのシャリフ首相、そしてユーラシア経済連合(EEU)加盟国が招待されて参加し、活発な議論が繰り広げられた。
SCOでもウファ宣言が出されたが、特に注目すべき内容を以下に記す。
世界が複雑化、多極化する中で、SCOの協力関係を強化し、テロリズム、過激主義、分裂主義への対策を強化し、伝統的・非伝統的な脅威と共闘して総合的な安全を構築していくことで合意した。中国が主導する「一帯一路」、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合(EEU)」を有機的に結合し、NDB、BRICS基金、AIIB、シルクロード基金を活用しながら、ユーラシア大陸全域にインフラ建設を促進し、経済発展・貿易投資を促し、物流、情報通信といった分野のインフラを整え、工業、交通、通信、農業、イノベーション協力を促し、文化、科学技術、衛生、観光、スポーツといった分野での協力を深めることで合意した。ウクライナの平和に向けての強調についても議論がなされた。
そして、準加盟国インド、パキスタン両国の新規加盟手続きを開始することが決議された一方、同じく準加盟国イランについては、国連常任理事会が制裁を解除した際に、直ちに正式加盟となることも決められ、国連に対してはイラン核協議の早期の最終合意を呼び掛けた。さらに、ベラルーシが準加盟国となったほか、新規にアゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパールが対話パートナー国となり、SCOの拡大がさらに顕著となった。
ここで重要なのはベラルーシなど、旧ソ連諸国のSCO加盟数が増えることである。上述の通り、中国とロシアは既述のように、グローバルレベルでは利害をかなりの部分共有できるものの、SCO、BRICS内では熾烈な勢力争いを繰り広げている。そのような中でのベラルーシなどの新規加盟は、旧ソ連構成国を増やしSCOの「中国色」を弱めたいロシアにとって極めて望ましいことであり、それにより、SCOでの主導権を維持していきたいと考えているのである。
加えて、インドとパキスタンがSCOに正式に加盟することは、SCOが「平和と安定のブローカー」であることもアピールできる。インドとパキスタンは緊張関係にあった。そして、SCOへの両国の加盟は数年前から議論されていたことだったが、ロシアがインドの加盟を推進する一方、中国がパキスタンの加盟を主張し、対立する二国の加盟は難しいと考えられていたが、結局、両国同時加盟ということになり、SCOが平和構築の良き前例を残せたと考えられているのである。
そして、対ファシズム戦争および第二次世界大戦の戦勝70周年に関する共同声明も出され、戦勝に関わった人々への敬意を表明すると共に、戦後の歴史認識の歪曲・改ざんに強く反対することも強調された。なお、中国とロシアは、第二次世界大戦後のアジアの平和は中国とロシアによって構築されてきたという主張を共有してきた。
SCOでもウファ宣言が出されたが、特に注目すべき内容を以下に記す。
世界が複雑化、多極化する中で、SCOの協力関係を強化し、テロリズム、過激主義、分裂主義への対策を強化し、伝統的・非伝統的な脅威と共闘して総合的な安全を構築していくことで合意した。中国が主導する「一帯一路」、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合(EEU)」を有機的に結合し、NDB、BRICS基金、AIIB、シルクロード基金を活用しながら、ユーラシア大陸全域にインフラ建設を促進し、経済発展・貿易投資を促し、物流、情報通信といった分野のインフラを整え、工業、交通、通信、農業、イノベーション協力を促し、文化、科学技術、衛生、観光、スポーツといった分野での協力を深めることで合意した。ウクライナの平和に向けての強調についても議論がなされた。
そして、準加盟国インド、パキスタン両国の新規加盟手続きを開始することが決議された一方、同じく準加盟国イランについては、国連常任理事会が制裁を解除した際に、直ちに正式加盟となることも決められ、国連に対してはイラン核協議の早期の最終合意を呼び掛けた。さらに、ベラルーシが準加盟国となったほか、新規にアゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパールが対話パートナー国となり、SCOの拡大がさらに顕著となった。
ここで重要なのはベラルーシなど、旧ソ連諸国のSCO加盟数が増えることである。上述の通り、中国とロシアは既述のように、グローバルレベルでは利害をかなりの部分共有できるものの、SCO、BRICS内では熾烈な勢力争いを繰り広げている。そのような中でのベラルーシなどの新規加盟は、旧ソ連構成国を増やしSCOの「中国色」を弱めたいロシアにとって極めて望ましいことであり、それにより、SCOでの主導権を維持していきたいと考えているのである。
加えて、インドとパキスタンがSCOに正式に加盟することは、SCOが「平和と安定のブローカー」であることもアピールできる。インドとパキスタンは緊張関係にあった。そして、SCOへの両国の加盟は数年前から議論されていたことだったが、ロシアがインドの加盟を推進する一方、中国がパキスタンの加盟を主張し、対立する二国の加盟は難しいと考えられていたが、結局、両国同時加盟ということになり、SCOが平和構築の良き前例を残せたと考えられているのである。
そして、対ファシズム戦争および第二次世界大戦の戦勝70周年に関する共同声明も出され、戦勝に関わった人々への敬意を表明すると共に、戦後の歴史認識の歪曲・改ざんに強く反対することも強調された。なお、中国とロシアは、第二次世界大戦後のアジアの平和は中国とロシアによって構築されてきたという主張を共有してきた。
BRICS・SCOサミットの意義
以上、BRICS・SCO両サミットの主な成果をまとめたが、その意義を分析していきたい。
まず、改めて中露の関係強化と中国とロシアが主導する一帯一路とユーラシア連合の試みの共存共栄が強く謳われたことに注目すべきであろう。しかも、両計画に関わる中央アジア諸国やインド、パキスタンなどもそれに賛同していることの意義も大きい。
また、SCOの拡大傾向が顕著であることである。正式加盟だけ考えても、インドとパキスタンとイランが正式加盟するとSCO諸国の人口は地球人口の42%、購買力平価GDPでG7の85%に達する規模になる。さらに、その拡大されたSCO加盟国に、BRICS加盟国のブラジルと南アフリカを加えるとG7よりも大きい連合体になるだけでなく、地理的分布も極めて広くなることにも注目すべきだろう。
そして、すでに領土、人口、経済のレベルで世界の中でかなり大きい位置を占め、さらなる拡大を進めているSCO、BRICSが欧米を基軸とした世界システムに代わる国際政治・経済秩序を生み出していることをアピールした。
加えて、インドとパキスタンがSCOに正式に加盟することは、SCOが「平和と安定のブローカー」であることをもアピールできる。インドとパキスタンは緊張関係にあった。そして、SCOへの両国の加盟は数年前から議論されていたことだったが、ロシアがインドの加盟を推進する一方、中国がパキスタンの加盟を主張し、対立する二国の加盟は難しいと考えられていたが、結局、両国同時加盟ということになり、SCOが平和構築の良き前例を残せたと考えられているのである。さらにテロ・過激主義・分離主義との戦いについてもその強い姿勢を示すことで、SCOが世界の平和を守る上で、中心的な役割を果たす意欲を表明したと言える。
だが、日本にとっては頭の痛い問題もある。特に、第二次世界大戦に関する歴史認識問題と、70周年記念行事でのSCO諸国の協力である。これにより9月に中国で行われる戦勝70周年記念行事では、ロシアを筆頭にSCO諸国が参加することになっている。SCO・BRICSは新たな世界の経済秩序の中心主体となり、政治的な発言力も強くなってきている一方、日本にとっては、領土問題をはじめとした主要外交問題で、SCOの存在がより厄介な存在になりうるのである。
このように、ウファで行われた両サミットからは、中露の世界における影響力の拡大、そしてBRICSとSCOが世界の新たな中心になるべくして拡大、強化されている様子がうかがえる。とはいえ、欧米のシステムに取って代わると確信しているのは、SCOとBRICSの当事者だけであり、客観的に考えれば、中露を中心とするシステムが世界を席巻すると考えるのはまだ早いかもしれない。
ロシアはウクライナ危機に関する制裁や石油価格の暴落で2014年から厳しい経済状況を強いられており、また、中国でも元の切り下げや成長鈍化の趨勢などが見られる中で、中露が勢いをどこまで維持できるのかということは断言しづらい。とはいえ、日本の外交にも深い影響を持つであろうことは間違いない。このSCOとBRICSの動きを注意深く見つめていく必要があるだろう。
まず、改めて中露の関係強化と中国とロシアが主導する一帯一路とユーラシア連合の試みの共存共栄が強く謳われたことに注目すべきであろう。しかも、両計画に関わる中央アジア諸国やインド、パキスタンなどもそれに賛同していることの意義も大きい。
また、SCOの拡大傾向が顕著であることである。正式加盟だけ考えても、インドとパキスタンとイランが正式加盟するとSCO諸国の人口は地球人口の42%、購買力平価GDPでG7の85%に達する規模になる。さらに、その拡大されたSCO加盟国に、BRICS加盟国のブラジルと南アフリカを加えるとG7よりも大きい連合体になるだけでなく、地理的分布も極めて広くなることにも注目すべきだろう。
そして、すでに領土、人口、経済のレベルで世界の中でかなり大きい位置を占め、さらなる拡大を進めているSCO、BRICSが欧米を基軸とした世界システムに代わる国際政治・経済秩序を生み出していることをアピールした。
加えて、インドとパキスタンがSCOに正式に加盟することは、SCOが「平和と安定のブローカー」であることをもアピールできる。インドとパキスタンは緊張関係にあった。そして、SCOへの両国の加盟は数年前から議論されていたことだったが、ロシアがインドの加盟を推進する一方、中国がパキスタンの加盟を主張し、対立する二国の加盟は難しいと考えられていたが、結局、両国同時加盟ということになり、SCOが平和構築の良き前例を残せたと考えられているのである。さらにテロ・過激主義・分離主義との戦いについてもその強い姿勢を示すことで、SCOが世界の平和を守る上で、中心的な役割を果たす意欲を表明したと言える。
だが、日本にとっては頭の痛い問題もある。特に、第二次世界大戦に関する歴史認識問題と、70周年記念行事でのSCO諸国の協力である。これにより9月に中国で行われる戦勝70周年記念行事では、ロシアを筆頭にSCO諸国が参加することになっている。SCO・BRICSは新たな世界の経済秩序の中心主体となり、政治的な発言力も強くなってきている一方、日本にとっては、領土問題をはじめとした主要外交問題で、SCOの存在がより厄介な存在になりうるのである。
このように、ウファで行われた両サミットからは、中露の世界における影響力の拡大、そしてBRICSとSCOが世界の新たな中心になるべくして拡大、強化されている様子がうかがえる。とはいえ、欧米のシステムに取って代わると確信しているのは、SCOとBRICSの当事者だけであり、客観的に考えれば、中露を中心とするシステムが世界を席巻すると考えるのはまだ早いかもしれない。
ロシアはウクライナ危機に関する制裁や石油価格の暴落で2014年から厳しい経済状況を強いられており、また、中国でも元の切り下げや成長鈍化の趨勢などが見られる中で、中露が勢いをどこまで維持できるのかということは断言しづらい。とはいえ、日本の外交にも深い影響を持つであろうことは間違いない。このSCOとBRICSの動きを注意深く見つめていく必要があるだろう。
廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)
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