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カレーの本場といえばインド、というイメージが日本で定着している。しかし、インドにはもともと「カレー」という料理はなく、西洋を経て逆輸入された外来語だという。一体どういうことなのか。インド料理調査会著、アジアハンター代表・小林真樹さん監修『一度ハマると抜け出せない インド料理の歩き方』(三笠書房)より紹介する――。
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■もともとインドに「カレー」はなかった
カレーの本場といえば、インドです。にもかかわらず、もともとインドには「カレー」と呼ばれる料理はありませんでした。インド人にとって「カレー」は、外国人が名付けた外来語だからです。
カレーの語源になったとされるのが、もともと南インドの「香辛料を用いた炒め物」といった意味合いで使われていた「カリ(kari)」という言葉です。
それを、イギリス人より先にインドへ入植していたポルトガル人が言葉として取り込み、その後英語にも取り込まれて「curry」という言葉になったといわれます。
やがてcurryは主にアジア・中東・アフリカ圏発祥の、香辛料で味付けされた料理を指す呼び方として、広く定着しました。
■それぞれ固有の名前で呼ばれる料理たち
とはいえ、もちろんインドではカレーという語が生まれるはるか前から、“カレー的な料理”は存在していました。そうした料理は、どう呼ばれてきたのでしょうか。
インドでは、スパイスを使ったおかず料理は、それぞれ固有の名前で呼ばれます。
たとえば「コランブ」(汁気のある煮込み)、「ワルワル」(揚げ炒め)、「コルマ」(ヨーグルトやナッツを使ったまろやかな煮込み)、「ヴィンダルー」(酢や唐辛子が効いた煮込み)などです。そうした固有の料理名が無数にあり、今なおインドでは、そうした名前が日常的に使われています。
■外国からインドへ逆輸入された言葉
かといって、インドでカレーという呼称が使われないわけでもありません。むしろ、外国から“逆輸入”された言葉でありつつ、カレーはカレーで定着しています。
外国人に向けて使う言葉としてはもちろん、インド人の間で使う言葉としても重宝されているのです。その理由は、単純に便利だからでしょう。
たとえば、レストランのお客が外国人であったり、インド人客でも他の地域出身であったりした場合、コランブやワルワルでは意味が通じない可能性があります。
それをいちいち説明しなくても済むよう、ひとまずはカレーという語を使いながら大まかに意味を伝えるのです。
実際にインド人をメインターゲットにしたレストランでも、「チキンカレー」「マトンカレー」など、カレーという表記が付いていることが珍しくありません。
したがって、そもそもインドに「カレー」はあるのかという問いに対しては、かつては存在しなかったものの、現在はインドにもカレーが存在するというのが一つの解になるでしょう。
■「インド料理は激辛」は本当か
インド人は辛いものが大好きで、本場のインド料理はかなり辛い――。そんなイメージを持つ人も多いかもしれませんが、実際のところは、どうなのでしょう?
確かにインド料理は、チリ(唐辛子)を使う頻度が日本料理などに比べればかなり高く、辛いものが好きな人も、日本人よりインド人のほうが多いかもしれません。
現地には、たとえば南部アーンドラ・プラデーシュ州のドライタイプの鶏肉炒め「チキン・ヴェプドゥ」や、西部マハーラーシュトラ州の名物「マトン・コールハープリー」など、かなり辛い料理、あるいは辛さをウリにした料理も実際にあります。
とはいえ、決して現地のインド料理が全般的にすごく辛いわけではなく、むしろそうした激辛料理は全体の一部で、多くは一般的な日本人が耐えうるレベルの辛さである印象です。またインド人であっても当然、赤ん坊の頃から辛いものを食べているわけではなく、辛いものがあまり得意ではないというインド人もいます。
■甘いものや酸っぱいものもある
それを踏まえると、「本場のインドカレーは辛い」というイメージが、日本人の間で少し独り歩きしているのかもしれません。確かにスパイスの香りを色濃く感じられるものは多いかもしれませんが、スパイスには辛さのないものも多く、スパイシーだからといって必ずしも辛いわけではありません。
そしてインドでは、辛いものだけでなく、たとえばグジャラート州や西ベンガル州などをはじめ、しっかり甘みを効かせたカレーやおかず類もあります。甘さでいえば、グラブジャムンをはじめとする、強烈な甘さのインドスイーツもおなじみです。
また、マメ科の果実タマリンドや、乾燥マンゴーをパウダーにしたアムチュール、ヨーグルトなどの食材で酸味を強く効かせた料理も数多くあります。
それを踏まえると、インド料理はとにかく辛いというよりも、さまざまな味と香りで「刺激」をしっかり効かせた料理というほうが、適切かもしれません。
■日本で独自進化を遂げた「辛さ調整の仕組み」
辛さに話を戻すと、インドでは料理を注文する際に辛さのレベルを選べるシステムが基本的になく、辛くしたい場合は青唐辛子をかじったり、辛いチャトニを加えたりして調整することが一般的です。
対して日本の多くのインネパ店(ネパール人経営のインド料理店)では、辛さが1・甘口、2・中辛、3・辛口、4・激辛などと4段階くらいで選べることが多いです。またカレー専門店の中には、辛さを1〜70などとかなり細かく指定できるところもあります。
このように辛さを細かく調整できる仕組みは、日本で独自進化を遂げたもので、まさにインド人もびっくりな文化ではないでしょうか。そこにも、辛ければ辛いほど本場といった日本人の中でのイメージが、少なからず関係している気がします。
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インド料理調査会(いんどりょうりちょうさかい)
インド、ネパールなどのインド亜大陸料理をこよなく愛するライター、編集者などがもっとその魅力を広めたいというところからスタートしたユニット。知れば知るほど知らないところが出てくる奥深きインド亜大陸の食文化を研究、調査することが趣味。
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小林 真樹(こばやし・まさき)
アジアハンター代表
インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とするアジアハンター代表。1990年頃からインド渡航開始。インド亜大陸の食文化が最大の関心事で、食器の仕入を兼ねてインド亜大陸各地を、営業を兼ねて日本全国各地を、それぞれくまなく食べ歩く。著書に『日本の中のインド亜大陸食紀行』『食べ歩くインド 増補改訂版』(以上、阿佐ヶ谷書院)、『インドの台所』(作品社)などがある。
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インド料理調査会、アジアハンター代表 小林 真樹

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