Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f1a829f6761a69b4df6b32e97338c0b2be20d276
ウクライナ戦争にイラン戦争──近年も各地で争いが起き、多くの尊い命が奪われている。しかし戦火のなかにも確かに生きる人がいて、人間としての日々が営まれている。
【写真を見る】巡回する米兵や、バグダッドで誘われている娼婦たちの様子
2003年に始まったイラク戦争でもそうだった。サダム・フセイン政権が倒れた後も、首都バグダッドは反米武装勢力と米軍がにらみ合う最前線となり、街のあちこちに検問所が置かれた。
そんな厳戒態勢の街で、ある奇妙な光景が見られた。米兵が固める検問所の中で、タンクトップにホットパンツという姿の若いイラク人女性2人が、兵士と親しげに話していたというのだ。
兵舎での性行為は禁じられ、半年から1年間を禁欲的な環境で過ごさなければならないはずの米兵たち。実は、彼らには抜け穴があった──。
2019年に出版されたノンフィクション作家・八木澤高明さんの著書『娼婦たちは見た イラク、ネパール、中国、韓国』(角川新書、親本の単行本は2016年に刊行)より、一部抜粋して再構成する。【全4回の1回目】
ホットパンツにタンクトップの女たち
パレスチナホテルを訪ねるため、再び米兵による検問の前まで来ると、1台の装甲車が検問所の脇に止まっていた。その装甲車の前で、2人の米兵とピンクのタンクトップにホットパンツをはいた若いイラク人の女2人が親しげに話していた。
バンコクの路上で春を売る女たちのように、肌をもろに露出した格好に驚かずにはいられなかった。彼女らと米兵が話していたのは検問所の中だったが、どう見ても女たちは米軍の関係者には見えなかった。
バグダッドで見かけた女性たちの中には、ジーパン姿で歩く女性たちも少なくなかったが、ホットパンツにタンクトップ姿の女性を見たのは初めてのことだった。
ジアッド(イラク現地の通訳)の方に目をやると、女たちの存在には気がついていたようだが、気にも留めていないようで、いつもと変わらぬ表情をしているように思えた。私にはどうしてもあの女たちが娼婦以外の何者にも見えなかった。
「あの女たちは何者なんだい?」
「売春婦だよ」
ジアッドは言うまでもないだろうという表情で言った。彼女たちは、米兵たちを相手にしている売春婦たちだった。イラク人なのかと確認すると、すこし苛ついた表情で「そうだ」とジアッドは言った。同胞の女たちが、あられもない姿で米兵に媚びを売っている様が、ジアッドには気に食わないのだろう。
米兵相手の女たち
女たちは、黒いアイシャドーを塗り、赤い口紅をこってりと塗っていた。その姿を見て、かつて横須賀の米軍基地近くで、米兵と一緒に歩いていた日本人の若い女たちの化粧とそっくりだなと思った。
米兵たちを相手にする女たちの化粧が、人種は違えど似ているというのは、興味深いなと思った。
それにしてもこの厳戒態勢の中、女たちが武装勢力のスパイとして米兵たちから情報を盗んだりして、警戒態勢を骨抜きにすることも十分考えられる。女たちを平気で検問所の中に入れる米兵のモラルも崩壊していると言っても過言ではない。女たちはどこからやって来て、米兵たちに取り入ったのだろうか。
娼婦を兵舎へ"届ける"男たち
バグダッドは反米武装勢力が跋扈する最前線ということもあり、米兵たちが表立って出入りできるナイトクラブなどはどこにも存在しない。それ故に、米兵たちが性欲を発散する場所は無かった。
米軍基地内を取材した知人のジャーナリストによると、米兵たちは兵舎の中での性行為は禁止されていて、女性兵士を抱くことができるのはトイレの中ぐらいしかないという。後は兵舎の中にインターネットに接続できる場所があり、そこでエロ画像や動画を見ることしか、発散する方法はないという。
米兵たちは禁欲的な環境に半年から1年の期間で駐留しなければならないのだ。しかし、そうした禁欲生活を打ち破る抜け穴は存在するのだった。
「彼女たちは勝手に入ったわけじゃないんだよ。米兵たちに女の斡旋をするイラク人がいるんだよ。米軍の兵舎のまわりにたむろしていて、タバコを売ったり、食い物を売ったりする連中もいて、そういった連中の中に娼婦を米軍の兵舎に届けるのがいるんだよ。この間連れて行ったアパート(編集部註:娼婦たちが共同生活を送り、体を売っている)みたいな場所がバグダッドにはいくつもあるから、娼婦は簡単に見つけられるんだ」
戦乱によって仕事を失ったフセイン政権下の政府職員や経済的に貧しいシーア派の人々が、米軍基地の前にたむろしていると、ジアッドは言った。
戦時下のバグダッドで、女たちは斡旋業者の手を介して米兵のもとへ送り込まれていた。では、フセイン政権の時代、この国の"売春事情"はどうだったのか。
第2回では、「売春はオープンに近かった」とイラク人通訳が語っている。世俗国家イラクに公然と存在したナイトクラブと売春宿、そして経済制裁を境に一変した取り締まり。さらに、サウジアラビアに駐在した商社マンが明かす、戒律の国の生々しい性事情とは──。
(第2回につづく)

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