Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f2c0022fbfbd11849dddafef8d8034e834004a98
日立製作所は、宇宙空間から、インフラや災害の状況を3次元監視する「構造化電波」技術を開発し、人工衛星の搭載に向けた原理検証に成功したと発表した。 9月3日から、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催する同社グループ最大の年次イベント「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」で初めて公開する。 今後、実用化に向けた取り組みを加速し、宇宙ビッグデータと社会インフラ/産業データ、AI解析技術を組み合わせて、「Lumada」ソリューションとしての提供を具体化する。 また、同社の経営計画である「Inspire 2027」で掲げる宇宙ビッグデータの利活用の事例の1つに位置付け、災害リスクの低減やインフラ管理の効率化を支援。環境負荷の最小化を図り、持続可能で強靭(きょうじん)な社会インフラの実現に貢献するという。 日立製作所 研究開発グループ Next Researchプロジェクトリーダの渡辺康一氏は、「地球観測データ市場は、2030年には約7000億ドルの市場規模が見込まれ、巨大な可能性がある。日立は、その市場に向けて、独自の構造化電波を開発した。人工衛星に搭載することを想定したアンテナ構成で構造化電波を放射する原理検証に成功した。夜間や天候を問わずに、高さ情報を含む3次元画像を、画像ゆがみのない形で取得が可能になり、災害監視や社会インフラ管理を『事後対応』から『予防・予知保全』に転換できるようになる」とした。 構造化電波技術は、航空機/成層圏プラットフォーム(HAPS)や人工衛星を活用して、災害監視やインフラ管理の高度化に貢献する技術と位置付けられており、従来の電波観測では困難だった物体の3次元形状や動き、材質といった多変数データを同時に取得することで、軌道角運動量を用いて独自の電波制御が可能になる。 天候や昼夜の影響を受けない特徴を持ち、通常の距離情報に加えて、高精度な3次元像や大気情報の取得が可能になるため、インフラの異常兆候や災害リスクの早期発見、迅速な意思決定を支援し、持続可能で安全安心な社会の実現に貢献できる。 課題だった構造化電波の広がりを抑え、所定の方向へ高い指向性で放射する技術を開発し、衛星搭載に向けた原理検証に成功したという。 従来は困難であった大気情報と地表物体の3次元分布を同時に把握することで、観測に必要な電波強度を確保し、全天候で、24時間体制での広域観測が可能になり、小さな変化を早期に捉え、災害監視やインフラ管理における迅速かつ的確な意思決定を支援することができる。 衛星への搭載を想定したアンテナ構成により、波面構造を維持したまま、従来と比べ高い指向性で放射できることを確認しており、今後は、屋外での構造化電波送受信技術の実証を進めるとともに、パートナー企業や大学および研究機関と連携し、災害監視や社会インフラ管理などへの応用を進め、社会実装を進めるという。 「宇宙からの広域観測の高度化を実現し、異常の早期把握や迅速な意思決定に貢献していく」としている。 近年は、気候変動による自然災害の激甚化や、都市インフラの老朽化を背景に、鉄道や送電網、道路など、広域にわたる社会インフラの状態を継続的に把握し、異常の兆候を早期に捉えることの重要性が高まっている。 だが、従来は気象の影響を受けたり、人工物や自然物が重なって捉えたりすることから、対象を見分けにくく、事象発生後の被害状況の把握と復旧が中心だった。 また、これまでは地上での点検や、センサー計測が中心であったが、個別設備の詳細な把握には有効ではあるものの、広い範囲を継続的に把握するには時間や人手がかかるという課題があった。 そこで、地上での詳細な計測に加え、広域な観測を組み合わせて、重点的に対策を検討していくための手段の一つとして、宇宙からの効率的な観測技術の利用が期待されていた。
全天候での3次元観測と、高い指向性を両立する2つの新技術 これに対して日立では、2025年8月に、音波を用いた原理検証によって、物体の形状や動きなど、複数の特徴を取得できる可能性を示したほか、衛星観測への適用を見据えて、所定の方向へ高い指向性で放射する技術を開発。今回、新たに「高さ方向の情報を含む3次元観測に貢献する構造化電波を安定して生成する基盤技術」と、「宇宙から地上へ必要な強度で構造化電波を届ける宇宙用アンテナ構成」の2つの技術を開発した。 前者では、円形アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子の位相を制御し、構造化電波ならではの渦状の位相構造を安定して生成。これにより、高さ方向の情報に加え、物体の形状や動きも捉える高精度な3次元観測への応用が期待できる。「方位角検出能力を持つ渦電波(OAM電波)を、独自手法によって重ね合わせた構造化電波を、レーダー技術に応用している」(日立製作所 研究開発グループ Next Researchリーダ主任研究員の舟根司氏)という。 後者では、生成した構造化電波を、オフセットパラボラアンテナで反射させることで、円形アレイアンテナのみを用いた方式と比べて、波面構造を維持したままビーム発散角を低減し、高い指向性で放射する。 宇宙から高さ方向の情報を含む3次元観測に活用するには、電波を地上に十分な強度で届けることが必要であるが、円形アレイアンテナのみを用いた従来方式は電波が広がりやすく、強度の維持が難しいため、特徴に関する情報を安定して取得するには、観測に必要な強度を確保できる放射方式の実現が課題だった。 新たな技術では、電磁界シミュレーションによる解析において、ビーム発散角を、29度から6度へ低減しており、電波暗室内の実験においても約6度に低減する結果が得られたという。 今回の2つの技術により、衛星搭載を想定したアンテナ構成の妥当性を確認するとともに、宇宙から地上を観測する際に必要となる強度の確保に向けた見通しを得ることができたという。 2028年に航空機での実証開始、AI解析を掛け合わせ予防保全へ 現在は、フェーズ1として、電波暗室や地上屋外での送受信技術を確立しており、2028年にはフェーズ2として、航空機を用いた実証実験を開始し、宇宙空間を見据えた実フィールドで技術検証を開始する。この実証実験は世界初になる見込みだ。 さらに、2030年には、航空機での商用データサービスを開始し、Lumadaソリューションとして、地球観測データ市場への本格参入を図る。また、2033年のフェーズ4では、人工衛星に搭載して、打ち上げを行い、宇宙空間での運用を開始する。さらに、2035年にはフェーズ5として、衛星地球観測事業を本格展開する考えを示した。 具体的な用途として、衛星による3次元変位データなど、多様な情報を集約。これをモデルによってAI解析し、橋などのインフラの補修時期を示すなど、予兆診断が可能になるという。また、鉄道事業における線路や周辺設備のほか、エネルギー施設の保全などにも応用できると考えている。 地上インフラ設備のモニタリングにおいては、観測対象の大気層、地上層、地形層を、独立したレイヤーとして分離、3D化して抽出。高度な解析を実現するとした。 日立製作所の渡辺プロジェクトリーダは、「先ごろ、ネパールで発生した大洪水では、雪の塊と、岩の塊が同時に崩落したことが原因とされているが、氷がどのぐらいの状態で溶けているのかが分かっていれば避けられた可能性がある。電波や光では氷や雪の状況が分からないという課題がある。構造化電波であれば、崩落を予測できたかもしれない」としたほか、「豪雨や台風の発生、地震の発生などに関しても、より詳細な予測ができるかもしれない」とした。 日立製作所は、2001年度に、ハードウェアを中心とした宇宙事業から撤退した経緯があるが、数年前から新たなプロジェクトとして宇宙事業への参入を模索しており、データの観点から宇宙分野での事業化を目指していくことになる。

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