Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7dc554b66108a1d86c9b44211ac50853411fe88b
ネパールと中国・チベット自治区の国境地域を襲った壊滅的な洪水で、死者は約800人に迫り、3000人以上が行方不明となっています。今回の災害は、氷河の一部が崩壊し、大量の氷、岩石、泥が谷へ流れ込んだことで発生したとみられています。
ロイターは8月30日、ネパールがこの災害が起きる約3カ月前から、中国側に氷河や河川に関する情報共有を強化するよう求めていたと報じました。ネパール側の会議資料によると、5月27日、カトマンズでネパールと中国の政府関係者らが洪水、気象、氷河災害への対応について協議しました。ネパール側から10人、中国側からチベット自治区関係者を含む約12人が参加し、氷河湖のリスト作成やハザードマップ、早期警戒などについて話し合ったそうです。
3カ月前に協議していた
ネパール側は特に、中国領内にある氷河の動きや河川水位など、下流の住民を守るためのデータ共有強化を求めていました。ところが、ネパール政府関係者2人はロイターに対し、その後、期待していたほどの氷河リスクや水位に関する情報を中国側から得られなかったと証言しています。一方、中国側は、大雨予報など必要な情報を「適時に共有してきた」としています。
現時点で、「中国から十分な情報が来なかったために今回の犠牲者が増えた」と断定することはできません。今回のような巨大な氷河崩壊は非常に急激に発生する場合があり、十分な観測データがあったとしても、どの程度事前に予測できたのかは今後の検証が必要だからです。しかし、それでも今回の災害が非常に重要な課題を突きつけたことは間違いありません。
川も氷河も「国境」を知らない
今回の災害現場は、中国・チベット側の高地からネパールへ流れ込む河川流域です。上流で氷河が崩壊すれば、その水や土砂は国境で止まるわけではありません。上流国で起きた現象が、数十分、数時間後には下流国の住民を襲う可能性があります。
ところが、観測データはそうではありません。気象データ、河川水位、ダム放流量、氷河湖の水位、氷河の移動速度、衛星画像などは、それぞれの国や機関が管理しています。
つまり、洪水は国境を越えるのに、データは国境で止まるという問題が生じます。気候変動によって氷河融解や極端豪雨のリスクが高まれば、この「情報の国境」はますます大きな弱点になります。今回、ネパールでは洪水によって水位が30分ほどで最大9メートル上昇した場所もあったと専門家が報告しています。こうした極端な災害では、数十分の情報差が極めて大きな意味を持ちます。
アジアには同じ問題がいくつもある
この問題は中国とネパールだけではありません。アジアには国境を越える国際河川が数多くあります。中国・インド・バングラデシュを流れる「ブラマプトラ川」、中国から東南アジアへ流れる「メコン川」、インドとパキスタンを結ぶ「インダス川」などです。
上流で、豪雨が起きたとか、氷河湖の水位が急上昇したとか、ダムから大量放流したとか、重要な情報が下流国へ十分伝わらなければ、住民の避難が遅れる可能性があります。国際河川をめぐる議論というと、「どの国がどれだけ水を使うのか」という水利権争いが注目されがちです。
しかし気候変動時代には、それだけではありません。「水をどう分けるか」から、「水の危険情報をどう共有するか」へ。これもアジアの水資源安全保障の重要な柱になるはずです。
<参考文献>天野健作『アジアの水覇権 中国・インドの資源紛争を解く』(博論社)

0 件のコメント:
コメントを投稿