2026年9月24日木曜日

不正流出したネパール・中国「土石流」監視カメラ映像は、ロイターが配信権を獲得して正当化されたのか?

 Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/17acba0afe593abc39cd197139260491f3ee1516

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
ネパール・中国国境の土石流に関するNewsflareの動画の画面キャプチャー

 8月30日のコラム<中国はネパールと中国(チベット)国境の土石流をどのように報道し、どのように報道しなかったか?>で、あの衝撃的な土石流の映像は中国側の監視カメラから不正流出したものであることを明らかにした。

 それが世界のどのメディアでも「正当に」使っていいようになったのは、ロイターがその映像の配信権(クレジット)を獲得したからだということが、その後の追跡でわかった。

 今般は、どのようにしてロイターが配信権を手に入れたのかを追跡調査する。

 不正流出した映像は「違法映像」であることは確かだが、それが巡り巡ってロイターが配信権を獲得することによって「正当化」されるのは、ふと、マネーロンダリングで「犯罪などで得た資金の出所を分かりにくくし、正当な資金に見せかける行為」=「資金洗浄」を彷彿とさせる。これは今後のネット社会におけるX投稿や投稿者の著作権などにも関係してくるので、正確にそして忠実に追跡を試みたい。

◆不正流出映像はどのようにしてロイター社に渡ったのか?

 先ず、いうまでもなく不正流出させた中国の監視カメラの職員がロイター社とビジネス関係を持っているなどということは考えられない。不正流出させた動機が正義感からであったとしても、中国政府の監視条例に抵触し逮捕される。ましてや外国の通信社とビジネス関係にあったなどということにでもなったら、死刑にも相当し、一族郎党、中国では生きていけないことになるだろう。

 となると、この可能性は全否定していいと考えられる。

 次の可能性としては、中国の一般ネット民の誰かがロイター社に投稿したということが考えられるが、実は8月28日に、南ドイツ新聞(有料)が使用している「ギロン(吉隆)県の監視カメラの映像」に「Video: Newsflare via Reuters Connect」というクレジットが付いていることを発見した。つまり、南ドイツ新聞がReuters Connect経由で使用権を得た映像であることを意味する。その中の一画面を図表1に示す。

図表1:南ドイツ新聞に書いてあるクレジットにNewsflareの文字が

ネットから転載し、和訳は筆者が付加した

 図表1の右下にあるNewsflareがカギとなりそうだ。

 Newsflareとは何者か?

 調べてみると、Newsflareは「一般ネットユーザーから動画を集め、報道機関等にライセンスを販売・仲介するUGC(User Generated Content、ユーザー生成コンテンツ)サービスの一つ」とのことで、一般ユーザーの投稿が主役になるそうだ。

 そこで、ロイターとNewsflareの関係を調べてみたところ、両社は2018年から正式に提携しており、Reuters自身の発表でも「Newsflareが一般市民などから集めた目撃・速報動画を、Reuters Connectを通じてロイターの報道機関顧客に提供する仕組みである」と明記されている。

 となると、ネットに流出している監視カメラ映像を、ネットユーザーの誰かが「金になる」と考えてNewsflareに投稿し、Newsflareが投稿者からライセンス販売の権限を得て、ビジネスが成立したことになる。このとき、Newsflareが投稿者から動画そのものを購入するのではなく、「投稿者が著作権を保持したまま、Newsflareに対して動画の利用ライセンスを第三者に販売・仲介する権限を与える」という仕組みになっている。

 この時点で、「不正流出した土石流映像」はNewsflareがライセンスを販売・仲介する媒体となり、ロイターとの契約に基づいて、ロイターが配信権を持つに至る。言い換えれば、Reuters Connectを通じてロイターの報道機関顧客に提供されることになる。

 世界中の報道機関は、この瞬間から(Reuters Connectと契約がある場合や、Reuters Connectを通じて当該映像について利用許諾を受けたりする場合もあるだろうが、その上で)「ロイター配信」というクレジットを書きさえすれば、非常に「正当に」この「不正流出した映像」を使っても良いことになる。

 図表2には、「氷河崩落から不正流出した映像が正当になるまでの時系列」を示した。

図表2:不正流出した映像が正当になるまでの8月26日の時系列

公開されている情報に基づき、筆者が推論し作成


 これは冒頭に書いたマネーロンダリングの「資金洗浄」を連想させてしまうのである。

◆SNS由来の報道素材が抱える問題

 これはNewsflareだけの問題ではなく、SNS由来の全般が抱えている問題である。イギリスの競争・市場庁(CMA)が2026年に行った報道用写真・映像市場の調査でも、業界関係者はSNS由来の報道素材について、主要な懸念として以下の二つを挙げている。
   ●authenticity(真正性)
   ●potential legal risks(潜在的な法的リスク)
 つまり、SNS上の映像には常に、
   ●本当に投稿者本人が撮影したのか
   ●単なる転載ではないのか
   ●投稿者に、第三者へライセンスを与える権限があるのか
   ●その映像の中に別の権利者の映像や著作物が含まれていないか
という問題が存在している。
 今回のギロン港(吉隆口岸)の映像は、さらに特殊だ。

 一般ネットユーザーが自分のスマホで災害現場を直接撮影した映像ではなく、ギロン港検問所の「公安監視システムの映像」を、職員が「個人のスマホ」でモニター越しに撮影したものとみられる。そのため、仮にNewsflareが「スマホでモニターを撮影した人物」まで特定して、その人から利用許諾を取得していたとしても、その人物が元の監視カメラ映像そのものを第三者へ商業利用させる権限を持っているわけではない。

 そもそも、図表2の時系列および 8月30日のコラム<中国はネパールと中国(チベット)国境の土石流をどのように報道し、どのように報道しなかったか?>から考えて、明らかな法律違反で「違法映像」だ。

 しかし<Newsflareが投稿者から購入した段階での不正流出した映像>では、当該動画がそのまま観られる。<Newsflareはさらに別の角度からの監視カメラの映像>も流しており、逃げ惑う人々が土石流に呑まれていく瞬間が、生々しく映っている。

 報道機関にとっては、何物にも替えがたいほど「絶対に欲しい」映像だろう。

 人類全体にとっても、今後の警鐘として非常に貴重な映像でもある。

 しかし、一般ネットユーザーが自分のスマホで撮影した映像をXに投稿したのなら、それをX投稿として扱う場合は別だが、不正流出した映像が「洗浄化」される過程には、やはり議論の余地があるのではないかと思う次第だ。

 多くのメディア関係者あるいは読者の方々の見識を仰ぎたい。

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