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高市早苗政権が昨年10月に発足後、いち早く打ち出した方針の一つが「外国人政策の厳格化」だった。 【写真】似通った項目と数字が並ぶのは偶然なのか?外国人留学生の経費支弁者の収入欄 2026年1月には外国人の土地取得や帰化要件の厳格化、オーバーツーリズム(観光公害)対策の強化などを「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」にまとめた。また、「技能実習」(27年度から「育成就労」に名称変更)と「特定技能」を通じた外国人労働者の受け入れ上限枠も決定した。 しかし、高市政権の外国人政策では、真っ先に「厳格化」すべき問題が放置されている。それどころか逆に「緩和」された状況が続いている。留学生の受け入れ問題がそうだ。 新型コロナ禍が収束して以降、留学生の数は猛烈な勢いで増えている。法務省出入国在留管理庁によると、その数は25年末時点で46万4784人に達し、21年の21万人弱から2倍以上増加した。コロナ禍前の約34万人を大きく上回り、23年に岸田文雄政権(当時)が策定した「留学生40万人計画」も33年の目標前に早々と達成された。 出身国ではネパールやミャンマー、スリランカといったアジア新興国の伸びが際立つ。特にネパール人留学生は21年の1.7万人が25年末には11.6万人と7倍近く増加した。 こうした留学生急増の背景の一つに入管当局の対応がある。日本語学校関係者によると、「2、3年前から一部の学校に対し、留学生受け入れの〝優遇措置〟が取られている」というのだ。どういうことか──。
来日した留学生の多くはまず日本語学校に入学する。その日本語学校に対し以前から入管庁は、留学生の在籍管理が適正とみなす場合に「適正校」と認定し、留学ビザの発給を優遇してきた。そして最近になって「適正校」を2ランクに分け、とりわけ優良とみなす「クラス1」の学校への入学を希望する外国人に対し、ビザ申請時に必要な書類を減らしたのだという。入管庁在留管理支援部在留管理課も取材に対し、ランク分けを「令和4年(22年)の選定から、適正校のうち特に在籍管理が適正に行われている教育機関について提出書類を更に緩和するものとして導入した」と認めた。 「緩和」によって免除されたのが、アジア新興国の留学希望者に提出を義務づける「経費支弁関係」の証明書だ。留学ビザは日本でのアルバイトなしに学費や生活費をまかなえる経済力のある外国人に限って発給される。その経済力の立証のため、入管当局は新興国の留学希望者に親の年収や預金残高の証明書の提出を求める。しかし「クラス1」の学校への留学の場合は不要となった。 筆者の取材経験から、アジア新興国の留学生に経費支弁能力を有する者が少ないことは断言できる。そのため多くの留学希望者がビザ取得に十分な経済力があるように装う。現地の送り出し業者経由で行政や金融機関の担当者に賄賂を支払い、実際よりも金額が大きく水増しされた年収や預金残高の証明書を作成するのだ。書類は行政機関などが発行した本物だが、数字は偽っている。 そんな実態が放置されたまま留学生は増加してきた。経費支弁能力の有無を問題にすれば、留学生が増えなくなるからだ。入管庁の「緩和」措置は、そんな現状の追認に等しい。
不自然な年収と職業……仕事を求める留学生たち
「クラス1」以外の学校への留学希望者には、従来通り経費支弁関係の証明書の提出が求められる。 また、「クラス1」への入学であっても学校には書類を提出するが、多くの学校は書類に不自然さがあろうと入学を認める。留学生が増えればそれだけ儲かるからだ。 筆者の手元に2人のネパール人留学生、Sさん(女性、19歳)とKさん(女性、21歳)がビザ取得に用いた書類一式がある(次頁参照)。経費支弁関係の書類には、行政機関が発行した親の年収証明、金融機関の預金残高証明があり、どちらもレターヘッド入りの用紙に担当者が署名している。一見すると本物だ。 「紙もサインも本物ですよ。ただ、年収や預金残高の数字が普通に考えておかしいのです」 そう話すのは、書類を提供してくれた日本人ブローカーだ。この日本人ブローカーは、ネパールなどから年に数十人の留学生を日本国内の日本語学校に斡旋している。 書類に記されたSさんの親の年収は「226万5010ルピー」(約238万円)、Kさんの方は「223万8915ルピー」(約235万円)だ。25年のネパールの1人あたり国内総生産(GDP)は1496ドル(約24万円)と日本の20分の1に満たない。しかも2人の親はネパールでも貧しいとされる「農家」だ。 預金残高はSさんの親が約226万ルピー、Kさんが約266万ルピーとこちらも額が近い。日本での生活を支えるための仕送りは「月7万円」と同額だ。これは偶然なのか? 日本人ブローカーが言う。 「2人に限らず、ネパール人留学生の書類にある(親の年収などの)金額はほぼ一緒。日本の留学ビザが取れる金額に〝調整〟してある。私の知る限り、仕送りのある留学生などいません。逆に日本で働き、親に仕送りしようとしているんですから」 日本人ブローカーによれば、ネパール人留学生の親の職業が決まって「農業」なのにも理由があるという。
「ネパールなどでは農業所得は非課税です。入管が年収の金額を疑い、納税証明書の提出を求めても『税金は払っていない』と言い訳できるよう皆、職業を『農業』にするのです」 日本人ブローカーが斡旋したネパール人留学生の中には、国会議員の子弟が親の仕事を「農業」と偽るケースもあった。ネパールの国会議員の収入は少なく、留学ビザの発給基準に足りないため、偽ったという。 「ネパールにも富裕層はいます。しかし、わざわざ日本に留学する若者は珍しい。私が仲介する留学生の書類はほとんど改ざんされています」 日本人ブローカーはそう話し、さらに続けた。 「クラス1の学校が〝優良校〟とは限りません。学校から逃げて不法残留となった留学生でも、事前に除籍していたことにすれば責任は問われない。正直に入管に報告している学校が損をするケースもあるのです」 こうした不自然な書類を問題にせずビザを発給し続けた結果、日本に押し寄せたのが勉強よりも出稼ぎが目的の〝偽装留学生〟だ。彼らは留学生に週28時間以内のアルバイトが認められることに着目し、留学を出稼ぎに利用する。日本語学校の初年度分の学費、送り出し業者に支払う手数料で150万円前後を借金に頼って来日するのだ。ただし、週28時間のアルバイトでは借金の返済や翌年分の学費の支払いは難しい。そこで彼らは法定上限を超えて働く。バイト先は弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け現場などだ。特に夜勤は人手不足が深刻で、語学力を問われず仕事に就ける。 入管当局は留学生の違法就労への監視を強めている。ビザ更新時に発覚すれば、母国に帰国するしかなくなる。しかし、バイト代が銀行振り込みではなく現金支給されれば、当局に違法就労を把握されない。そんなバイトは友人やSNSを頼れば簡単に見つかる。
留学生に経営や人手を依存放置されている日本の課題
それにしても、なぜそこまでして政府は留学生を増やしたいのか。 留学生が急増して最も恩恵を受けているのは教育業界だ。入管庁によれば、日本語学校の数は26年2月時点で846校に上る。「留学生30万人計画」が策定される前年の07年から3倍弱、コロナ禍前と比べても100校以上増え、まさに〝バブル状態〟だ。日本人の学生が集まらず、留学生に経営を依存する専門学校や大学も少なくない。 政府には「外国人労働者の数確保」への危機感もあるのだろう。高市政権が設定した28年までの外国人労働者の受け入れ上限は特定技能80万人、育成就労43万人の計123万人だ。特定技能は現在より40万人以上増やせるが、数の確保はそう簡単ではない。日本の賃金は韓国など他国に追い抜かれ、出稼ぎ先としての魅力低下が著しいからだ。 特定技能の4割以上は技能実習からの移行組だが、実習生数の増加は25年にほぼ止まった。育成就労に名称が変わっても大きな増加は見込めない。そこで政府は留学生を特定技能への供給源にして、外国人労働者の数確保を目論んでいるのかもしれない。
入管庁に対し、留学生の書類への審査が適正になされているかと問うとこんな回答があった。 「経費支弁書類に疑義が生じた場合には、内容に応じて追加の説明資料等を求めるなどして適切な審査に努めています」(同庁在留管理支援部在留管理課) 留学ビザの審査を担うのは各地方の主要都市に設置された入管だ。そんな地方入管で審査を担当した経験がある元職員は、一部の日本語学校への審査が緩和された経緯と理由をこう話す。 「入管内部では、適正校への審査を簡素化すべきとの意見は10年近く前からありました。日本語学校の入学時期は年4回ですが、留学生が急増したためあまりに忙しく、担当者に書類を十分審査する時間がないのです」 そうした事情もあって経費支弁能力の問題に深入りせず留学を認め、入管当局が最も嫌う不法残留などの防止は学校側に委ねることにしたようだ。 ネパール、ミャンマー、スリランカ、バングラデシュ、ベトナムの5カ国だけで留学生全体の半数以上に上る。よほどの富裕層でなければ日本の留学ビザ取得に十分な経済力などない国々だ。ビザの審査を厳しくすれば、留学生の数は大きく減るだろう。多くの日本語学校や、一部の専門学校・大学は経営難に陥る可能性が高い。 もちろん、新興国出身の留学生すべてが出稼ぎ目的の〝偽装〟というわけではない。国籍別で最多の14.8万人に上る中国人留学生は00年代前半までは不自然な書類を用いたビザ取得が横行していたが、今やアルバイトもせず暮らす「金持ち留学生」で溢れ返る。 10年代に〝偽装〟の代名詞だったベトナム人留学生にも、最近では数が少ないが富裕層はいる。
恩恵受ける我々の責任変えるべき日本の課題
筆者には〝偽装〟だからといって、留学生を責める意図はない。彼らは金さえ払えば〝本物〟の証明書が手に入る母国の〝慣習〟や、低賃金の外国人労働者を欲する日本側の事情に便乗しているに過ぎないからだ。 責任があるとすれば日本側だろう。日本にとって留学生は人手不足の緩和に貢献し、しかもバイト代は学費として徴収できるとあって極めて好都合な存在となり得るからだ。学費や生活費をバイトで工面している留学生を大手メディアが〝美談〟として報じたい気持ちもわかる。大学などに籍を置く〝有識者〟は留学生を増やす政策を推進する文部科学省を忖度してか、声を上げない。そして私たちも日々の暮らしで留学生バイトの恩恵を受けている。 だが、働くことが目的ならば最初から「留学生」ではなく「労働者」として受け入れればよい。日本語にしろ、母国で学べばずっと安上がりなのだ。事実、外国人が日本国内の日本語学校を経ず専門学校・大学に留学する場合、当局はビザの発給条件に日本語能力試験「N2」という高い語学力を課している。 明らかに不自然な書類を問題にせず、当然のようにビザが発給され続ける現状は少なくとも筆者から見れば異常だ。高市政権が外国人政策を厳格化するのなら、まずは留学生受け入れの「正常化」を求めたい。
出井康博

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