Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/af79cfaf52809906a49faf2d5396562c6ed7008f
貧困、教育格差、人種的不平等――。それらは「大人の問題」だと思われがちですが、その影響は想像以上に早く、幼い子どもたちの心と脳に刻み込まれています。 【日本は大きく差をつけられている?】学費ゼロでも“教育格差”が少ないスウェーデンと日本の大きな違い そこで今回は、世界最先端の教育研究をもとに、人間関係を重視した学びの重要性とAI時代に必要な“自ら学ぶ力”を説いた書籍『自ら学ぶ子どもの育て方』(KADOKAWA)から一部抜粋してご紹介。 言葉を覚える前から生じる学力差、取り戻せないスタートの遅れ、そして静かに失われていく創造力。 データが示すのは、子どもたちの問題ではなく、社会と大人がつくり出してきた現実でした。
幼いころの格差が引き起こすドミノ効果
一部の子どもたちは、ほかの子よりもさらに苦労しています。世界で最も裕福な四十カ国でも、五人にひとり以上の子どもが貧困のなかで暮らしています。若者や高齢者など、ほかのどの年代と比べても、子どもの貧困率が最も高いのです※1。 アメリカで貧困状態にある子どものうち、七十一パーセントは有色人種です※2。子どもの飢餓(きが)は根強い問題で、アメリカ国内でも世界でも大勢に影響を及ぼしています。アメリカの学校は、人種隔離という点で後退してしまいました。早期教育プログラムでは、ほぼ全員が黒人かヒスパニックの子どもという構成になるパーセンテージがK-12(幼稚園の年長から高校卒業までの義務教育)の二倍になっています※3。 こうした経済格差や社会的不公平は、子どもたちの教育にも浸透しています。教育の質や予算に根深い不平等が存在することは、大半の人が認識しています。あまり知られていないのは、どれほど早い時期から子どもたちがその影響を受けるかということです。 格差は驚くほど早くから表れます。スタンフォード大学の研究で、低所得層の家庭の一歳半の子どもたちには、高所得家庭の同い年の子どもと比べて、言語の発達に六カ月分の遅れがあるとわかりました。この差は幼稚園に上がるころにはさらに大きくなります※4。アメリカの三歳から五歳までの子どものうち六十パーセント近くは、発達が軌道に乗っていない状態です※5。学力の差はおおむね五歳までに決まり、たいてい五歳か六歳でピークに達します※6。 ここは重大な局面です。スタートで遅れた子どもたちはたいてい遅れたままになり、それはその後の学びの道筋にも、将来の社会経済的地位にも影響します。小学一年生が終わる時点で読解力に乏しい子どもは、九十パーセントの確率で、四年生が終わる時点でも読解力に乏しいままです※7。幼いころの格差が引き起こすドミノ効果は深刻で、生涯の学び、健康、さらに社会への貢献や国の安全にまで重大な影響を及ぼします。強いアメリカのための協議会(CSA)による二〇二三年の報告ではこの危機を数値で表しており、質の高い保育へのアクセスが限られているせいで、収入や生産性や歳入の減少を考えあわせると、毎年千二百二十億ドルもの損失が生じていると見積もっています※8。 こうした問題をどう解決したらいいか、わたしたちにはわかっています。質の高い早期学習プログラムは格差を埋め、その効果が子どもの人生の先までつづくことが実証されています。ユニセフによれば、そうしたプログラムに参加した子どもたちは、参加していない子どもたちと比べて、初期の読み書き計算能力が順調に発達している可能性が二倍以上にもなります※9。ネパールの子どもでは、これが十七倍にものぼりました。習得したもののなかには、小学三年生になるころには消えてしまうものもあるのですが、早期教育の潜在的な影響は大人になってから顕在化します※10。ボストンからノースカロライナにいたるまでの各地でおこなわれた縦断研究によって、早期教育が高校卒業および大学入学の可能性を高めたり、モチベーションを高めたりといった長期的な効果をもたらすことがわかっています※11。 しかしプログラムの数がまったく足りていないのです。アメリカの保育環境のうち、非常に質が高いと分類される施設は十パーセントにも届いていません※12。早期学習プログラムにアクセスできる機会も不均等です。教育支援NPO「エデュケーション・トラスト」の調査によれば、質が高いとされる州立就学前プログラムに参加している子どもの割合は、ラテンアメリカ系がたったの一パーセント、黒人が四パーセントです※13。 早期学習プログラムに入っても、有色人種の子どもは白人の子どもよりも退学させられる確率が三倍高く、幼いうちに退学処分を経験した子どもは後の教育でも懲戒処分や退学処分を受けるリスクが高くなります。プレスクールでの退学処分はK-12教育よりも頻繁で、その原因としては子どもの社会スキルやセルフコントロールの未発達、学校側の一貫しないポリシー、リソースや支援が限られていること、教師や大人の偏見、教師と子どもの割合が適正でないこと、早期介入プログラムの欠如などが絡みあっています。 結局のところ、黒人の子どもたちは幼稚園に入った時点で白人の同級生たちより概して八カ月分学習が遅れています※14。小学三年生になるころには平均的な差はより大きくなり、中学二年生になるころにはさらに広がります。 次回は、子どもの創造力がなぜ失われつつあるのか、その背景にある「環境」の問題についてご紹介します。
〈著者プロフィール〉
イザベル・C・ハウ/スタンフォード学習促進センターの責任者。二児の母。経験豊富なインパクト投資家としてオミダイア・ネットワークとイマジナブル・フューチャーズにて、アメリカの教育関連事業をリードした経歴を持つ。ハーバード・ビジネス・スクールから「最も刺激的な女性トップ100人」の1人に選出。2021年GlobalMindEDから「インクルーシブ・リーダー賞(幼児教育分野)」を受賞。2025年ASU-GSVより「教育におけるAI革命をリードする女性」の1人として認められる。 高山 真由美/東京生まれ。翻訳家。訳書に『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(共に日経BP 日本経済新聞出版)、『デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』『私たちは子どもに何ができるのか』『子育てのパラドックス』『成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか』(すべて英治出版)など。 ※1:More than 1 in 5 Children Live in Poverty in 40 of the World’s Richest Countries,” UNICEF,December 5, 2023, https://www.unicef.org/press-releases/more-1-5-children-live-poverty-40-worlds-richest-countries. ※2:Annie E. Casey Foundation, Kids Count Data Center (2024), Children in Poverty by Race and Ethnicity in United States, 2023 Data, https://datacenter.aecf.org/data/tables/44-children-inpoverty-by-race-and-Ethnicity#detailed/1/any/false/2545,1095,2048,1729,37,871,870,573,869,36/187,11,9,12,1,185,13/324,323. ※3:Greenberg, E., and Monarrez, T., “Segregated from the Start,” Urban Institute, October 1, 2019, https://www.urban.org/features/segregated-start. ※4:Fernald, A., Marchman, V. A., and Weisleder, A., “SES Differences in Language Processing Skill and Vocabulary Are Evident at 18 Months,” Developmental Science 16, no. 2 (2013), https://doi.org/10.1111/desc.12019. ※5:Ghandour, R. M., Hirai, A. H., Moore, K. A., Robinson, L. R., Kaminski, J. W., Murphy, K., Lu, M. C., and Kogan, M. D., “Healthy and Ready to Learn: Prevalence and Correlates of School Readiness Among United States Preschoolers,” Academic Pediatrics 21, no. 5 (2021), https://doi.org/10.1016/j.acap.2021.02.019. ※6:Reich, R., “Class. 13: ‘Reducing Inequities in Education,’” UC Berkeley, YouTube video, 2022, https://youtu.be/W9rtmYxwvD0. ※7:Juel, C., “Learning to Read and Write: A Longitudinal Study of 54 Children from First to Fourth Grades,” Journal of Educational Psychology 80, no. 4 (1988), https://doi.org/10.1037/0022-0663.80.4.437. ※8:Bishop, S., Fishman, N., Garrett, T., Elkin, J., Ford, B., Galloway, M., and Belfield, C. R., “$122 Billion: The Growing, Annual Cost of the Infant-Toddler Childcare Crisis,” Council for a Strong America, February 2023, https://www.strongnation.org/articles/2038-122-billion-the-growingannual-cost-of-the-infant-toddler-child-care-crisis. ※9:Diallo, G., “175 Million Children Are Not Enrolled in Pre-Primary Education,” UNICEF, April 8,2019, https://tinyurl.com/38mvmfyn. ※10:Gopnik, A., “Preschool’s ‘Sleeper’ Effect on Later Life,” Wall Street Journal, May 27, 2021, https://www.wsj.com/articles/preschools-sleeper-effect-on-later-life-11622146543. ※11:Gray-Lobe, G., Pathak, P. A., and Walters, C. R., “The Long-Term Effects of Universal Preschool in Boston,” Quarterly Journal of Economics 138, no. 1 (2023), https://doi.org/10.1093/qje/qjac036; Carr, R. C., Peisner-Feinberg, E. S., Kaplan, R., and Mokrova, I. L., “Effects of North Carolina’s Pre-Kindergarten Program at the End of Kindergarten: Contributions of School-Wide Quality,” Journal of Applied Developmental Psychology 76 (2021), https://doi.org/10.1016/j.appdev.2021.101317; Watts, T. W., Jenkins, J. M., Dodge, K. A., Carr, R. C., Sauval, M., Bai, Y., Escueta, M., Duer, J., Ladd, H., Muschkin, C., Peisner-Feinberg, E., and Ananat, E.,“Understanding Heterogeneity in the Impact of Public Preschool Programs,” Monographs of the Society for Research in Child Development 87, no. 4 (2023), https://doi.org/10.1111/mono.12463. ※12:Guttmacher, A. E., The NICHD Study of Early Child Care and Youth Development (US Department of Health and Human Services, 2006), https://www.nichd.nih.gov/sites/default/files/publications/pubs/documents/seccyd_06.pdf. ※13:Gillispie, C., Young Learners, Missed Opportunities: Ensuring That Black and Latino Children Have Access to High-Quality State-Funded Preschool (Education Trust, November 2019), https://edtrust.org/wp-content/uploads/2014/09/Young-Learners-Missed-Opportunities.pdf. ※14:Friedman-Krauss, A., and Barnett, S. W., Special Report: Access to High-Quality Early Education and Racial Equity (National Institute for Early Education Research, 2020), https://nieer.org/research-library/special-report-access-high-quality-early-education-racialequity.
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