Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c1b3a300b8a547897fa791d615165ef0fd0b23f1
ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが、ニューデリーを訪問して見聞したところに基づき、米国とインドの関係は悪化しているが、インドの指導者は引き続き米国と協力していくことを欲しているという論説を書いている。要旨は次の通り。 新たな駐インド大使セルジオ・ゴア(前ホワイトハウス人事局長)は大火災の嵐の中に飛び込むことになった。50%の関税を課せられ、H-IBビザに10万ドルの手数料を課せられ、インドの世論は急激にトランプに敵対的となった。 さらに悪いことに、多くのインド人はトランプ政権がパキスタンに傾斜しつつあると信じている。ムニール(陸軍参謀長)による2度のホワイトハウス訪問に、多くのインド人が唖然とし裏切られたと感じた。 しかし、モディをはじめ、インド政府、野党、ビジネス・リーダーとの会見で、自分(ミード)は一貫したメッセージを聞いた。インドの政治・ビジネスのリーダーはなお米国と協力することを欲している。 米国がインドとの関係を深めることは、それほど難しくはないであろう。貿易については、多くのインド当局者は米国との残るわずかな違いは解決できると信じている。インドの交渉者にはレッドラインがある(ニューデリーの農業ロビーはワシントンよりも強力である)が、双方の側の交渉者は、取引は手の届くところにあると言っている。 皮肉なことに、米印を最も分け隔てている二つの問題は、双方の利益が最も一致している問題である。双方とも中露の連携は安全保障上の脅威と見ており、両国を引き離したいと思っている。また米印は、中国のインド洋における軍事的・経済的・政治的な影響力の増大が脅威であることで見解を同じくしている。
現在の騒動にかかわらず、トランプ政権は両国関係を新たな水準に引き上げることができる。テクノロジー政策では、米国、インド、およびイスラエルや日本のような友好国との緊密な関係を築くことは、戦略的分野でのリーダーシップに向けた中国の努力に対抗する道筋を提供する。 地域的な問題についての両国の利益は一般に整合的である。ネパール、バングラデシュ、ミャンマー、モルディブ、スリランカをその軌道内に引き込もうとの中国の努力は両国にとって脅威である。インド洋政策をインド、日本、豪州のような友好国と調整する米国の努力は、共通の安全を増進しニューデリーとの信頼関係を深めるであろう。 パキスタンについても、両国関係は改善の方向にある。冷戦時代には、米国はパキスタンをソ連に対する同盟国として重宝していた。しかし、現出しつつある中国との冷戦では、パキスタンは北京を選んだ。トランプが長期的に好む国とはならないであろう。 米印関係の改善は大統領にとって最も重要な業績の一つとなろう。それに失敗することは消すことのできない彼の経歴の汚点となろう、トランプがそのための方途を見出すことを希望する。 * * *
米印が本当に求めていること
トランプ政権による、インドのセンシティビティを考慮しない、また事前の協議もない唐突な行動は、非常に良くないことである。インドとの関係の悪化に伴い、インド洋地域に対するトランプ政権の基本的な戦略が見えない状態になっていることも非常に良くない。 トランプ政権としても、このままで良いとは考えていないであろう。この論説によれば、貿易交渉は妥結に近づいているようであるから、まずこれを早く落着させるべきである。 ロシアの石油を買い続けていることを理由に課した追加の25%の関税については(8月27日に計50%の関税が発動された)、10月22日、ロシアの石油企業RosneftとLukoilに対し制裁を発動したことにより、トランプ政権にはこの関税を考え直す余地も生じたのではないか(インド企業はこの制裁を受けてロシア石油の購入を停止したとの報道もある)とも思われ、これも落着させるべきである。 一方、インドにも考えるべきことがある。8月31日、モディは天津で開催された上海協力機構首脳会議に出席し、習近平・プーチンの両氏と握手し、写真に収まり、あたかも多極化世界での結束を演出したかのようである。
インドの国際関係のビジョンは中国のそれとは異なるはずである。インドにとって、注意深く構築されてきた米国との戦略的パートナーシップを放棄する利益は何もない。米国との関係は構造的なものである。 米印は、中国の覇権の野心を掣肘(せいちゅう)することに共通の利益を有する。インドが大切に考える戦略的自律性は多極化世界の極の間を揺れ動くことではなく、米国との強固な関係を維持しつつも米国に呑み込まれることなく自身の利益を追求する空間を確保することにあると思われる。以上は、トランプ政権にインドの価値を認めさせる上で重要なことと思われる。
インドに求められること
1980年代には、インドと中国の国内総生産(GDP)はほぼ同じ水準にあった。現在、インドはGDPで世界第5位の大国であるが、中国のGDPはその5倍に近い規模である。経済・軍事・テクノロジーの面で、両国の懸隔は甚だしく大きい。 インドにはこの懸隔をできるだけ縮める努力が求められている。このことは、インド・太平洋における安定的な力のバランスを維持する上でのインドの価値をトランプ政権に認識させる上でも重要なことと思われる。 日米豪印のQUAD(クアッド)の次回首脳会議がインドで予定されているが、これが早期に(年内にも)実現され、米国とインドの関係が再び軌道に乗ることが期待される。
岡崎研究所

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