Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/5da4fac1778e4b414148e0a4cb4f36be3cc49630
2026年1月2日付フォーリン・ポリシー誌で、ロバート・マニングらは、26年に世界が直面する地政学的リスク10について解説し、世界は不安定化すると論じている。 今年の主要リスクの幾つかが25 年に予想されたものと共通しているのは、危機が継続しているからである。トランプ政権のリスクは想像していたよりも速く現れた。中国と台湾の問題は、今年の地政学的リスクのトップには含まれず、トランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談後に緊張が高まる可能性は低い。 世界は長期にわたる空位期間にあり、不安定で、分断は進み、争いはむしろ激化している。従来の新自由主義的なルールに基づく仕組みは崩れ、パワーは分散し、世界の多くの国が、三つの略奪的で修正主義的な大国に対する新たな多国間体制を求めている。 第一のリスク:トランプによる経済の泥沼化。人工知能(AI)が米国の経済成長、株上昇を支えているが、金融資産は過大評価され、AIによる生産性向上はまだ得られていない。この状況はかつてのサブプライムローン危機を思い起こさせる。 第二のリスク:秩序の崩壊。今は、衰退しつつあるリベラル秩序とその後に現れるものとの間の空位期間にある。トランプが旧体制を破壊し、ロシアや中国がそれを潰そうとしている。 第三のリスク:米国の西半球への重点移動。トランプは国家安全保障戦略の中でモンロー主義のトランプ的帰結を主張し、メキシコのカルテルに対する脅しやベネズエラの政権交代を掲げた。コロンビアやキューバへの厳しい関税や制裁が来るかもしれない。トランプがベネズエラに軍隊を派遣し、マドゥロ大統領を打倒する可能性がある。 第四のリスク:第三の核時代。大国間の競争が新たな核リスクを生み出し、米国、ロシア、中国の三大国は核兵器の備蓄の増強や新たな核実験を目指している一方で、拡散の脅威がイラン、サウジアラビア、日本、韓国に広がっている。 第五のリスク:Z世代の反乱。Z世代はインターネット検閲、政府の腐敗、雇用不足に幻滅し、24年以降、バングラデシュ、マダガスカル、ネパールでは若者主導の抗議の津波が政府を倒した。こうしたZ世代の影響は世界中に波及するだろう。 第六のリスク:ウクライナ後、力を得るプーチン。ウクライナ戦争のような通常兵器による紛争は、最初の年に解決しなければ、10年続く傾向がある。3年間の戦争後、ロシアは優位に立ち、ドンバスを強制的に奪取するか、和平合意で譲り受けない限り和解する可能性は低そうだ。
第七のリスク:気候問題の衰退。気候変動への対応策が弱まる深刻なリスクがあり、最も被害を受けている国々がその影響を受けることとなる。米国が気候変動対策に反対しているので、再生可能エネルギー分野での主導権を中国が握っている。 第八のリスク:危険な中東。この地域の最も長く続く問題であるガザとイランは、平和に近づくよりは、紛争の再燃に近づくかもしれない。 第九のリスク:AI:大いなる破壊者。AI は医療面で便益をもたらすが、多くの既存の職を無意味化することで、新たな社会的混乱を生み、民主主義の崩壊に寄与する。 第十のリスク:不安定なアジア太平洋。米中関係は26年内は安定しているだろう。安全保障上の紛争リスクはむしろインド・パキスタン間の緊張にある。 * * *
《力》の要素が強まる時代での日本
フォーリン・ポリシー誌の年初の「地政学リスク・トップ 10」についての記事である。10のリストの中で、経済リスクを重視し、中国リスクを楽観視している。この記事は、米国によるベネズエラへの軍事作戦の一日前に掲載されたが、そうした行動に出る可能性も視野に入れられていた。 記事の題名は「混沌の時代の到来」であるが、多くの識者が同様の予想をしている。「地政学上のワイルド・ウェスト」という表現もなされている。 ワイルド・ウェストとは、米国の西部開拓時代を指し、ルールがない無法地帯、保安官がいても法に従わない無法者(アウトロー)が跋扈(ばっこ)する弱肉強食の世界である。国際関係の構成要素を《力》《ルール》《理念》の三つと捉えるならば、《ルール》の支配する領域が縮小し、《力》の支配する領域が拡大していることを意味する。 この記事は、総論部分で「三つの略奪的で修正主義的な大国」と記し、米国はロシア、中国とともに《ルール》を破り《力》によって自らの目的を達成しようとする存在と捉えられている。米国のそうした姿は、ベネズエラへの軍事作戦で如実に現れた。 そうした中、日本はどう行動すべきか。日本にとって《ルール》が大切なことは言をまたないが、《力》の要素が強まる時代にあって《ルール》を守ろうと主張するだけでは対応策にならない。反対に、自らが「略奪的で修正主義的な大国」の三カ国に対峙する《力》の実体となるのはどうか。
論理的には可能であるが、財政的にも国民感情からも現実的ではない。それでは、これら三カ国以外のミドル・パワーで力を合わせて対抗する余地はあるか。 分野によっては一定の行動は取れるだろうが、安全保障については、これら三カ国のいずれかが「略奪的で修正主義的」な行動を取ろうとする際に効果的に対抗することは難しかろう。だとすれば、これら三カ国のいずれかと緊密な関係を築くしかない。日本を取り巻く脅威の状況、価値観と共通利益からすれば、米国という選択となる。
米国にとって役立つ存在に
その意味で、「地政学上のワイルド・ウェスト」にあって、日米同盟はこれまでにもまして重要となっている。それは、日米両国が同じ価値観を共有しているという美しいストーリーから導き出されるのではなく、また、米国が日本の信頼を置く保安官だからでもなく、「略奪的で修正主義的な大国」の三カ国の中で、それが日本にとって相対的に有利な選択であるからということに他ならない。 これは、日米同盟に対する見方をアップデートすべき必要性を示唆する。相互信頼という紐帯にばかり頼るわけにはいかない。どこかで背負い投げを食らう可能性もある。 相手にとって役に立つ存在でなければ捨てられる可能性もある。それだけに、自分の力を強くして、相手にとって不可欠であって、無視したり切り捨てたりしにくい存在になる。 そうしたしたたかさが必要である。それにより、日本の近くに存在する「略奪的で修正主義的な大国」が《力》を使ってアジア太平洋地域で勝手なことをしないよう関与してもらわなければならない。 日本では、現在の米国に対して懸念と反発の声がある。米国の現状を見れば、米国を頼りにできないと思う気持ちも米国から離れたいと思う気持ちも理解できる。一方、そうした方向に進もうとするのであれば、「地政学上のワイルド・ウェスト」でどうやって自分の利益を守っていくかの方策がなければならない。
岡崎研究所

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