2026年1月16日金曜日

遺体が横たわるエベレスト、それでも登頂を目指す理由とは

 Source:https://www.cnn.co.jp/travel/35242582-3.html


エベレストの「ヒラリーステップ」を登る登山者=2021年、5月31日/Lakpa Sherpa/AFP/Getty Images

エベレストの「ヒラリーステップ」を登る登山者=2021年、5月31日/Lakpa Sherpa/AFP/Getty Images

(CNN) ぶ厚い雲が空を埋め尽くし、風速44メートル以上の凍てつく風が雪を運ぶ。零下34度という極寒の中、生命を脅かす吹雪や雪崩が頻発する。

これが世界最高峰を誇るエベレストの典型的な気象条件だ。

ヒマラヤ山脈にあり、ネパールとチベットにまたがるこの巨大な山は、標高8849メートルで、その頂上は空に浮かぶほとんどの雲より高い。

エベレスト登頂を試みるには、数カ月、時には数年にわたるトレーニングと体調管理が必要だが、それでも登頂できるとは限らない。事実、エベレストでは300人以上が亡くなっている。

それでも毎年春になると、この山には頂上を目指す何百人もの登山者がやってくる。ここでは、登頂に必要なこと、そして世界最高峰の登頂に成功した登山家のモチベーションを紹介する。

「自分の体調はかなりいいと思っていた」

外科医のジェイコブ・ウィーゼルさんは1年近く体調を整え、2023年5月にエベレスト登頂に成功した。

ウィーゼルさんは「私は約22キロのバックパックを背負い、昇降運動マシンを使った運動を何の問題もなく2時間行えたため、かなりいい状態だと思っていた。だが、自分の健康状態がこの山で要求される高い運動能力には見合っていないと知って謙虚になった」と語った。

ウィーゼルさんは「5歩歩いたら、30秒から1分かけて息を整えなければならなかった」とエベレスト登頂中の酸素不足との闘いを振り返った。

登頂を目指す登山者は通常、エベレストに到着すると、薄くなった酸素濃度に肺を適応させる。登山者はエベレストにある四つのキャンプのうちの一つ目に登り、そこで1~4日過ごしてから下山する。

この工程を少なくとも2回繰り返すことで、体が酸素濃度の低下に適応できるようになり、登山者の生存と登頂の可能性が高まる。

「もし誰かをエベレストの高所にあるキャンプに放り込んだら、10分から15分で昏睡(こんすい)状態に陥るだろう。そして、酸素濃度の低さに体が適応できず、1時間以内に死んでしまう」

ウィーゼルさんはキリマンジャロ(5895メートル)など何十もの山の登頂に成功しているが、どれもエベレストの高所とは比べものにならないという。

エベレストの最高高度で人間が生命を維持することはほぼ不可能であり、ほとんどの登山家は標高が7000メートル程度を超えると補助酸素を使用する。酸素不足は、登頂を試みる登山者にとって最大の脅威の一つであり、エベレストの「デスゾーン」に到達すると酸素濃度は40%未満にまで低下する。

エベレストのベースキャンプで撮影された数十人の登山者たち=24年、4月18日/Purnima Shrestha/AFP/Getty Images

エベレストのベースキャンプで撮影された数十人の登山者たち=24年、4月18日/Purnima Shrestha/AFP/Getty Images

「あの場所で生き残るのは難しい」

登山家たちが最初に目指すのは標高約5150メートルにあるベースキャンプで、たどり着くまでに2週間ほどかかる。その後、残り三つのキャンプへと登っていく。

登頂前の最後のキャンプである第4キャンプは標高約7900メートル、デスゾーンの端に位置する。登山者は極端に薄い空気、氷点下の気温、そして人を山から吹き飛ばすほどの強風にさらされる。

ウィーゼルさんは登山者の遺体のそばを通ったことを思い返し、「あの場所で生き残るのは難しい」とCNNに語った。亡くなった登山者の遺体は保存状態がよく、強烈な寒さのためにほとんど腐敗しない。

高地脳浮腫(HACE)は登頂を試みる登山者が直面する最も一般的な病気の一つだ。

HACEは、安定した酸素濃度を取り戻そうとして脳が膨張し、眠気や発話障害、思考障害を引き起こす。かすみ目や散発的な妄想を伴うことも多い。

ウィーゼルさんは友人の声が背後から聞こえてくるような幻聴や、子どもたちや妻が岩から顔をのぞかせたような幻覚も見えたという。

ウィーゼルさんは、負傷のため山に取り残されていた友人のオリアンヌ・エマールさんとすれ違ったことを思い返した。エマールさんは生き延びたが、救助されたとき、手にはひどい凍傷を負い、足の骨が何本も折れていた。こうしたけがにもかかわらず、エマールさんは幸運な人だと捉えられている。

エベレストの山頂をめざして山を登る登山者たち=21年、5月7日/Pemba Dorje Sherpa/AFP/Getty Images
エベレストの山頂をめざして山を登る登山者たち=21年、5月7日/Pemba Dorje Sherpa/AFP/Getty Images

「遺体が山に凍り付く」

エベレストは長い間、過酷な環境条件や斜面での事故に屈した登山者たちの墓場になってきた。

2014年にエベレストに登頂した山岳コーチのアラン・アーネットさんによれば、大切な人や仲間が登山中に重傷を負ったり死亡したりした場合、救うことができなければ置き去りにするのが慣例だという。

アーネットさんは「ほとんどのチームはその登山者への敬意から、遺体を見えない場所に移動させる」と話す。ただし、それは可能な場合に限られる。悪天候のため、あるいは遺体が山に凍り付いてしまうため、移動するのが現実的でない場合もあるという。

ガイドをしていた12人のシェルパが雪崩によって死亡した、エベレスト史上最悪の死亡事故から10年。23年はエベレストで最も死者が多い年となり、18人が死亡、うち5人はいまだ行方不明だ。




エベレストの山頂をめざす登山者たち/Pemba Dorje Sherpa/AFP/Getty Images

エベレストの山頂をめざす登山者たち/Pemba Dorje Sherpa/AFP/Getty Images

「8800メートルの山頂から日の出を見る」

第4キャンプから山頂までの約900メートルの行程には14~18時間かかる。そのため登山者は通常、夜にキャンプを出発する。

ウィーゼルさんは頂上からの景色を人生で見た中で最も美しいものの一つだったと語る。

「そこに立っていると地球上のすべてのものが自分の立っている場所より下にあることを知って不思議な気分になる」

ウィーゼルさんは山の大きさに謙虚になると言う。「これほど(自分を)小さく感じたことはない。謙虚さと自分よりも大きなものとのつながりが入り交じるこの場所では、地球上での自分たちの存在に近づくことができる」

登山者は通常、約20分から1時間後に山のふもとまで下り始める。

ジェイコブ・ウィーゼルさん/Jacob Weasel
ジェイコブ・ウィーゼルさん/Jacob Weasel

「得られる喜びはたくさんある」

アーネットさんは3度挑戦した後、エベレスト登頂に成功した。

アーネットさんは「最初の3回の挑戦は理由がはっきりしなかった」が、アーネットさんの母親がアルツハイマー病と診断されたとき、登頂の目的を変えた。「登頂してアルツハイマーのための寄付金を集め、母を称(たた)えたかった」

アーネットさんによると、2024年にネパール政府から入山許可を得たのは約300人。その数は例年より減っているという。

アーネットさんはその理由の一つを、23年に18人の死者が出たことでエベレストが危険な山だと認識されたからだとみている。

一方でアーネットさんはそれが登頂を試みる登山者をためらわせるものではないと考えている。「このような山に登ることで、より良い自分になって帰って来ることができると信じている」

アーネットさんは、エベレストは「死体の上を歩く」「ゴミが散乱している」などと過剰に宣伝されているが、現実にはそれらは小さなことであり、人々がエベレストを登ることで得られる喜びはたくさんあると語った。

本記事は2024年5月4日初出の記事を再編集して掲載したものです。


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