Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/87fab7271f1afcc6366b922e1e9ff4f761917dce
若年人口の減少が止まらない韓国で深刻化しているのが、第一次産業の人手不足だ。外国人労働者がいなければネギ1本すら収穫できず、そのまま腐らせてしまう地域もあるという。しかし、外国人労働者は賃金の高い製造業で働きたがり、農業や漁業の現場に人材は流れてこない…。決して他人事ではない、少子化国家で起こる危機的な未来とは?※本稿は、ノンフィクション作家の菅野朋子『韓国消滅の危機 人口激減社会のリアル』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 韓国人の雇用は守りつつ 外国人労働者を受け入れるEPS EPS(編集部注/人手不足を解消するため、2004年から韓国で始まった低熟練外国人労働者の受け入れ制度)には誰でも応募できるわけではない。 まず、韓国語の試験にパスしなければならない。基本的な会話ができることを目的とした試験で、200点満点中80点以上が合格だ。ネパールから来たアニル(38歳、仮名)は半年間、韓国語が話せるネパール人の家庭教師について勉強したそうで、ほぼ満点に近い成績だった。 この取材も、時々英語で補足することはあったが、基本的に韓国語で行っており、会話には問題がなかった。真面目な性格が窺える。 試験に合格すると、健康診断がある。問題がなければネパール側のEPSに登録され、承認を受けると、登録した内容が韓国側と共有される。 雇用主の李は、韓国人への求人活動をまず行い、従事する者がいないことを確認した後、雇用許可申請を行っている。この韓国人への求人はEPSを利用する前の条件だ。仕事を外国人労働者に奪われているという国内の批判を取り入れたものになっている。
許可が下りると、応募者の書類をいくつか審査し、その後、良いと思った応募者と仕事の内容についてのやりとりを交わし、相手(外国人労働者)が同意すれば契約成立となる。 その後雇用者はE-9ビザ(編集部注/専門分野がなくても韓国で働ける、非専門就業ビザ)を政府に申請し、支給されれば、晴れて外国人労働者が入国する手順を踏む。 ● 農業、畜産、漁業などは 外国人がいないと崩壊する 入国した外国人にはひと月ほどの研修期間が設けられている。その間に韓国の文化などについて学び、銀行口座を作り、携帯電話を購入して通信会社と契約する。 アニルはモバイルバンキングを通して送金しているといい、父親はその資金で農地を購入したそうだ。李の妻が「ネパールに帰ったら名義は自分のものにしないとだめよ」と何度も念を押していた。 EPSで働きに来た外国人労働者が韓国で働ける期間は3年間。双方が合意すれば再雇用が可能となり、1年10カ月間延長できる。ただ、延長するにはいったん母国に帰国してから再入国するという決まりだ。 アニルは2025年11月で契約が終了するが、李は延長するつもりだと言い、アニルにも「延長するよね」と確認するような口ぶりだった。何度も提案していたのだろう。 「農業や畜産、漁業もそうですが、外国人労働者がいなければ成り立ちません。韓国人を雇うなんて無理ですよ。就職難だといいますけど、この分野にはなり手はいません。ただ、外国人労働者とは相性もありますし、アニルのようないい人材にはなかなか出会えない。延長してもらわないとこちらも困ります。家族も連れてきて韓国で養豚業をずっとやってほしいくらいです」 ● 外国人労働者を確保できずに 不法滞在者を雇う農家も 韓国では外国人労働者を受け入れるために、様々な制度を用意している。そのひとつが、「外国人季節勤労者制度」だ。 2015年、農・漁業の現場で繁忙期に必要な人員を短期間受け入れる事業が試験的に始まり、17年に導入が本格化された。当初は90日間だった在留期間は段階を経て、現在は最大8カ月間まで延長されている。また、結婚移民者の家族は、現在4親等まで10人を季節労働者として招待できる。韓国の地方自治体と労働輸出国の自治体がMOU(基本合意書)を結び、雇用は農家などが請け負う。
一方、「公共型外国人季節勤労者制度」は、各農協が雇用し、農家に派遣する。宿所は自治体が用意し、形態はワンルームや寄宿舎型の低層アパートなど様々だ。どちらも月給制になっている。 各自治体はそれぞれ他国の地方自治体とMOUを締結しており、1000人単位で受け入れるところや(416軒の農家に1059人を受け入れる計画を立てた慶尚北道英陽郡など)、外国人の季節労働者を管理するシステムを導入した自治体もあり、労働市場における存在感が増しつつある。 ただ、自治体か農協への負担が大きくなったことで、業務が増え、対応ができず、逆に人材確保が難しくなっている地域もある。 2025年春、珍島で収穫後に整理されるはずのネギが無残にもそのまま転がっている様子が撮影された。季節労働者の雇用人数が不足したため、処理しきれずあふれてしまったものだ。農家が希望する人員を農協が確保できなかったことが原因で、農家はやむなく不法滞在者の外国人労働者を雇っていたが、取り締まりに遭い、作業が間に合わなくなった。農協側は、「離脱者の管理などのリスクもあり、採用人数を減らすほかなかった」と話していた(「農民新聞」2025年4月10日)。 逃亡する季節労働者は増えているといわれ、入国後、いったんは働き場所まで来ても、その後、しばらくして消えてしまうという。ほとんどの場合は、ブローカーが介在しており、手取りが100万ウォン(約10万円)ほど高くなる製造業の工場などに移るそうだ。 ● 正規雇用が難しい飲食業は EPSに頼りづらい 製造業は、韓国にやって来る外国人労働者の垂涎(すいぜん)の的となっている。EPSを通してやって来た外国人労働者がもっとも多く働くのも製造業界だ。韓国では、特に金型や溶接などの現場では従事者の10%近くを外国人労働者が占めており、外国人がいなければ会社自体を畳まなければならないような事態になっている(「朝鮮日報」2024年6月26日)。 2025年のEPSの採用枠は、前年から縮小した13万人(21%減)となった。しかし、上半期ですでに前年よりも31%減少し、目標の半分ほどになるのではないかといわれる。これは景気の低迷に加え、特定の活動ができるビザや収穫期などの繁忙期に募集される季節勤労ビザなど、就業スタイル別にビザの種類が増えたためだ。また、手続きが煩雑だという声も出ている(「ソウル新聞」2025年6月19日)。
22年より、食堂や宿泊、宅配などのサービス業界の人材不足を解消するためにE-9ビザ対象の業種が拡大された。ところが、採用枠1万3000人に対し、採用者は600人台しかいなかった。雇用手続きが煩雑な上に、フルタイムで正規職として雇用することが原則だが、サービス業の場合は短期のアルバイトとして雇用できる外国人留学生などが好まれる傾向にあるという(「韓国経済新聞」2025年5月15日)。韓国では外国人留学生は条件によって異なるが、週に20時間以内であれば就業は可能だ(日本では週28時間内)。 また、韓国の飲食業は回転が速いことも、EPSの採用に消極的な理由だった。不動産価格の高騰を背景に、人気店であっても家賃の安い他の街へ移転する場合が多い。店をオープンしても“寿命”は平均3.6年といわれる。繁盛していると思った店でもしばらくして行ってみると閉店していた、というのはソウルではよくある話だ。そのような業界で、正規雇用はかなりの負担になる。 ● 不法滞在外国人は 日本の5倍の40万人 韓国では、外国人の不法滞在者が非常に多いという現実がある。 法務省によると、把握されている外国人不法滞在者は2024年で約40万人。これは国内に滞在する外国人265万人の15%ほどに相当する。なかでも3割ほどを占めるのはタイ人で、群を抜いて多い。その後はベトナム、中国と続く。 入国した経緯は、ノービザ特権で韓国に入国した場合が40%を占めており、続いて観光ビザ(20.5%)、EPS(13.3%)の順となっている。 現在、一定期間であればノービザで入国できる対象国は113カ国。アジアでは、日本や台湾、香港、シンガポール、そしてタイなど9カ国だ。 李専任研究委員が語る。 「(不法滞在者は)平昌オリンピック時の一時ビザ緩和から増えて、EPS関連では、就労期間が終了しても帰国しなかったり、途中で職場から離脱したり、就業を継続してしまうケースがあります」 日本では2024年の外国人不法滞在者は約8万人といわれるため、韓国はその5倍の数に相当する。なぜ、こんなにも増えたのだろうか。
先に登場した養豚場経営者の李は、知人が外国人の不法滞在者を雇用していたことを話し、こう漏らした。 「EPSは安心だけれど、必要な時だけ手伝ってほしいこともある。韓国人に募集を出しても人は集まらないから、仕方なく外国人労働者に頼むことになってしまう。彼らは、韓国は賃金が高いからしばらく韓国で稼ぐと言っていたそうです」 ● 「不法滞在者を取り締まるな!」 ニンニク栽培農家がまさかのデモ 信頼性の高いEPSはその分、業者にとって申請のハードルが上がる。即座に集めていつでも手放すことができる不法滞在の労働者は、違法ではあっても“都合がいい”。 そんな現実を物語るように、25年5月には、韓国南部の慶尚南道でニンニク栽培を営む農家らが道庁の前で記者会見を行い、ニュースとなった。彼らが訴えたのは「不法滞在者の集団取り締まりの留保」(「農民新聞」2025年5月16日)。 当局が不法滞在者を取り締まったことで、働き手が集まらないというのだ。ニンニクは6月の収穫期までの期間に集中して農作業を行わなければならない。通常20人ほどで行っていたが、取り締まりに遭い、働き手がいなくなってしまった。デモを行った農家の1人は、「不法滞在者を雇うしかない農家の現状を政府が無視している」とし、こう主張した。 「農作業の期間が短いニンニク農家の特性から季節勤労者制度を活用することは難しい。農協の人材仲介センターから来る人材にも限界がある。不法滞在者を援護するわけではないが、この農繁期に、思ってもいなかった取り締まりに遭って大きな損害を被るかもしれないと思うと、いても立ってもいられない」 より柔軟な雇用形態を選べるようにしてほしいと訴えていた。農協関係者は、ニュージーランドのように観光ビザで入国した外国人にも数週間など期間限定で就業できるような特別法を施行することを提案していた。 また、最近では、銀行口座を持てない不法滞在者たちが賃金を仮想通貨で受け取るようになり、一般の滞在者の間でも急速に広がっているという(「朝鮮日報」2025年5月16日)。
為替相場に左右されず、母国への送金手数料も割安で送金も早いことが人気の理由だ。特に、ドルとの交換比率が1対1に固定されている「ステーブルコイン」の種類のひとつ「テザー(USDT)」が好まれ、「デジタルドル」と呼ばれている。 韓国では外国人労働者への賃金支払いは、勤労基準法により法定通貨で支給することが定められており、仮想通貨での支給は違法だ。 しかし、深刻な労働力不足の中、この流れは止められそうになく、母国へ送金する金額が大きくなれば、外国為替相場の変動にすら影響を与えるのではないかと懸念され始めている。
菅野朋子

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