Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/ace656e1becbf1c4374b55afee7be293e0ea6cd8
ネパール政府は9月4日、フェイスブックやX(旧ツイッター)、YouTube、インスタグラムを含む主要なソーシャルメディア26種類へのアクセスを遮断した。この決定を受け、カトマンズでは若者が中心となって抗議活動が発生した。BBCによると、その5日後の9日には、デモ隊が政府の主要施設を襲撃して火を放ち、政権を打倒した。 こうした混乱の中で、ビットコインのユーザー層から支持を集めていた通信アプリ「Bitchat(ビットチャット)」がネパールで急速に普及し、数千人規模の新規ユーザーがダウンロードする動きが見られた。このアプリはBluetooth MeshとNostrプロトコルを利用し、ビットコインのピア・ツー・ピア構造を模倣した仕組みになっている。 Bitchatは7月7日にリリースされた。当初はオープンソースの協力者による「週末プロジェクト」として公開され、Cash Appを提供するBlockの共同創業者でCEOのジャック・ドーシーがiOS版を開発した。Android版は「Calle」と名乗る匿名のオープンソース開発者が構築・拡張しており、この人物はビットコインに特化した技術者とされている。 Bitchatは、Bluetooth Meshネットワーク上で動作する分散型のピア・ツー・ピア通信アプリで、同じエリア内の利用者同士に限定して利用できる仕組みとなっている(アプリの総利用者数は把握できず、特定地域で同時にアクセスしている人数だけがわかる)。特筆すべきは、利用にあたって名前や電話番号、サーバー、さらにはインターネット接続すら必要としない点だ。 SNSの遮断に続いて、ネパール全土でのインターネットの遮断が懸念される中、人々はRedditなどのプラットフォーム上でBitchatの利用を推奨している。「r/Nepal」と名乗るユーザーは「これは、人気のチャットサイトがいくつか使えなくなる程度の話ではない。それだけでも多くの人にとってはネットが使えないのと同じだろうが、私が言っているのはインターネットそのものが完全に止まる可能性のことだ」と投稿している。ネット上で数多くの代替手段が話題になる中、Bitchatは特にオフライン状態で使用可能な点で際立っている。 ■政情不安を抱えるインドネシアでも人気に 開発者のCalleがXで明らかにしたところによると、ネパールからのダウンロード数は8日の一日だけで4万8000件を超え、その日に行われた全インストール数の38%以上を占めたという。Bitchatは世界各地で利用者が拡大しており、政情不安を抱えるインドネシアでも1万1323件以上のダウンロードを記録し、2番目に大きなユーザー層となっている。 「先週はインドネシアの全国的な抗議活動の間に、ダウンロードの急増を確認した。そして今はネパールにおける政府の腐敗とSNS遮断に抗議する若者たちのデモに伴って、さらに大きな急増が見られている。フリーダム・テックは人々のためのものだ。ぜひ広めて欲しい」とCalleは10日のXの投稿で語っている。
Bitchatは新たな形の匿名性の高い安全な「商取引」も切り開く
従来型の通信アプリがサーバーや中央集権型のネットワークに依存しているのと違い、Bitchatのハイパーローカル型のBluetooth Mesh方式は、サービスが遮断されたり監視されたりする状況で威力を発揮する。 「最悪の場合は、Bitchatが唯一残された通信手段になる可能性もある」と開発者のCalleは、メールでのインタビューで語った。政府の監視や追跡の対象になりやすいプロジェクトであることを理由に匿名で取材に応じた彼は「その点ではビットコインに似ている」と付け加えた。 Bitchatは、ビットコインと同様に検閲を受けにくい仕組みやアクセス性を重視して設計されている。政治的な混乱や金融の抑圧の時代には、中央集権的なプラットフォームを迂回できるツールが真価を発揮する。このアプリは、ビットコインが仲介者を介さずに送金を可能にするのと同様の仕組みを、通信に用いることで、政府がデジタル上のやり取りを制限または監視しようとする状況でも役立つものになっている。ビットコインとBitchatは、同じ理念をそれぞれ異なる形で実現している。 ■ビットコインなどの送金機能も追加へ Bitchatは、まだ完成形には至っていない。開発者のCalleは、インドネシアやネパールでの利用例を受け、このアプリにビットコインやEcashを使った金融機能を追加する計画を明らかにした。目標は、既存の基盤と機能を活用して匿名性の高い金融取引を実現し、Eコマースなど商取引にまで対応させることだ。 さらにCalleは、オープンソースのChaumian Ecashプロトコル「Cashu」を利用し、アプリにビットコインを統合する方針だと語った。このプロトコルは、ユーザーが多様な方法でビットコインを送受信できるようにする仕組みだ。 Calleは、ドーシーがこの新しい通信アプリを公開するよりもはるか前からCashu関連の研究に関わっていた。Cashuを用いれば、絵文字にすらビットコインの額を埋め込むことが可能になる。ビットコインの送金に必要なのは数字と文字だけであり、中央集権的な決済プラットフォームは不要だ。メッセージがネットワークに届きさえすれば機能する。 Bitchatは、ビットコインの「遮断や監視を受けにくい仕組み」と独自の通信基盤を組み合わせることで、混乱期の人々に信頼できるツールを提供する実験を進めている。このアプリはまた、21世紀における新たな形の匿名性の高い安全な商取引を切り開く可能性を秘めている。
Javier Bastardo

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