Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d3cd2ee22ff6d7668fe66e1b8c195b96cb350e9c
国内における過去1年の「結核登録者情報調査年報」が発表されました。アフターコロナで反動増が懸念されていた結核罹患(りかん)率は、今年も10万人あたり10人を下回り、これで4年連続「結核低まん延国」の基準を達成したことになります。
結核患者数の変遷
年間の結核罹患(りかん)率は、ストレプトマイシンが国内製造されるようになった直後の1951年が、記録されている限りの過去最高値で、10万人あたり698人とされています。日本人口の概数1億人で単純計算すると年69万8000人になるので、これがいかに恐ろしい数字か分かります。
結核は、1週間や1か月で治るものではなく、療養に年単位の月日を要しました。当時の死因の第1位は結核で、年間十数万人が命を落としたとされています。亡くなる人があまりにも多かったことから、「亡国病」と呼ばれました。
2024年の1年間に、新たに登録された結核を集計した「結核登録者情報調査年報」が先日更新されました(1)。前年に引き続き10万人あたり8.1人であり、4年連続で「結核低まん延国」の水準を維持しています。
日本結核・非結核性抗酸菌症学会の理事長、佐々木結花氏(国立病院機構東京病院)に、過去・現在・これからの結核についてお話をうかがいました。
これまでの結核対策
「現在、日本は結核低まん延国の状態にあります。これまでの結核対策はどのように評価できますか?」
佐々木『約100年前に北里柴三郎氏らが設立した本学会でも、結核対策について議論が交わされ、早期から法的に結核患者の届出や接触者健診が制度化されました。保健所を中心とした地域結核対策が機能し、診断から治療、服薬支援まで一貫した公衆衛生活動が行われました。この地域完結型モデルは、特に高まん延期の結核制御に大きく寄与しました。』
現在の結核
「当時と比べて結核患者数はかなり減少しましたが、過去の病気と考えてよいでしょうか?」
佐々木『結核を過去の病気とみなすのは早計です。日本では現在でも年間約1万人の新規結核患者が発生しており、これは1日あたり約25〜30人が診断されている計算です。また、結核未感染者の生活空間の中で、咳の強い“結核菌喀痰塗抹陽性者”(※)の方が診断されないまま長期に過ごされると、結核の集団発生が生じることになります。感染性の高い肺結核患者さんの診断が遅れることは、患者さんご本人の重症化を招くだけではなく、周囲の方への感染拡大を招きます。』
- (※)喀痰を顕微鏡で検査した場合、結核菌が検出できる患者さんのこと
日本の結核集団発生は、たとえば高齢者施設や日本語学校などの環境で多く見られます。高齢者施設や医療機関では免疫低下者が多く、診断の遅れにより感染が拡大します。日本語学校や外国人技能実習生の場合、日本で発病して、いつの間にか感染をコミュニティ内で広げてしまいます。
今後の結核対策
「今後の日本の結核対策における課題として何があるでしょうか」
佐々木『若年者における外国出生結核患者数は、特に20歳代において増加傾向です。結核高まん延地域で結核の感染を受けた方が日本においでになり、様々なストレスもあるのだと思いますが、結核発症に至るケースが目立っています。こうしたケースの多くは、母国で既に感染しており、来日後数か月から数年以内に発症する既感染例です。
今回の統計では、20歳代では外国出生者の結核患者数は、前年に比べて3割も増加していることが示されています。ここに対策を講じなければいけません。
佐々木『近年、このリスクに対応するため、日本政府は一部の結核高まん延国を対象に、来日前の結核健診を義務付ける入国前結核スクリーニング、通称JPETS(Japan Pre-Entry Tuberculosis Screening)制度を導入しました。』(2)
JPETSは、スクリーニング対象国から、日本に入国・中長期間在留しようとする者に対して、入国前に指定医療機関において胸部X線検査等を受け、結核を発病していないことを証明する資料の提出を求める制度です。
注意すべき症状
結核は、発症から時間が経過するほど周囲への感染リスクが高まり、患者本人の治療経過も不良となる傾向があります。
持続する呼吸器症状は単なる風邪や気管支炎とは異なる可能性があり、速やかな検査が必要です。
佐々木『結核や非結核性抗酸菌(NTM)症などの抗酸菌症は、いずれも早い段階でケアすることが重要です。2週間以上続く咳や痰、血痰、体重減少などの症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診していただきたいと思います。』
(参考)
(1) 厚生労働省. 2024年 結核登録者情報調査年報集計結果について.(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001547187.pdf)
(2) 倉原優. 6月23日から「入国前結核スクリーニング」が開始 まずはフィリピンとネパールから #エキスパートトピ(URL:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/bbd84eb78cafd5bad24dfada59e096af4fe42f05)

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