Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/849b7415c31e35fb5fea889059a1daaead708419
大阪・関西万博の海外パビリオン建設工事で、多額の工事代金未払いが発生している問題は、今年5月末にアンゴラのパビリオンの電気設備会社が記者会見して表面化した。以降、他の海外パビリオンでも次々と代金未払いの被害者が声を上げる中で、こうしたパビリオンでは工事現場が混乱を極めていたことも判明した。開幕に間に合わせるため滅茶苦茶なやり方で突貫工事を進め、結果、工事代金が払われない実態が浮かび上がってきた。
万博協会(2025年日本国際博覧会協会)は、海外パビリオンについて「すべての請け負い業者に法令を遵守させる責任は公式参加者(パビリオンを出展する各国)にある」とし、万博協会に責任はないという見解だ。しかし、工事代金未払いの被害業者らは「これが国家プロジェクトかと驚く異常な現場だった。管理できていなかった万博協会には、道義的責任がある」と口をそろえる。
中国パビリオンを巡る謎のファクス
万博の海外パビリオンでは、これまでにネパール、アンゴラ、中国、マルタ、ルーマニア、セルビア、ドイツ、アメリカ、インド、ポーランドの計10のパビリオンで工事代金を巡るトラブルが分かっている。このうち、解決したのは参加国側の事情で入金が止まっていたネパールだけだ。
7月初め、在阪の大手メディアに「中国パビリオン、未払い報道に関する声明文」という謎のファクスが送られてきた。中国パビリオンの一次下請け業者からで「中日建設株式会社からは、契約に基づく請負代金を全額受領済みであり、未払いがない事実をここに厳正に声明いたします」と書かれてあった。「中日建設」(名古屋市中村区)とは、中国パビリオンの元請け企業で、電気工事の二次下請けをした神戸市内の会社社長が6月に記者会見し、「中日建設が工事代金を支払わない。いくら支払いを求めても『もう全額払っている』の一点張りで話にならない」と訴えていた。
報道機関に送付された謎のファクスについて、記者会見した社長は「中国パビリオンの問題が報道されると、中日建設の社長から『未払いはないと公表したら半額払う』と連絡があった」と明かす。悩んだ末、一次下請けの会社が報道各社にファクスを送ることにしたという。
その結果、中日建設が払ったのは1400万円だった。一次下請けの会社は1億1000万円の契約のうち中日建設から4500万円しか支払いを受けていなかったが、自社の利益をあきらめ1400万円は全額、二次下請けに支払った。二次下請けの社長は「うちの未払い金は3700万円だった。1400万円は到底足りないが、他にも中日建設の未払いによって追い詰められている業者が何社もあり、そちらの解決を急ぐべきと考えている」と話す。
中日建設について「下請けに変更だらけの大変な工事をさせて支払いを踏み倒しているのに、中国人の社長は涼しい顔をしてロールスロイスに乗って現場に来る。なぜこんな会社が中国パビリオンの元請けをしているのか、建設会社として仕事ができているのか理解できない」と憤る。
中国パビリオンの工事にかかわった関西の会社社長は「中日建設は2024年11月ごろになっても、弱電(電圧の低い電気)の工事業者が確保できていなかった」と話す。強電(電圧の高い電気)の工事をしていた会社が弱電工事も引き受けたが、中日建設は弱電工事代金6000万円も支払っていないという。
この社長は「万博工事は公共工事のようなものだと思って参入した」と振り返り、「とんでもない間違いだった。公共工事では工程も作業員もきちっと管理され、当然、代金未払いなど起こらない。万博工事はすべてが無茶苦茶だった。万博協会はパビリオン建設を開幕に間に合わせることしか考えていなかったのではないか」と指摘する。
オフィスから人が消えたGLイベンツ社
フランス資本のイベント会社「GL events Japan」(本社・東京都港区)は、ルーマニア、セルビア、ドイツ、マルタのパビリオン建設の元請けをし、すべてで工事代金を巡るトラブルを起こしている。下請け業者らがGLイベンツ社に対して支払いを求めている工事代金は4館合わせて約7億円に上る。
6月に4館の被害業者らが記者会見したことでGLイベンツ社による工事代金未払いが明らかになった。被害業者らによると、GLイベンツ社は未払い金を支払うどころか、「契約解除」を通告し、さらにGLイベンツ社が工事現場に集めた外国人職人グループの人件費などを逆に請求して来たという。
中国パビリオンの中日建設と同様、GLイベンツ社も支払いに関する下請け業者の訴えに耳を貸さない。約1億2000万円の被害を受けているマルタパビリオンの建設会社社長は「建設工事では、代金の支払いでもめた時は話し合って解決させる。しかし、GLイベンツ社は話し合いのテーブルにつかない」と嘆く。GLイベンツ社は未払い金額が大きいことや、グローバル企業であることから、大手メディアによる報道が相次いでいるが、事態はまったく前に進んでいない。
7月に2回、被害業者、支援団体関係者、在阪ジャーナリストらで、アジア太平洋トレードセンター(ATC、大阪市住之江区)にあるGLイベンツ社の大阪オフィスに行き、支払いを求めた。2回とも、用心棒らしき男性が出て来て「アポなしお断りです」とにらみを利かせ、責任ある立場の役員や社員は対応しなかった。
8月に入り、被害業者の1人がGLイベンツ社の大阪オフィスを訪れると、スタッフは誰もおらず部屋は空になっており、「逃げたのでは」という情報が駆け巡った。GLイベンツ社は建設の元請けをしたパビリオンの運営も請け負っており、10月13日の万博閉幕まで大阪から撤収できない。未払い問題の被害者らは、追及をかわすために仕事場を移したとみている。
GLイベンツ社は来年、愛知県で開催される「アジア競技大会」で、仮設建物の建設、運営などを請け負っており、組織委員会と630億円の特命随意契約を締結している。組織委員会は工事の状況を相当、厳しく監視しなければ、万博を上回る大惨事が起こる可能性もある。
無許可業者が入り込むお粗末な管理
パビリオンの建設に建設業の許可のない業者が入り込んでいたのがアンゴラのパビリオンだ。4次下請けの無許可業者「一六八建設」(大阪市鶴見区)が工事代金を持ち逃げし、5次下請けの会社は「4300万円の支払いがない」と訴える。
被害者支援に乗り出したNPO法人「労働と人権サポートセンター・大阪」は、万博協会が作成したパビリオン建設のガイドラインを分析。パビリオンはタイプA、B、Cと3種類だったが、1国1館の大型パビリオン「タイプA」の建設が難航し、2023年夏に万博協会が折衷案の「タイプX」を考案した。万博協会が直方体の建物を建てて参加国に引き渡し、参加国は内装と外装の工事を行う。凝ったデザインはできないが、工事期間が短縮されるメリットがあり、アンゴラ、ブラジル、インド、トルコがこのタイプXだ。
ガイドラインによると、タイプAは各国が比較的自由に建設できるのに対し、タイプXは、参加国が行う内装、外装工事について万博協会の管理が厳しい。工事の設計書、施工計画書などの提出が義務付けられ、作業時間も決められている。万博協会は立ち入り検査をして、法令違反があれば是正指示や現場監督者の解任指示ができる。「労働と人権サポートセンター・大阪」の藤原航弁護士は「ガイドラインに基づいて万博協会がしっかりチェックしていれば、無許可業者は工事から外され、代金未払い問題は起こらなかった。万博協会には規制権限を適切に行使しなかった責任がある」と指摘する。
しかし、万博協会は「ガイドラインは法令順守を呼び掛けたもので、万博協会が確認する法的義務を追っているわけではない」と責任は認めていない。
工事代金未払いの被害業者はいずれも中小零細企業で、資金繰りが切迫していることから、国、大阪府、万博協会に未払い金の「立て替え払い」を求めているが、「契約当事者ではない」といずれも拒否されている。
建設業界の人手不足や資材の高騰などを背景に、万博の海外パビリオンは建設業者が決まらず、2023年夏ごろから危機感が高まった。当時の岸田文雄首相は経済産業省や万博協会にはっぱをかけ、大手ゼネコンが乗り気でない事態を受けて、大阪府では吉村洋文・府知事、横山英幸・大阪市長らが地元の建設関連企業との懇談会を開いて中小企業の協力を求めた。吉村知事は自身のXでも「万博成功に向けて、協力しても構わないという地元中小建設会社、設備会社の方がいらっしゃいましたら、こちらまでお願いします」と、万博協会整備局の電話番号を載せて呼び掛けている。
こうした状況から、中小企業は万博工事を「公共工事」と思って参入したが、工事現場は「工程管理が無茶苦茶」「やり直しが多く経費が膨らむ一方」「昼夜を問わず奴隷のように働かされた」とひどい有様だった。
国家プロジェクトでの大失態は万博協会の力不足が一因でもある。国は代金未払いの被害業者に対して、特別な救済スキームを作る責任があるのではないか。

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