Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/91c7bcff729fe58d5cd909606c9ee219b8f11993
中国では、9月3日に北京市で行われる「抗日戦争勝利80年」の記念行事や軍事パレードの準備が着々と進められており、緊張感が高まっている。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記らの出席が発表され、プーチン大統領と金正恩総書記の首脳会談も検討されている。 記念行事や軍事パレードが行われる北京市の天安門広場では、これまでに3回リハーサルが行われ、周辺地域ではすでに大規模な交通規制が敷かれている。博物館などの観光施設が軒並み一時閉鎖となるだけでなく、一部の病院までもが休診となる。北京市から離れた河北省の工場なども、大気汚染を回避するためという理由で操業を一時停止する見通しだ。 国家の威信をかけて行われる軍事パレードは、2015年に行われた70年のパレードを大きく上回るスケールとなる見込みで、ロシア、北朝鮮のほか、カンボジア、ベトナム、インドネシア、マレーシア、ネパールなど、8月31日時点で26カ国の首脳が出席する予定となっている。 パレードには1万人以上の兵士が参加するほか、新型の戦闘機や空母艦載機、弾道ミサイルなどが披露される。ここまでする政府の思惑はどこにあるのだろうか。
中国への出張取り止めも
8月27日、在中国日本国大使館のホームページには以下の文章が掲載された。「中国において、9月3日はいわゆる『抗日戦争勝利記念日』です。日中の歴史にかかわる日は、中国人の反日感情が特に高まりやすく、特に注意する必要があります。外出時には周囲の状況を常に注意し、可能な限りの安全対策に努めてください」 これに続き、留意する点として、「現地の習慣を尊重し、現地の方と接する際には言動や態度に注意する」「外で周囲に聞こえるような音量で日本語を話すこと等は極力控えるとともに、日本人同士で、集団で騒ぐ等の目立った行為は避ける」などが細かく書かれている。 こうしたことから、現地の日系企業の駐在員の中には、当日は一部社員を在宅勤務にしたり、商談のアポイントを別の日に変更したりするといった対応を行うところも出ており、日本からの出張者の中には「(最も敏感な時期である)9月3日から9月18日(満州事変のきっかけとなった柳条湖事件が起きた日)までの間は中国に出張しない」という取り決めをしているところまで出てきている。
中国で積極的に報道されてきた「抗日戦争勝利80年」
日本企業の対中ビジネスだけでなく、中国国内の企業や組織にも大きな影響を与える軍事パレードだが、そもそも中国は、第二次世界大戦で日本が降伏文書の署名した翌日の9月3日を抗日戦争勝利記念日と定めてきた。日本ではあまり知られていなかったが、これまでも同日の前後は「日中にとって敏感な日」であり、中国で日本人は言動に注意が必要だった。 だが、今年は80周年という大きな節目の年。それだけに、中国国内では夏前から関連ニュースをさかんに報道してきた。 日中戦争の発端となった盧溝橋事件が起きた7月7日には、習氏が山西省陽泉市にある「百団大戦」の記念碑に献花した。「百団大戦」とは中国共産党軍と日本軍が大規模に衝突した戦いのことで、中国側の呼称。習氏はブラジルで開かれた主要新興国(BRICS)の首脳会議を欠席して、わざわざこの地を訪れたため、それがニュースになった。 また、7月末からは南京大虐殺を描いた映画「南京写真館」が公開され、8月末までに興行収入28億元(約600億円)を突破、観客数は約8000万人の大ヒットとなっている。
8月からは映画「東極島」も公開された。これは日中戦争の際、東シナ海に面した東極島の沖合で、旧日本軍の輸送船がアメリカの潜水艦に撃沈され、大勢のイギリス人捕虜が海に投げ出されたが、それを中国人の漁民が救出したというストーリーだ。 柳条湖事件が起きた9月18日からは、抗日映画の第3弾として、映画「731」が公開される予定だ。「731」はもともと「東極島」よりも前の7月31日に公開されることになっていたが、明確な理由が公表されないまま9月18日に延期された。 「731」は旧日本軍が戦時中に旧満州(現在の中国東北部)で作った秘密の機関で、細菌兵器の研究などを行ったとされた731部隊のこと。公開前だが、中国メディアによると、残虐なシーンが多くあるという。3本の映画の中で、最もインパクトが強いという情報もある。
軍事パレードがSNSのトレンド入り
これらにより懸念されるのは中国人の反日感情の高まりだ。すでに「南京写真館」を見た子どもが泣き叫んで抗日を訴える動画やコメントが中国のSNSに多数投稿されている。9月3日の軍事パレード当日には早朝から同報道に注目が集まることは必至だ。そうしたことから、冒頭で紹介したように、在中日本人の間でも緊張感が高まっているが、そこまでして中国政府が軍事パレードに力を入れる背景にあるのは何なのか。 予想されるのは、まず、習氏の求心力を高め、中国共産党の正当性を国内の人々に強調することだ。2020年の新型コロナウイルスの流行以降、不動産不況などもあり、中国の経済は悪化の一途を辿っている。それに伴い、失業者が増え、社会に対する不安や不満が高まっている中で、ともすれば不満の矛先が政治、つまり習氏へと向かう可能性もある。 そうした不満を一掃するために、政府は国民に中国の軍事力を見せつけ、中国共産党の正当性を国民に見せる必要がある。不満が国家や党に向かないために、愛国心やナショナリズムを煽るために行うということだ。 実際、中国のSNSでは「93閲兵」(9月3日の軍事パレードのこと)はこの数日間ずっと、トレンドの上位に入っており、非常に注目度が高い。ふだん、政治にあまり興味を持たない人々も、映画「南京写真館」のヒット以降、まるで大きなお祭りの開催でも待ちわびるように、この日を半ば「楽しみに」している人も多い。 むろん、その人々は必ずしも、軍事パレードと抗日、反日を結び付けているとは限らないが、勇ましい軍人の行進を見て「我が国はすばらしい」と感じ、「気分が高揚する」「スカッとする」という人は多い。
世界にどのような発信をするか
もうひとつは、国外、つまり世界に対しての国家としてのアピール、宣伝を行うことだ。中国は関税問題などで米国に対抗姿勢を示しているが、軍事パレードを行うことによって「強い中国」を演出するということだ。そのため、ロシアのプーチン大統領が参加することは大きな後押しになっている。 記念行事の際、プーチン氏は習氏の隣席に座るとみられ、各国首脳の席次も映像を通して世界に発信されるだろう。日本からは鳩山由紀夫元首相が出席するとも報道されている。そこで習氏がどのような発言をするかが注目される。 今から約4年前の2021年7月1日、同じ天安門広場の前で、中国共産党は創立100周年を記念する盛大な祝賀行事を行ったが、その際の演説で習氏は、アメリカなどを念頭に「教師面(ずら)をした(西側の)説教は絶対に受け入れない」と強い口調で牽制し、「いかなる外部勢力の圧迫も断じて許さない」と発言した。演説の途中で群衆から大きな歓声や拍手が沸き起こったが、今回はどのような発言をするのだろうか。 9月3日の夜に行われる晩餐会には、中国の90后(ジウリンホー=90年代生まれ)の起業家や俳優など、若者の代表も招待されるという。政府への求心力を高め、国民の不満を解消することは、果たして成功するのだろうか。
中島恵

0 件のコメント:
コメントを投稿