Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/6de39f9f65e623b7038acfea27de463040bc44fe
平均標高が4千メートルを越え、対外的に開放されてこなかった歴史から神秘的なイメージが強い中国チベット自治区。そんな「天空の聖地」が今、空前の観光ブームに沸いている。荘厳な寺院や風光明媚な自然が多く、就職難など中国の熾烈な競争社会に疲れ、癒やしを求める若者たちを引きつけている。6月下旬、中国政府主催のメディアツアーに参加し、変わりつつある秘境の地の今を垣間見た。(共同通信=山上高弘) 【写真】ヤクの骨を原料にした磁器 中国、チベット発展を誇示 経済格差に不満も
▽外国人が旅行するには チベットはインドやネパールなどと国境を接する中国西部の自治区。2021年公表の政府統計によると人口は約360万人で、約9割がチベット族とされる。ただ、実際は自治区外からの漢族の流入が急速に進んでおり、統計は実態を反映していないとの見方もある。 中国共産党は1950年に軍をチベットに進駐させ、1959年にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命。1965年に中国は自治区を成立させた。近年では2008年に中国の統治に反発する大規模暴動が区都ラサで発生した。インド北部ダラムサラの亡命政府によると、2009年から2022年までに157人のチベット人が抗議の焼身自殺を図っている。 自治区内では外国人は自由な移動が制限されている。現在も外国人旅行者の入境には旅行会社経由でパスポート情報などを当局に提出し、旅程などを記した旅行許可証を事前に取得することが必要だ。資格を持ったガイドの同伴も求められ、自由旅行は認められていない。また外国メディアの入境に関しては特に厳しく制限されており、中国政府主催のメディアツアー以外では取材が事実上困難というのが実情だ。
▽観光客数はコロナ禍前の1・5倍に チベットの象徴でもあるラサのポタラ宮前の広場を訪れると、民族衣装のコスプレをして記念写真を撮ったり、スマートフォンでライブ配信をしたりする若者らが目立った。 この日、貴州省から卒業旅行で訪れた女性は「ライトアップされたポタラ宮がきれい」と友人と記念写真を撮っていた。中国では高等教育を受けても職が見つからないなど、若者の就職難が社会問題化している。女性も6月に大学を卒業したばかりだがまだ見つかっておらず「帰ったらまた職探しと思うとほんとストレス。少しでもリラックスしたい」と話した。 自治区の観光客数はコロナ禍前の2019年の延べ約4000万人から昨年は同約6400万人に増加。政府は観光業を基幹産業と位置づけ、ポタラ宮などの入場料免除を通して客足が遠のく冬場の誘客を促進してきた。新たな観光資源も作られ、チベット王に嫁いだ唐の皇女を題材にした屋外ショー「文成公主」は日没後の夜9時半からの開演も4000の座席がほぼ埋まった。
今年6月には自治区の交流代表団が日本を訪問。対外文化交流協会の廖懇執行会長は「チベットは神秘的な面も多いが、現在は対外開放を促進している。日本人観光客にも多く訪れてもらいたい」と話し、観光誘客と交流促進をアピールした。 ▽「世界の屋根」で鉄道開通 鉄道をはじめとした交通インフラの整備も自治区の観光客増をけん引してきた。「世界の屋根」とも呼ばれる自治区は険しい山岳地帯が多いことから交通の整備が遅れてきたが、2006年に開通した青海省と自治区を結ぶ「青蔵鉄道」は観光客が行き来する大動脈となっている。中国メディアによると、今年1月から6月初旬までにチベット行きの観光列車が20本運行され、延べ8千人が乗車して過去5年間で最高を記録した。 2021年6月にはラサと東部ニンチーを結ぶ「拉林鉄道」が開通した。2030年代前半までには四川省成都市と結ばれ、中国の広大な高速鉄道網と接続される。一方、南西部ではラサからネパールの首都カトマンズまでを結ぶ路線建設の計画も進んでいる。
ただ、巨大な輸送手段の整備には、域外との交流人口を増やし、自治区の「中国化」につなげたい中国政府の思惑も見え隠れする。また、鉄道建設を急ぐ背景に軍事的理由を指摘する声もある。自治区は国境を巡って係争があるインドと隣接しており、有事の際の輸送手段となる。実際に中国人民解放軍は2021年に拉林鉄道を使って演習場への兵士の輸送訓練を実施しており、インド側から懸念する声が相次いだ。 ▽「ショッピングモールのよう」 ポタラ宮と並び神聖な場所とされるジョカン寺を囲む「八角街」では、巡礼者が体を地面に投げ伏す「五体投地」で祈りをささげる。しかし周囲は観光客であふれ、中国国内の人気コーヒーチェーンや欧米のファストフード店が続々と進出。伝統的な建築様式は残るが街の様子は世俗的になりつつある。土産店を営む40代女性は「客のほとんどは漢族。コロナ禍前と比べ著しく増加した」と話した。 八角街で古くから仏具店を営む40代のチベット族男性は「漢族経営の店が増え、チベット族の多くは離れた場所に移動した。まるでショッピングモールになってしまった」と残念そうに語った。
歴代のダライ・ラマの居住地だったポタラ宮がそびえる丘に登ると、静寂で厳かな聖地のイメージとは離れ、裏手の公園から大音量のダンスミュージックが聞こえてきた。 × × × 山上高弘(やまがみ・たかひろ) 全国紙記者を経て2018年共同通信入社。2022年から外信部。中国に社命留学中だった今年2月、映画「再会長江」で有名になった雲南省シャングリラにあるチベット族の民宿に泊まったのが思い出。

0 件のコメント:
コメントを投稿