Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/3d71c2ef40e060ee71d7bb5f2c282480d69850cd
AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。 【写真】旅の記録とアイデアあふれるチャイレシピ集 「一番、こだわったのはタイトル。旅がなければ、私のチャイは生まれなかったから」と著者である吉池浩美さんが話す通り、ネパールやインド、東南アジアの旅から生まれたチャイや焼き菓子のレシピと共に、思い出の日々がエッセイと写真、イラストで丁寧に綴られる。人々との交流や目にした景色、土地の匂いまで伝わり、チャイを作りたくなる一冊『旅のち、チャイ』。吉池さんに同書にかける思いを聞いた。 * * * マサラチャイ、ネパールラム酒・シナモンチャイ、フェンネル・オレンジチャイ──。 ページをめくるたびにスパイスが香り、紅茶をミルクで煮出すチャイの深い味が口のなかに広がるよう。そんな吉池浩美さん(50)のオリジナルレシピで味わう仮想ティータイムのお供は、吉池さんによる写真とイラストもたっぷり盛り込まれた旅日記。ネパールやインド、スリランカなど、アジアで暮らす人々の笑顔や風景、街のにぎわいが生き生きと鮮やかに伝わってくる。 吉池さんは長野県東御市でチャイと焼き菓子の店「mimiLotus」を営む。忙しい本業の傍ら、2017年からネパールやインドなどの街中でチャイを淹れ、道ゆく人に振る舞う旅を続けてきた。初の著書は、その思い出と旅から生まれたレシピをまとめた。 「書きためてきた旅の思い出とレシピを一冊の本にしたいという願いがかないました」 吉池さんがチャイに出合ったのは、中学生のとき。学校や社会に馴染めず、引きこもっていた頃、両親の勧めで親戚が住むネパールへ旅立った。 「エベレスト山群を目にしながらのトレッキングは厳しかったけど、シェルパが淹れてくれるチャイに衝撃を受けました。甘ったるくてちょっとスパイシーで、お世辞にもおいしいとは言えません。でも、私にたくましく生きるエネルギーをくれたんです」
大人になり、紅茶専門店での修業を経て、鎌倉に自身の店を開くまでになったが、ネパールでの鮮烈なチャイ体験は記憶の奥に沈んでいた。 「鎌倉のお店が10年経った頃、私は何をやりたかったんだろうと悩むようになって。紅茶の世界に入るきっかけが、ネパールで飲んだチャイだったことを思い出したんです」 本能がパッとひらめいた瞬間だった。吉池さんは準備を整え、ネパールに旅立った。そして、チャイの屋台に何度も通い、自分が淹れたチャイを客に飲んでもらえないかと頼み込んだ。熱意が通じて交渉は成立。スパイスにフルーツやチョコレートを組み合わせるなど、豊かなアイデアあふれる吉池さんのチャイは、大勢の人を驚かせ、喜ばせた。それからの吉池さんは、チャイ用の小鍋や簡易コンロ、材料を抱え、チャイを飲む習慣がある国へ旅することが生きる喜びになった。今は、インド全域をめぐるのが目標だ。 「本場の国で私のチャイを飲んでもらうのは、本当にうれしくて楽しくて、素敵な時間です。チャイを教えてくれたネパールの人たちへの恩返しの気持ちで始めたので、費用はすべて自分持ち。お金をもらうのは何か違う気がして。チャイを振る舞う旅は、私の“ご褒美修業”なんです」 今、日本でもチャイは注目されている。吉池さんは、「チャイは難しくありません。自分らしい味が見つけられる自由な世界です。この本を通じて、旅とチャイの両方に心が躍る楽しさを感じてもらえたらうれしい」と微笑んだ。(ライター・角田奈穂子) ※AERA 2025年2月17日号
角田奈穂子
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