Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c041d111b655b13de0cdc264f7305174d800e9a8
爆増する外国人観光客と地元住民の戸惑い
江戸の町家形式である「蔵造りの町並み」が残された川越市の中心部。隅田川につながる新河岸(しんがし)川を有し、江戸へ物資を輸送する際の要所として栄えた一帯は、古くから「小江戸」と呼ばれ親しまれてきた。 【画像】半数近くシャッターが下り……埼玉県川越市「角栄商店街」 JR川越駅から20分ほど歩くと、当時の賑わいを感じさせる黒い漆喰の建築物が姿を現す。明治中期に大火に襲われた後、町の再建のため、防火性に優れた蔵造りの建築物が多く建てられたのが、今の景観のルーツである。 この″財産″に目を付けた川越市は30年ほど前から官民一体で都市整備を行い、「小江戸」は一大観光地へと変貌した。 年間700万人以上の観光客が訪れる川越市では近年、外国人観光客が″爆増″している。’22年に同市を訪れた外国人観光客は推計で約10万人。それが、’23年は約61万人と実に6倍となった。市の観光課によると、「’24年も前年と同程度の数字になる見込み」だという。関東では浅草と鎌倉・藤沢などと並び「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」の先駆モデル地域として観光庁に指定されている。 だが――急速に増えた外国人観光客に対して地元住民は戸惑いを隠せない。川越では、観光地からわずか一本路地に入ってすぐのところに、住宅街が広がっているからだ。 実際に街を歩くと「外国人観光客がそこかしこにゴミを捨てて困っている」「家の塀にもたれ掛かる旅行者が多い」「日中の騒音に辟易している」という声が方々から聞こえてきた。交通マヒも深刻な問題だ。 「ここ数年、慢性的に渋滞が起きています。市内の多くは片側一車線。歩道からハミ出る旅行者が後を絶たず、渋滞の原因となっている。週末になると、車でちょっとした買い物に出かけるにも苦労するので、大きなストレスになっています」(商店街の店主) 観光客が集中する「一番街」では、駐車場を探す観光客の車が右往左往し、大型の観光バスもやってくる。目当ての店に行こうと車道を横断する観光客も現れ、いつ事故が起きてもおかしくない危険な状況が渋滞の一因となっている。 市も手を拱(こまね)いているわけではなく、昨年6月の議会で約1億2000万円をオーバーツーリズム対策の予算として計上。観光課は、「交通量調査や交通シミュレーションを実施し、適切な交通規制等を検討することや、観光客に対するマナー啓発などの各種対策を実施しています」というが、状況は改善されていない。 ◆17時を過ぎると…… 観光地の商店の多くが“外様”であることも、地元住民からは歓迎されていない。他県の商店街と同様に、一番街商店街も跡取り不足に悩まされてきた。高齢化した店主達は店や土地を手放し、そこに多くの企業が参入してきた。 一番街のさる店主がこう嘆く。 「半数以上が川越にゆかりのない企業の店になり、コロナ禍以降はその流れが加速した。『駐車場にしたら儲かる』と喜ぶ者も出てきた。歴史ある商店街がよそ者ばかりになっていいのか」 それでも観光客にとって川越が魅力的な場所であることは間違いない。戦前は花街だった名残が随所に残り、築100年超の置屋を改装した商店などが評判となり、外国人も列をなす。 香港から来たという20代の女性二人組は、興奮気味に口を開いた。 「まるでサムライの時代に来たよう。ここでゲイシャ遊びが行われていたと思うと、興味深い。関東の観光地の中で、川越が一番日本の歴史を感じられた」 時計の針が17時を指すと、示し合わせたように商店が一斉に閉まり、観光客の姿も見えなくなる。そして、川越の「別の顔」が現れる――。 池袋から電車で30分ほどというアクセスのよさで、川越は人口約35万人を誇るベッドタウンとしても発展した。JR川越駅を降りてすぐに広がる「クレアモール」沿いは、地元民が多く集まるメインストリートだ。約1㎞にわたる商店街は川越八幡宮などの観光地にも繋がっており、多くの人々が往来していた。 繁華街が一つしかないためか、若さを持て余した若年層による犯罪に商店街は頭を悩ませてきた。商店街で聞き込みをすると、’10年代半ば頃まで、ひったくりや窃盗・暴行などが多発したという。主にサラリーマンを狙った「オヤジ狩り」に対して、商店街は大幅に防犯カメラを増設するなどの対策を講じてきた。それでも川越商店街連合会・副会長の木村昌幸さん(62)の表情は暗い。 「10年ほど前から防犯対策に注力し、防犯カメラを30台近く設置しました。一時期より犯罪は減少しましたが、ひったくりやカツアゲなどが完全に無くなったわけではありません」 20時を過ぎると客引きの多さが目についた。クレアモールの両脇に並ぶのは、6割ほどが大手資本のチェーン店である。キャバクラや風俗店は少なく目立たないのだが、不釣り合いなほど、キャッチの数が多い。木村さんはこう続けた。 「川越は客引き防止条例がなく、都心や所沢からその″スキ″を狙ってキャッチが流れてきているんです。高校生を雇っている悪質な業者もいる。本当に迷惑していますよ。4月からようやく客引き防止条例が施行されますが、どれほどの抑止力になるかは読めません」 ◆祭事での「流血沙汰」 外国人による犯罪や小競り合いも増加した。近接市に大型の工場が多いこともあり、川越の外国人居住者は1万人を超える。 クレアモール周辺では、ベトナム人グループの素行の悪さを指摘する声が目立った。また、昨年10月には、地元民を震撼させる事件が発生していた。 市最大の祭事である「川越まつり」が開催された昨年10月19日の午後9時頃。百貨店のすぐ近くで刃物による殺傷事件が起きた。多くの目撃証言が寄せられたが、「実際に現場を見ていた」という男性は当時の様子をこう回顧した。 「ケバブナイフを持った外国人二人が口論になり、一人がいきなり相手を刺したんです。刺された男性は流血がひどかった。すぐにパトカーが来ましたが、恐怖でお祭り気分が吹き飛びました」 現地のトルコ人コミュニティを取材すると、その一人が筆者に強く訴えかけた。 「ほとんどのトルコ人は日本でマジメにやっている。なのに、川越や川口などで悪さをする一部の同胞のために、荒くれ者を見るような白い目で見られる。本当に悔しいです」 一方で、外国人が流入することで恩恵を受けている地域が存在するのも事実だ。東武東上線の川越駅から2駅の「霞ケ関」駅を下車すると、そこには異国情緒あふれる街並みが広がっていた。 駅前の「霞ヶ関ビル」の一帯は「リトルネパール」と呼ばれるほど、アジア系の食材店や飲食店が並ぶ。日本人経営店は数えるほどで、道行く人の多くが外国人だ。 すぐ近くに約1700人の留学生を受け入れている東京国際大学があることが影響しているようだ。駅前で食材店を営むネパール出身のギャワリ・スーレースーさんが言う。 「’17年頃から外国人が急激に増えました。東京国際大学の留学生受け入れ数が増加したためです。ネパール、バングラデシュ、最近ではスリランカ人も多い。留学生向けの安いアパートもこの辺りに集中しています。彼らを相手にするだけで、ビジネスが成り立つほどです」 霞ヶ関ビルから400mほど歩くと、「角栄商店街」が姿を現す。60年近い歴史を持ち、かつては地元住民で栄えたというが、今では60ほどの商店の半数近くがシャッターを閉めている。レトロな趣は目を引くが、近場のスーパーやショッピングモールに客を取られ、閑散としていた。この地で50年間商売を続けてきた老夫婦は、現状をこう明かす。 「(客は)外国人の方も決して多くはないです。ただ、日本人の客も来ないから彼らの売り上げはありがたいですよ」 川越市において、外国人の存在は無視できないほど大きくなっていた。その過程で落とされた「影」とどう向き合うかが、いま試されている。 『FRIDAY』2025年2月7日号より 取材・文:栗田シメイ(ノンフィクションライター)
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