Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3f6d973e457b68bfd0c60dd813a1c42fe1c5f238

日本最古の神社のひとつとされる諏訪大社のことは、おそらく報道番組はもと文化系番組や旅番組など、なにかしらの形で目にしたことはあるのではないだろうか?
ただ、そこでどのような神事がとりおこなれているかを知っている人は限られるのではなかろうか。
ドキュメンタリー映画「鹿の国」は、諏訪大社で脈々と受け継がれてきた、これまであまり表には出ていない「神事」の世界に深く分け入る。
作品でも触れられているが、諏訪大社の祭礼は年間200回を超える。その中でも重要とされる神事では、「ミシャグジ」という精霊が降ろされる。そして、神事には鹿の贄が欠かせない。
精霊?贄?いつの時代のことと思うかもしれない。
でも、時代による変容はありながらも、原初からの神聖さをたずさえた形で続いている。
これは見てもらうしかないのだが、その神事は驚きに満ちている。
手がけたのは、これまでネパールやチベットの文化を中心に取材をしてきた弘理子(ひろ・りこ)監督。
どのような経緯で諏訪大社を取材することになったのか、謎に包まれてきた神事の場にカメラが入ることを許された理由は?
足掛け4年をかけて本作を完成させた弘監督に訊く。全五回/第二回

最初の2年間ぐらいはなにをどうすればいいのかもわからなかった
前回(第一回はこちら)、思いがけない形で北村プロデューサーからバトンをわたされて、諏訪大社の神事を記録することになったことを明かしてくれた弘監督。
ただ、当初は映画になるとは考えておらず、記録の旅ぐらいに考えていたそうだが、そこからどういう経緯をたどったのだろうか?
「少しお話ししたように、諏訪大社の神事は年間200以上あるんですね。
正直なところ、最初に2年間ぐらいは、ひたすら神事を記録していました。
その間に文化庁の助成金を得ることができて、そこで何かひとつ形にしなければと意識し始めました。
ただ、最初の2年間ぐらいはなにをどうすればいいのかもわからなければ、何を作っていいかも検討がついていませんでした。
ちょうどそのころ、『諏訪神仏プロジェクト』(※詳細はこちら)が始まりました。
これもひじょうに興味深い動きだったので、一時はこのプロジェクトも追いました」

その土地の風土に根差して、脈々と受け継がれてきた祈りみたいなものを、
諏訪信仰を通して描けないか
そういった中で、だんだんと見えてきたことがあったという。
「諏訪大社の神事を実際にみたり、話を聞いたり、資料を読んだりしていって気づいたというか。
だんだんと、諏訪信仰の源流が見えてきた気がしました。
四季の祭礼を追う中で、そこにいのちの循環への原初の祈りがあることに気づきました。
日本の原初の祈りが諏訪には今も残っている。古来から続いてきた祈りや信仰が諏訪大社には今でも残っている。
ほかではとっくに消えてしまった原初の祈りが今も続けられている。
そこに気づいたときにさらに興味を抱いたといますか。その土地の風土に根差して、脈々と受け継がれてきた祈りみたいなものを、諏訪信仰を通して描けないかと考え始めました。
まあ、でもほんとうにおぼろげながら道がようやく見えてきた感じで、作品の全体像のようなことはまだこの地点でもみえていなかったです。
季節ごとに、その風土と自然がシンクロした神事が行われていくのですが、春の祭礼が終わったら、『あっ、春が過ぎちゃった』、冬の祭礼がおわったら『どうしようもう冬がきちゃった。1年たっちゃったよ……』と、その都度『どうしよう、どうしよう』と焦っていました」
たぶん諏訪大社の方々も、神事を撮っていいと許可はしたけど、
「この人はいつまで撮り続けるのだろう」と思ってらっしゃったのではないか
2年を過ぎたあたりからだんだんと作品への道筋が見えてきたという。
「さきほどお話ししたようなことを考え始めて、取材を重ねることでだんだんとだんだんと見えてくるものがありました。
たとえば、春4月の75頭の鹿の首がささげられる神事の意味することなどがわかってくる。
そして、長らく畏怖と謎に包まれてきた中世の『御室神事(みむろしんじ)』のことを知って、これを再現してみてはどうだろうかと思いついたとき、『これでなんとか映画になるのではないか』と映画にしようという覚悟が決まった気がします。撮影を始めてから3年目ぐらいのことでしたね。
たぶん諏訪大社の方々も、神事を撮っていいと許可はしたけど、『この人はいつまで撮り続けるのだろう』と思ってらっしゃったのではないかと想像します」
(※第三回に続く)
【「鹿の国」弘理子監督インタビュー第一回】

「鹿の国」
監督:弘理子
プロデューサー:北村皆雄
語り:能登麻美子・いとうせいこう
出演:中西レモン・吉松章・諏訪の衆
全国順次公開中
筆者撮影の写真以外はすべて(C)2025 Visual Folklore Inc.
0 件のコメント:
コメントを投稿